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6・ゴブリンだろうがお構いなし

「・・・道一つないな・・・

 これじゃ此処から出るのは一苦労しそうだな・・・

 とりあえず獣道でも探して・・・」


 翠達がかつて生きていた『旧世界』では、ある程度深い森の中でも、『アスファルト』で舗装された『道路』が普通にあった。

 道幅も狭く、険しい道のりではあるものの、しっかり『道』として確立してくれていたありがたさに、翠は今の状況を照らし合わせた。

 何処を見ても木々と草花しか生えていない。ある意味『迷路』よりもタチが悪い。

 何処を見ても同じ景色しか見えない、曲がり角も行き止まりもない、ただただ広い土地に、木が乱立しているだけ。


 当然、まだ『方位磁石』も『地図』も無い為、ただ闇雲に進むしか術はない。

 危険ではあるが、それしかできる事がない。

 旧世界では、よく山奥で遭難した人のニュースを目にしていた翠。

 しかし、この『新世界』では、彼女を助けてくれる人が、ヒーローの如く現れる可能性はゼロに等しかった。

 何故ならこの世界には『自衛隊』がいる可能性も、『救助ヘリ』がある可能性も低い。

 『スライム』や『自身の服装』を考えると、こんな世界にヘリがある方がおかしい。

 翠は森を歩きながら、ちょくちょく空を見上げてみるものの、見えるのは僅かばかりの真っ白な雲と、鳥の影のみ。

 人の話し声も聞こえず、時折聞こえてくるのは、動物達が草木をかき分けながら進む、カラカラと乾いた音のみ。

 だが、あちこちの木々には『木の実』生っている。


(最悪コレを食べるのもアリか・・・)


 と思いながらも、まだ手は出せない翠。

 よく「野生のキノコを口にしてはいけない」という言葉は耳にするが、それはキノコに限った話ではない。

 どんなに美味しそうな果実でも、何の情報もないまま口に入れるのは、ある意味自殺行為。

 この知識は、かつて翠がハマっていた『サバイバルゲーム』から引用した知識である。

 かなりリアルなサバイバルゲームになると、食べる物に制限がかかったり、無理に食べたりすると『感染症』や『体調不良』に襲われ、ゲームオーバーになってしまう。

 翠達がいる新世界にも、その概念があるのかは分からなかった。しかし、用心に越した事はない。

 今この状態で体調を崩したら、ゲームオーバー待ったなし。 

 それに翠は幸い、まだ空腹ではなかった。その上、まだ色々と思考を巡らせる気力も残っている。

 なら、今のうちに色々と動いておかないと、全てが事切れた時に後悔しても遅い。

 あれだけスライムと『一方的に』戦っても、まだまだ疲れていない自分に自分でびっくりしている翠。

 翠はどちらかというと、『体育』は苦手だった。

 ・・・いや、体を動かすのはそこまで嫌いではない。

 体育が苦手な理由は、やたらと『ペア』や『チーム』を強調するから。

 『サッカー』や『野球』のように、チームで動かないといけない種目がある体育。

 カースト下位の翠達は、大抵他の生徒に任せ、自分達は言われるがままに行動するだけ。

 それ自体は楽な作業なのだが、一番恐ろしいのは、『失敗・ミスした時の差』が、生徒によって全く違う事。

 クラスの盛り上げ役の生徒がミスしても、「ドンマーイ!」で許されるが、翠達がミスしてしまうと、『冷ややかな目』と『陰口』を叩かれる。


 「やっぱりオタクは何をさせても不器用だよねー、クスクス。」


 「玉端さんって皆と協力しないから嫌だわー」


 そんな言葉を、あえて本人が聞こえるような大声で言われ続ける為、翠は必然的に体育が嫌いになった。

 そして、野次を飛ばされるのは、団体行動に限った話ではない。

 『跳び箱』や『マット運動』の時でも、翠を揶揄うクラスメイト達の視線が離れる事はない。

 何かと翠がミスをしたり失敗したりするのを見逃さず、笑いものにする。

 これには翠も、一周回ってその『観察眼』を尊敬してしまう。

 ひどい時には、着替えている最中に見えた翠の『下着』まで馬鹿にする女子生徒がいる。

 翠が何の反応も示さないから、相手も相手でやりたい放題だった。


 しかし、今は違う。もう誰かを馬鹿にする余裕もなければ、協力する余裕すらない。

 だが、翠は割と余裕な様子。森を彷徨い歩くシチュエーションは、RPGではよくあるからである。 

 それに今は、強制的に協力する必要もない。それこそ『自己責任』の世界。

 『自己責任』という言葉は、聞き方によっては恐ろしくも感じる。

 しかし、今の状況は翠の場合『自己責任』の方が、むしろ都合がいい。

 何故なら『RPG』や『旅』に


『教科書』なんて存在しない。


 教科書通りに動く学校生活は、行き当たりばったりなのが当たり前のこの世界では、全く使えない。






『ウワァァァアアア!!!』


「お、コイツはどうかな?」


『ウア?』


 翠の前に立ち塞がったのは、『小型のゴブリン』3体。

 それを見て、翠は確信する。この森に生息するモンスターは、そこまで強くない事に。

 試しに翠が、先程のように杖でゴブリンにアタックしてみると、手応えがあった。

 やはりゴブリン達も驚いた様子で、威勢たっぷりで登場したにも拘わらず、ゴブリン達はもう腰が引けている様子。

 しかし、翠は決して逃しはしない。相手から出てきてくれたのなら、迎え打てばいいだけ。

 翠は華麗な身のこなしで杖を操り、あっという間に3体のゴブリンを討伐してしまう。


 そう、この世界では『自分自身』であらゆる事を調べていかないと、あっという間に命を刈り取られてしまう。

 だからこそ、多少危険でも踏み込むしかない。命が大切なのは当たり前だが、


 『命を守る事』と

 『命が守れる可能性を高くする事』では


 一見似ているようで、似ていない。


 もちろん、翠はゴブリンの素材もしっかり回収。役に立つかは分からないが、ゴブリン達の装備も貰っていく事に。

 翠の場合、杖でも事足りるのだが、いざという時の『予備の武器』も持っていないと、さすがに不安になるのだ。




「・・・ん? あれは・・・??」


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