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頭上の城下町 1

「なぁ、知ってるか? 

 『王家』の噂。」


「それくらい、この王都にいる奴らなら全員知ってるって。

 あれだろ、今の王家は『偽物』なんじゃないか・・・ってやつ。」


「しっ!!! あんまりでかい声でそんな事言うなって!!!

 ここには、あの虚勢しか張れない兵士達も来るんだぞ!!!」


「お前が言い出した話じゃんか・・・」


 賑わう酒場で、人目を気にしてコソコソと話をしている二人組は、馬車で働く青年達。

こんな話を兵士に聞かれたら、連れて行かれるだけでは済まない。

 最悪、戻ってこなかった・・・・・という『噂』もある。

一人は『魚の油揚げ』を食べ、一人は『クダモノシュ』をグビグビと飲んでいる。

 もう青年二人は成人を数年前に迎えた為、『クダモノミツ』ではなく『クダモノシュ』を飲む

 事が許可されている。

青年二人は、成人になってお酒が解禁された事を喜んでいたものの、同時に大人の義務である『労働』に、毎日ヒーヒー言っていた。

 『馬』の手入れも世話も『体力仕事』であり、毎日毎日、人間よりもずっと力のある馬達を管

 理するのは、若かろうが老いようが疲れる。

怪我なんて日常茶飯事、だが怪我で済むだけならまだ良い方である。

 動物の力をなめてはいけない。

ある意味『命懸けの仕事』でも、2人にとっては生活を支える大事な仕事。

 愚痴を言いながらも、毎日しっかり仕事に打ち込んでいる。

こうして酒場で他愛のない雑談をするのも、2人の『夜のルーティーン』なのだ。


 二人ともこの王都生まれ、王都育ちな為、辺鄙な村や町で育つより、ずっと裕福な生活をして

 いた。

だが、それでもこの王都内だけで、『貧富の差』は目立ってしまうものなのだ。

 特に王都に住む貴族は、村や町をまとめる村長や町長とは比にならないくらい、お金持ちのオ

 ーラを漂わせている。

それもそうだ、取り締まる土地の数もお金も桁違いなのだから。

 だからこそ、『贅沢』や『娯楽』も桁違い。

まるで『ヤドカリ』の如く、宝石やアクセサリーを見に纏い、周囲に存在感を放つ。

 金持ちの馬車が通れば皆が身を引く。汚したり壊したりしたら、それこそ何をされるか分から

 ない。

金持ちが足繁く通うジュエリーショップ等をあえて遠ざける庶民もいる。

 「『貴族』『王族』と繋がりがある」という言葉は王都のあちこちで聞くが、どうせ嘘。

その脅し文句でお金を騙し取ったり、優遇される『狡賢い人間』も、この王都では珍しくない。

 だがこの世界では、それを証明する方法が少ない為、脅された方が渋々相手の要望を受け入れ

 ている。

もし本当だった時が怖いから。


「・・・あ、また今日も来たぜ。あの兵士。」


「あの兵士、確か・・・奥さんいるんだったよな?

 なのに毎晩毎晩、こんな場所で酒飲んでくるなんて・・・」


「兵士ならそれだけで嫁候補が来てくれるからいいよなー」


 そう言いながら、兵士達を睨みつける2人。

2人のもらう給料は、兵士の給料に比べたら半分以下。そうなれば、当然『パートナー』も限られてしまう。

 兵士に嫁いだ女性も若干働くものの、そこまで無理をしなくてもいい、むしろ楽しめるような

 『露店の売り子』や『カフェの店員』をしている。

女性達にとっても、無理をしなくても働ける職は夢であり、兵士と結婚できる事は、それだけで自身のステータスになる。

 しかし、兵士達より収入が少ない庶民の男性達は、ほぼほぼ『お見合い』でパートナーを見つ

 け、結婚してもいつも通りの生活が続く。

婚約したとしても、生活が楽になるわけでない。むしろ『面倒事』を引き受けてしまうかもしれない。

 だから2人にとって、パートナーの存在はそこまで重要でもない。むしろ自分達からお断りし

 ている。

兵士の場合、パートナー探しは簡単な為、すぐ結婚相手が見つかるのだ。何故なら『立候補』が多いから。


「なぁー、まーた俺の親父がさー、『お見合い写真』を持って来たんだぜー」


「はぁ? 何それ、俺に対する嫌味?」


「違うって、「そんなのいらない!!」って何度も言ってるのにさ、『後継』『後継』ってしつ

 こいんだよ。

 うちには継げるような金も物もないのに。

 全く、今の若者の気持ちを考えてほしいもんだよ。」


「本当だよなー。後継を残すのは貴族や王族とかの金持ち連中だけで十分だっつーの。」


 ウダウダと文句を垂れながらも、2人はいつもの気だるい会話を楽しんでいた。

そう。仕事続きの2人にとって、この時間が一番幸せな時間でもある。




「・・・でさ、さっきの話の続きなんだけどさ。」


「あ?」


「ほら、『王家』の話だよ。


 なんでもさ、まだ正式な王家の末裔が、この王都の何処かに隠れ潜んでる・・・

 

 って噂だぞ。」


「はぁ? 

 どこ情報だよソレ。」


「いやな、『別の噂』があってさ。兵士達のなかで機密とされている話があってな。

 なんでも、


 正式な王家の末裔を見つけられた兵士には、『貴族』としての称号を与える


 ・・・ってさ。」


「・・・・・お前馬鹿じゃねぇの??

 そんな・・・末裔を見つけたくらいで貴族って・・・いくらなんでも話が飛躍しすぎてるぞ。

 兵士として成人から老いるまで、ずーっと頑張ったとしても、兵士から貴族に昇格できる人間

 なんて、数年に一度レベルの話だ。」


「いやそれがさ、確証・・・とまではいかないんだけど・・・


 ほら、今日の夕方頃、『市場で起きた騒動』あるだろ?」


「あぁ、俺は見てないけど、母さん達が話してたな。

 なんでも『フードを被った人』は制止したとか。母さんは


「そのフードを被っていた人、実は旅人さんだったらしいよ!」


 とか言ってたけど、本当にそうなのかな・・・?」


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