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頭上の城下町 2

「問題はそっちじゃないんだよ。

 お前さ、その騒動の原因て、何か分かるか?」


「・・・・・・・・・・」


 そう問われた男性は、黙り込んでしばらく考えた。

だが、どれほど思考を巡らせても、結局騒動の原因は分からない。

実際に見たわけではない為、分からないのも一因だが、やはり『噂』だけでは断定できない。


ある人は

「万引きをした人を発見した」と言っていたり

ある人は

「兵士にちょっかいをかけた酔っ払いがいた」と言っていたり


 全く違う噂を幾つ並べても、当然真相には辿り着けない。


「実はさ、俺のお袋がその現場を目撃してたんだけど・・・

 兵士達があれだけの騒ぎを起こした原因が、『たった1人のガキ』だったんだとよ。」


「・・・・・はい??」


「俺だってその話をすぐには信じられなかったよ。

 でもさ、その時お袋と一緒にいやおばちゃんも見ていたんだってさ。

 図体だけデカイ兵士2人が、まだちっちぇえガキを相手に、詰め寄っているところをさ。」


「・・・なんだよ、そんだけ兵士って暇なのかよ。

 暇してるくせして、俺達より良い給料もらってるなんて・・・」


「まぁ、それもあるんだけどさ、やっぱりそれっておかしくないか?

 何でそんなガキ1匹に、大の大人が躍起にならなくちゃならないんだ?」


「その子が『万引き』でもしたんじゃないのか?」


「いや・・・それがさ・・・

 お袋の話だと、その子手ぶらだったみたいなんだよ。」


「・・・・・じゃあ・・・何で・・・・・??」


 2人は、頭を抱えて色々と思考を巡らせた。

さっきまでやかましいほど喋っていた2人が急に静かになった事で、他の席で食事やお酒を嗜んでいた人は、ジッと2人を見る。

 だが、いくら2人が思考を巡らせても、その答えが浮かんではこない。誰が考えても同じ。

兵士達だって、少年1人に構うほど暇なわけではない。

 王都では『窃盗』や『万引き』等の事件に加え、王都全体を混乱に陥れる事件の抑止や対策 

 に、やる事は山積みな筈。

にも関わらず、何の罪もない少年を追いかけ回し、捕らえようとするなんて、明らかに不自然である。


 そして、その話で持ちきりになっているのは2人だけではない。

酒場の外でも、お客さんにお酒と料理を提供する女主人が、お客とその話で盛り上がっていた。


「なぁ、あの通りなんだろ。夕方頃に騒ぎがあった場所って・・・」


「店の準備に忙しい時に、勘弁してほしいわよ、まったく。


 しかもその騒ぎの原因っていうのが、たった1人の子供とはね。」


「兵士達の腕も落ちたんじゃないのか?

 子供1人捕まえられないなんて。」


「いやそれがね、お客さん。なんでもその子供は、ただ単に兵士の足にぶつかっただけだったら

 しいわ。」


「は? じゃあどうしてあんな大騒ぎになったんだ??」


 民衆の不安や不信は募るばかりである。

それもその筈、自分達を守ってくれる人が不審な行動をとっていれば、自分達の命を全て任せるのには、抵抗が生まれてしまう。

 兵士に限らず、どんな職業でも、常に周りが見ている。

不審な行動や危険な行動をとれば、周囲からの目が厳しくなり、自分達の仕事に支障が出てしまう。

 自分で自分の首を絞める事になる。

だから、常に周囲を意識した行動を取る事は、働く人にとっては最低限の常識。

 どの会社やどの企業でも、必ず言われる『指導文句』でもある。

特に兵士の場合、民の命をそのまま預かっている仕事・・・と言っても過言ではない。

 だからこそ、兵士達の行動に大勢の人間が不信感を持てば、民の上位に立つ貴族や王族にも、

 何らかの支障が生じる。

その不信感の積み重ねによって、印象はどんどん悪くなっていく。

 2人が兵士に不満を抱いているのも、その不信感の積み重ねによる考えである。


「今までもそうだけどさ、最近の兵士って、妙に態度がデカイんじゃないのか?」


「確かに・・・・・

 俺の両親達も言ってるよ。この前兵士に馬を1匹貸し出したら、


「兵士に渡す馬くらい、上等なものを寄越せ」


 とか言われたみたいでさ。・・・で、俺のお袋もやめとけばいいのに


「そんな事言うくらいなら、別の馬宿に頼みな!!」


 って言ったら、奴ら剣を引き抜こうとしたんだぞ。」


「俺の父さんも言ってた


「昔の兵士達は皆、私達庶民とも馴染みやすい、優しくて頼りになる人達だった」


 ってさ。今だと全然考えられないんだけどな。」


 酒場付近にも、兵士達が巡回に来る。

酔っ払って暴れる人や、無賃飲食をする人を取り締まる為。

 だが、最近の兵士達は、そんな自分達の任務なんて放って、自分達が酒を片手にウロウロして

 いる。

それこそ、どっちが迷惑な客なのか分からない騒ぎになる事も、ここ最近は増えていた。

 しかも、兵士という『身分上』、事件が起きたとしても、大半は解決に至らない。

有耶無耶になって消えるか、あちこちからの圧力で、事件そのものがなかった事になるのも。

 だから酒場にいる人々は、兵士が通りかかるといつも道を開ける。

変に関わると、酔っ払った兵士に、何をされるか分からないから。

 事件になっても相手にしてくれない、むしろ自分達が被疑者になるかもしれない。

それを兵士達も良い事に、まるで王様の如く胸を張って、堂々と道を歩く。

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