69・『愛』に飢えし子供達
「・・・でさ、クレン。クレンのお父さんが亡くなったのって・・・」
「・・・全然覚えてない。」
翠が時系列的にまとめた紙を見て、改めてグルオフやラーコブも唖然としていた。
二人は、目まぐるしく変わる『環境』と『情報』に振り回された結果、自分達が一体何年生きたのかも分からなくなる程、相当頑張ってきた。
まるで、無人島で自給自足の生活をしているように。
(・・・クレンは、「父の事を覚えていない」って言ってたけど、彼がここまで生きてこられた
のは、心のどこかで父が生きているから・・・なんだろうな。
そんな綺麗な話かどうかは分からないけど、そう思いたいな、私は。)
「・・・ちょっと待って!
じゃあ、グルオフのお母さん、つまり『時期国王の王妃』になる筈だった人は、どこでグルオ
フを産んだの?」
「この地下で。幸いその時は、母子共に無事だったのよ。
凄いでしょ。」
「はえー・・・・・」
思わず、言葉にならない声を発する翠。
『出産』なんて、時代が進んでも『命懸けの作業』
産む母にとっても、生まれてくる子供にとっても、どちらかが命を落としてもおかしくない、
危険ではあるが、一番の踏ん張りどころ。
もちろん、子供を産んだ後も試練は続く。
赤ちゃんに始まり、幼児からどんどん大きくなっていくと、その分試練も大きくなっていく。
その試練を、グルオフの母はこの地下で乗り切った・・・なんて、信じられなくても仕方ないくらいの話である。
『出産』の難しさは、まだ子供を産んだ事もなければ、『二次元』にしか恋をしなかった翠で
も分かる。
そのきっかけというのも、父の母、つまり翠の祖母が、かつて『子供を産めなかった話』
お盆になると、先祖代々のお墓と一緒にお墓参りをする。
昔は安全に子供を産める知識や技術もなかった為、どちらかが亡くなっても不思議ではなかった。
その話をする祖母の顔は、翠は成長した今でもよく覚えている。
女である翠も、遅かれ早かれ考えなければいけない話・・・の可能性もあるから。
女性にとっては、年齢関係なく、身近に感じられる話である。
クレン・リータの3人は、『母の力』の片鱗を知って、改めて自分達が、まだまだ成長不足で
ある事を思い知った。
どんなにレベルが高くても、どんなに戦える技術を持っていたとしても、『愛』に敵うものなんてない。
よく「『お金』で『愛』は買えない!!」というワードを耳にしていた翠でも、この話には心
底感動してしまう。
『友情』・『愛情』は、決して目で見える事はないけれど、その力は、計り知れないほど強い。
「・・・・・いいな、グルオフは・・・」
「へ?」
「僕は・・・僕の両親は、もうミドリもクレンも知っているけど、そこまで愛情深い人ではなか
った。
僕の両親にとって、『覚醒者』として目覚められなかった僕や兄さんは、単なる『役立たず』
でしかなかった。
もちろん、僕達なりに色々と頑張ってきたさ。
でも、両親が僕達を褒めてくれた事も、頭を撫でてくれた事も少なかった。ロクに会話する事
すらしなかった。
両親にとって大切だったのは、息子である僕や兄さんではなく、血もつながっていない他人(インチキ覚醒者)だったんだ。
・・・まぁ、今の僕はこうして、両親が大金を注ぎ込んでも成せなかった、覚醒者として旅が
できる 身であるけど。
覚醒者としての開花が、まさかその両親が亡くなった『後』になるなんて。両親にとっても、
それが『最悪の皮肉』なのかもね・・・」
リータがグルオフやアメニュ一家を羨ましがるのは、翠でも辛いくらい分かる。
実際、翠の家庭も、そこまで裕福・・・というわけでもなかったが、平凡なりに『愛情』を沢山注いでくれた家庭で育った。
しかし、翠がたまーにしか見ないニュースで、もはや取り上げる事が『定番』になってしまっ
ている、親が子供に愛を注ぐ事をしない家々の問題。
ニュースを頻繁に見ない翠でも、その話題はよく耳にしていた。
というか、毎日のニュースでは必ずあるくらい、現代社会の問題になっている。
翠にとって、親から愛情を注いでもらう事が、ほぼ当たり前だった。だからこそ、余計に悲しいのだ。
一緒にゲームしたり、クリスマス・誕生日・記念日には、必ず家族一緒にお祝いする。
学校生活はそれほど楽しくなかったものの、入学式・卒業式の際、両親はご馳走とプレゼントで、翠の門出を祝ってくれた。
しかし、そんな当たり前がない家庭で育ってしまった子供は、『普通の家庭』に憧れるのは必
然的。
しかし、『子供は親を選べない』
仮にもし選べたとしたら、子供を邪険に扱うような家庭になんて、どんな子供でも願い下げ。
それでも、リータは兄と一緒に頑張ってきた。どうにか両親の気を引く為、頑張り続けた。
その努力が異常である事が発覚したのは、リータの両親が亡くなった『後』
そう、リータ達の両親がどんなに後悔しても、もう何もかも遅い。
リータが覚醒者になったのは、決して両親のおかげではない。
危険な目に遭いながらも、それでも兄を守りたい・・・と願った、リータ自身の力。
何もかもを根本的に間違えていたリータの両親ではあるものの、それでもリータは、願わずに
入られなかった。
どんな劣悪な環境でも、子供達を懸命に愛していた
グルオフの家庭やアメニュの家庭のように
貧乏でもいいから、『愛』のある家庭を・・・