67・全ては『裏』で進んでいた
「じゃあ、グルオフさんの家系は、正真正銘の『王家』・・・という事か・・・
そして、今の政府は・・・・・」
「あぁ、呼び捨てでいいよ。ミドリさん達の方がずっと年上だし。」
「いやいやいや・・・・・」
リータは目を泳がせながら、翠に助けを求めていた。
でも、翠だってどうすればいいのか分からない。
「呼び捨てでもいいよ」「タメ口でもいいよ」と言ってくれる事自体は嬉しいのだが、いざ実
行しようと思っても、なかなか口が思い通りに動かないもの。
その上、グルオフは正式なる王家の末裔。気軽に名前を呼んでいい相手ではない。
でも、呼び捨てしないと逆に気分を損ねてしまうかもしれない。
翠は思い切って、必死になって呼び捨てを心掛けた。
会話をしているだけの筈なのに、下手なモンスターと対峙する時より、3人の心臓はバクバク
している。
「グルオフさ・・・・・グルオ・・・フがこの地下道に隠れ住んでいるのって・・・」
「そう、偽の王政から逃れる為。
偽の王政に、僕の事は知られていないんだけど、僕の両親が城から抜け出したまま、捕らえる
事はできなかった。
だから今の王政は、『万一』を考えて、僕達を探しているんだろうね。
まぁ、それくらい自分達がやってきた事が、どれほど非道だったのか、自覚がある・・・って
事なのかもしれないけど。
自覚があるくらいなら、民衆の前でしっかり白状してほしいよ。
でも民衆達は知らないんだろうね、今の王政が、偽物である事を・・・」
政治に関して全然無関心だった翠は、1人で罪悪感に襲われた。
「じゃあ、あの兵士達が、あんなにしつこかったのって・・・?」
「あれは単純に、僕がよそ見していたらぶつかっただけ。一応謝ったんだけど、しつこくて。」
「グルオフ、なんで一人で外に出たの・・・!!」
ラーコブは、静かに彼を叱りつけた。
グルオフは(やっちまった・・・)と、心境を顔に滲ませながら、ラーコブに謝り続ける。
その光景は、まごう事なき『姉』と『弟』
さっきまでのピリピリとした空気がようやく和み、リータもグルオフに色々と質問する。
「でもそれくらいこの場所が危ないなら、クレンさんと一緒にこの王都から出た方がよかったん
じゃ・・・?」
「幸い、この地下道の事は知られていなかった。
だからこの場所に隠れ住んで、隙を見て偽の王家をひっくり返そうとしたんだけど・・・」
「『けど』??」
「どうやら、偽の王家は相当頭がキレる・・・というか、随分前からあちこちに根回ししていた
みたい。
あれだけ信頼されていた父を、異様なくらい、誰も信用してはくれなかった。
だから僕達は、逃げるタイミングを逃して・・・ね。」
「・・・『買収』か・・・、もしくは『口裏合わせ』か・・・」
そんな翠の言葉に、その場にいた全員が、ギョッとした顔で翠の顔を見た。
確かに翠の言った通りなのかもしれないが、その的確すぎる判断力は、周囲から見れば逆に怖く見えてしまう。
翠は戦い方に関しても、けっこう横暴に見えてしまうものの、実は結構考えている。
グルオフ達を地下に追いやった『偽・王政』のやり方も、ドラマや映画ではよく見る手法。
権力者が何かしらの罪を犯した場合、もしくは罪を犯してまで自身の望みを叶えようとした場
合、自分の犯行を誤魔化す為、あらゆる部署に手を回す。
口裏を合わせてもらったり、脅しをかけたり、お金を注ぎ込んだり。
権力がある分、手回しの方法も豊富になってしまうから、ドラマや映画の主人公達は苦戦する
のだ。
翠の呟きに、グルオフも「正解・・・」と呟いた。
「当初、僕の両親を庇ってくれたアメニュ一家も、この一件を『小規模な内乱』だと思った。
だからすぐさま行動には移さなかった、下手に動くと、相手の手球に取られてしまうかもしれ
ないからね。
ある程度ほとぼりがさめたら、他の貴族や王族が助けてくれる
・・・と、思っていたのが、間違いだったのかもしれない。」
「?」「?」「?」
「私もそう思っていたわ。だって、グルオフの両親は、人間だけではなく、モンスターからも尊
敬されていた。
グルオフのお母さんは、私によく話してくれた。
彼の父は、人間に対しても、モンスターに対しても、平等に接していた・・・と。
互いに敬意を払い、互いに支え合い、互いに助け合う。
そんな人だからこそ、『時期国王』として、『先代国王』から認められていた。」
「ちょ・・・ちょっと待って!!」
話の途中だが、翠はラーコブの話を止める。
「な・・・なんか『紙』とか『ペン』とかない?!」
グルオフはすかさず、ちょっと薄汚れているチラシとペンを、翠の前に差し出した。
恐らくチラシは、拾ってきた物なのだろう。
「えーっと・・・まず・・・
グルオフの両親も、クレンとラーコブの両親も、もういない・・・と。
で、時系列的には、誰が一番先だったの??」
どうやら色々と話が絡み合って、誰がどの頃まで生きていたのか、翠は頭だけでは整理が追い
つかず、紙にまとめて分かりやすくする。