70・『嫉妬』
「あぁ・・・そうゆう『インチキ覚醒者』の話は、この王都でもよく聞くね。
最悪、『一家離散』・・・なんて話も・・・」
「あははっ。
僕達の両親を騙したインチキ覚醒者も、もしかしたらこの王都にいるかもしれませんね。」
「もし見つけたら、私とクレンが代表してジワジワ捻り潰す。」 「うん。」
「や・・・やめてくださいね・・・
こんな場所で問題起こすなんて・・・」
笑ってはいたものの、リータが無茶して笑っているのは、誰の目から見ても明らかだった。
リータは、葛藤していたのだ。『羨む』気持ちもあれば、当然『妬む』気持ちもある。
何故自分は、両親から愛されなかったのか どうして僕達が
僕達だって愛されたかった それなのに、何故・・・・・
そんな感情が募れば募る程、それは段々と黒くなり、歪んでいく。
それが、俗に言う『嫉妬』
旧世界でも、数多の偉人が『嫉妬』によって命を落としたり、世界的に有名な大失敗を起こし
たり・・・
『7つの大罪』に数えられる程、その存在は人間にとって恐ろしいもの。
だが、リータが抱く嫉妬は、彼自身の落ち度でもなければ、彼自身が悪いわけではない。
グルオフやラーコブも、リータの話を聞いて、何も言えなくなってしまう。
そんな空気が続き、ようやく気持ちの整理がついたクレンが、リータの方に手を置く。
「リータ、自分が君を慰める資格なんて、ないかもしれない。
でも、リータがずっと落ち込んでいる姿を見続けるのは、嫌なんだ。」
「クレンさん・・・・・」
「それでもな、リータ。
自分は君の出生がどうであれ、覚醒者の有無に関わらず、こうして一緒に旅ができている今
を、手放したくないくらい愛している。
自分にとって、君は『弟』みたいな存在だからね。」
「ぼ・・・僕もクレンさんの事、『兄』のように・・・!」
「あははっ、良かった。突然こんな事言ったら、気持ち悪がられると思っててさ。」
「・・・すいません。なんか、話がよく分からない場所まで飛んでしまって・・・
・・・・・で、グルオフとラーコブはどうして・・・泣いてるのですか??」
「グスッ・・・
ご、ごめんなさいね。まさか弟がこんなに・・・大人になっていたなんて・・・」
「リータさん、ありがとう。君の話を聞いて、僕もまだまだ頑張らなくちゃいけない・・・と思
えた。
正直僕もね、この生活のなかで、何度も心が折れそうになったんだ。
でも、こうして君の話を聞いていると、随分僕は自分勝手だったんだな・・・って。
・・・そうだよね、この国には、まだ君のように苦しんでいる人やモンスターが沢山いるんだ
から、彼らを救うのも、僕の役目。
たった一人になってしまった、正当な王家の人間として・・・!!」
翠は、安堵した様子で4人を見つめていた。
4人が出会ったのはついさっきの筈なのに、もう身の上話ができるくらい、互いの距離が縮まっている。
それこそ、翠が間に立たなくてもよかった、余計な心配もする必要はなかった。
翠はようやく、買って来てくれた食事に手がつけられるようになり、もう冷めてしまったけど、『クシトリ』にかぶりついた。
『クシトリ』は、要するに『焼き鳥』
シカノ村でも、露店で売られていた。
冷めて肉が硬くなっていたが、栄養を求めていた脳にとっては、冷めていようが薄味であろう
が関係ない。
クシトリをほんの少しだけ口の中に入れるだけで、食欲が暴走する翠。
そんな彼女の様子を見て、4人もようやく落ち着いて食事をする。
話が脱線したり、余談が多くなってしまったせいで、話し合いはほぼ進んでいないに等しい。
しかし5人にとって、この時間は貴重で大事な時間。
この時間が、いつまでも続けばいい・・・とさえ思える程に。
「だが、まさかミドリが、覚醒者を二人も目覚めさせるなんて・・・
偽・王家が知れば、さぞ焦るだろうね。」
「・・・そんなに私て変かな??」
「いやいや、まぁ・・・『変』か『そうじゃないか』を言われると・・・何とも言えないんだけ
ど・・・
私が言いたいのはそっちじゃなくて、2人を覚醒者として目覚めさせる事ができるなんて、『伝
説レベル』の話なの。」
「『伝説』??」
「えぇ、だってこの国で売り出されている絵本には、必ずと言っていいほど覚醒者が登場する。
でも、『最初から覚醒者だったパターン』と、『後天的になったパターン』もあるの。」
(成程・・・・・
『妖怪退治』や『怪物退治』の話に絶対必須な『ヒーロー役』が、覚醒者・・・て事か。)
昔話や伝説に必ず出てくる『ヒーロー』や『英雄』
翠がかつて生きていた旧世界では、そうゆう人物は『架空の存在』として扱われていた。
昔は存在したかどうかは誰にも分からないが、現代でも『ヒーロー』や『英雄』は、割と身近な存在
である。
特に翠が大好きなゲームやアニメの世界では、『ヒーローもの』はもはや一つのジャンルとして確立している。
それくらい、人は『ヒーロー』を求めているのかもしれない。
「つまりミドリは、そんな伝説をいくつも作ってしまったようなものなのよ。」
「伝説・・・といえば・・・
グルオフ、ラーコ、ちょっと聞きたいんだけど・・・」
いつの間にか『ラーコブ』の事を『ラーコ』と愛称で呼ぶようになった翠は、ふと、ある事を
思い出した。