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68・振り回される人生なんて嫌だ

「えーっと・・・

 まず最初に亡くなってしまったのは、ラーコブの母親。その時のラーコブの年齢は・・・」


「私が7才の時よ。ちなみに、偽の王家から逃れて、この地下へ隠れ住むようになったのは、まだ

 3才だった頃。

 クレンが私の1つ下だから、クレンが2才の時、私達は生き別れになったのよ。」


「はぁ・・・・・」


 改めて聞いても、相当凄い話である。

まだラーコブやクレンは幼かったにも関わらず、ちゃんと今まで生きられているのが、信じられないくらいだ。


「・・・・・で、その次が、グルオフの父親。『時期国王』でもあった人。」


「はい。でも・・・・・」


「『でも』?」


 ・・・すいません、僕は父親と顔を合わせた事すらなかったので・・・

 父が亡くなったのは、まだ僕が生まれる一年前でした。」


「一年前・・・・・」


「えぇ、何が要因かは分かりませんでしたが、この地下の存在が露呈しそうになった時です。

 父は僕や母を守る為、この地下道の存在を隠す為。

 誰も住んでいない空き家で、こっそりと・・・・・ね。」


 グルオフの父親の死は、何ともあっけないものであった。

『時期国王』としてもてはやされ、国の将来を一身に背負う筈だった、グルオフの父親。

 そんなグルオフの父親は、周囲の裏切りにより、自ら命を絶つ選択をしなければいけない、そ

 んな状況に立たされていた。

しかし、そんな状況にも関わらず、グルオフの母、つまり妻を愛していた。

 そうじゃなかったら、グルオフは誕生していなかった。


「でも、現状でグルオフやラーコブが、まだこの地下を住処にしている。という事は・・・・・




 ・・・・・貴方のお父さんの死は、無駄ではなかった


 ・・・って事ね。」


「・・・はい。

 父は僕と母を守る為、『国王』ではなく、『父親』としてその生涯を終えたんです。」


(・・・そして、その『勇敢な父親』の息子が、彼って事か・・・・・


 ・・・・・ふふっ、どうりでグルオフがこんなに・・・)


 翠は、つい笑ってしまう。

何故、彼が異様なまで、しっかりとした性格や立ち振る舞いをしているのか。

 それは、『時期国王』である父の血を濃く受け継いでいるから。

こんな劣悪な環境で住む事になっても、理不尽な立場に追いやられる事になっても、グルオフはラーコブ達を思い、そう簡単には諦めない。

 何より自分達の為に犠牲になってくれた人々を、しっかり心と頭に焼き付けている。

そうじゃなかったら、こんな場所からとっくに逃げ出している、自ら命を絶っていたのかもしれない。

 この現状が、グルオフにとって、果たして良い事なのか悪い事なのかは分からない。

しかし、翠が何よりも、(王都に来てよかった)と思ったのは、クレンの事。

 翠も気になっていたが、それ以上にリンも気になっていたのだ。自分の出生・家族・兄弟姉妹。

何故自分が、見知らぬ土地で、見窄みすぼらしい生活をしなければいけないのか。

 『モンスターだから』と言われてしまえばそれまでだが、そんな言葉だけで納得できるとも到

 底思えない。

しかし、当時のクレン1人では、どうする事もできなかった。

 辛い環境を飲み込む事に専念しないと、心が壊れてしまう。だから、考える余裕もなかった。

そんな絶望的な状況は、翠の登場によって、何もかもが変わった。

 改めて、自分の出生を深く考える余裕ができたのだ。

その上、王都での偶然の出会いをきっかけに、自分に関する全てを知る事ができたのは、『奇跡』以外の何ものでもない。



「・・・姉さん。ごめんなさい。」


「え?」


「・・・・・父さんの事、自分全然覚えていなくて・・・」


「クレン・・・・・」


「姉さんですら、自分達の母さんの事を覚えていたのに・・・」


「クレン、それは決して貴方のせいではない。」 「そうですよ、クレンさん。」


 翠とリータは、すかさずクレンを励ます。

クレンが責任を感じている理由も分かるが、こればっかりは、責める必要なんてない。

 責めるとしても、正当なる王家とアメニュ一家を追いやった、今の偽・王家の方だ。

グルオフ達の人生が滅茶苦茶になった原因は、一部の貴族・王族の私利私欲。

 その貴族・王族が、どんな思考のもとで、そんな事をしたのか。そんなの単純。


『自分自身の為だけ』


 そんな自分自身の欲望の為なら、正当なる王家も、その王家に忠誠を誓った強い一族も、全て

 が邪魔だった。

もちろんグルオフ達にとっては、とばっちりなんてレベルではない。

 謝罪されても、首謀者達が牢屋に放り込まれたとしても、グルオフ達が彼らを許せない。

だが、だからと言って、どこにも向けられない責任を、自分自身に向けていいわけがない。

 そんなの、奴らの思う壺かもしれない。

決して、アメニュ一家の責任ではない、グルオフ一家の責任でもない。

 その全ての責任を見て見ぬフリしている偽・王家は、今でも地上で優雅な生活をしている。

決して自分の実力でのしあがったわけでもなければ、国に尽くした事もない人間が。

 豪勢な食事をムシャムシャと食べながら、安全で広い部屋で、暖かなベッドの上でグーグー眠

 っている。

豪華絢爛な服や装飾品で身を包みながら、自分の『愚かさ』や『醜さ』を隠している。

 今グルオフが、湿気でジトジトしたこの地下道で、薄っぺらい布に包まって寝ている事なんて

 露知らず。


 翠は二人から聞いた情報を紙にまとめながら、偽の王家が出来上がる前の話も聞いた。

偽・王家は、とにかくあらゆる場所に手を回し、次に国の長になるであろう、グルオフの父を追い詰めた。

 ・・・いや、追い詰めたのは彼の父親だけではない。

偽・王家はこの事実をどんな手を使ってでも隠蔽したかった。

 だから、次期国王の家族もろとも、抹殺しようとしていたのだ。 

元々グルオフの父親は、権力や地位にはそこまで拘らず、国王としての責務を全うする事を一番に考えていた。

 その姿勢も、権力や地位に異常なまでに執着していた人々から、よくない目で見られていた。


(・・・・・ははっ、どの世界でも同じなんだな・・・

 誰かの為を思って、誰かの為に尽くすような、慈悲深くて優しい人に限って、よからぬ人から

 狙われる。


 ・・・あぁ、そうか。良い人だから、狙われてしまうんだ。)


 欲が深すぎる存在・自分のことばかり考えている存在にとって、『厄介な存在』とは何か。

それは、いつも正しくあり、周りをよく見ているグルオフの父親のような存在。

 『厄介』・・・というよりは、『恐れ』なんだろう。


 いつか自分達の悪行が知られてしまうのではないか。

 アイツがいる限り、自分達の地位も名誉も上がらない。

 何故なら自分達は、彼より劣っている。


 だが、そんなの認めたくない。ならばどうするか。


 消すしかない。



 ・・・安直すぎる発想だが。


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