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65・暗部で多くの出来事が起こった

 ただ、その被害が『本人以外の人』に向いてしまうのは、翠でも理不尽に感じる。

当の本人がやった事の筈なのに、『関係者』というだけで、あれこれと非難される。

 確かに悪い事はいけない事なのだが、その責任を負うべきなのは、『本人のみ』の筈。

翠がかつて生きていた旧世界でも、同じような話がある。いわゆる『私刑』


「犯罪者の家族だから危険」 『警察に捕まった人の家族だから、家族もおかしい』


 と、訳の分からない理論を並べ、『正義』という名目で、全く無関係な人を叩く。

そして、自分がいかに『正義感』が強い人間なのか、行動力がある人間なのかをアピールする。

 正直、本人以外の人からすれば、哀れでしかない。

だが、それに本人が気づかないのが、『罪を認めながらも手を染める犯罪者』よりタチが悪い。

 その少年は、まだ10歳にも満たないような子供。

そんな子供に、政治の責任を押し付ける人間の方が間違っている。

だが、『親族』や『関係者』という理由だけで、こんなに小さい子供でさえも非難の対象になってしまうなんて、間違っているとしか言えない。 


 翠・クレン・リータは察した。

この2人がこんな薄暗い地下道に住んでいる理由は、『政治的な因果』が絡んでいる事を。

 そうでもなければ、2人が自ら望んでこんな場所に住み込むわけがない。

(もしかして、『両親』がいないのかな?)(もしかして、『貧乏』なのかな?)

 と思っていた翠の予想は、大幅に外れていた。

つまり、2人には此処しか『居場所』がない。

 自分達の正体を知られてはいけないから、外を安易に出歩く事さえできない。

それほど大きな問題を抱えながら生きてきた二人に対し、翠は涙が出そうになった。

 大人が「仕方ない」と考えるのは割と自然であり、よくある話である。

だが、まだ小さくて成熟していない子供が「仕方ない」と、自分の不遇を受け入れているのが、不憫でならないのだ。

 特に少年は、『一番の被害者』である。


だが、同時に翠は、ちょっと心配になってしまった。

 こんな自分が、この国の『闇』に触れてもいいのか。

まだクレンにも、リータにも、二人にも言っていないから。自分が『転生者』である事を。


 だが、悩む翠を置き去りにして、クレンが姉に色々と聞く。


「・・・ラーコブさん、じゃあ貴女の・・・自分達の『両親』は・・・?」


「『姉さん』でいいよ。


 あんたには『父』が、私には『母』がついてくれた。

 ・・・でもその様子だと、父の事は覚えていないみたいだね。」


「は、はい・・・・・

 自分でも気づかぬうちに、シカノ村で生活していたから・・・」


「シカノ村ぁ?!! かなり遠い場所にいたのね!!」


 確かに、シカノ村からこの王都に来るまで、約1ヶ月はかかった。

しかも、ドロップ町から王都まではショートカット(馬車)を使った。それでも1ヶ月かかった。

 この距離をたった1人で渡り歩くなんて、翠でも無理な事。

だからこそ、ラーコブはびっくりしているのだ。


「・・・それにしても、ミドリさんに拾ってもらって、本当によかったわね。」


「うん。こうして自分が成長できたのも、姉さんと再会できたのも、全部ミドリのおかげ。

 だからこそ、自分はミドリをずっと守り続ける、騎士ナイトになるって決めたんだ。」


「・・・・・・・・・・はぁー・・・」


 クレンは自分の決心を打ち明けただけ、にも関わらず、ラーコブの顔は突然曇ってしまう。

翠とリータは、少しびっくりしてしまう。

 もし自分がラーコブの立場だったら、「立派になったわね・・・」と、感慨深く言っていた。

だが、ラーコブはため息をつきながらも、弟の立派な成長に感動している『表情』を見せてくれた。

 そんなラーコブの感情を代弁してくれたのは、側でモグモグとご飯を食べていたグルオフ。

ラーコブが黙り込んでしまったので、見ていられなくなってしまったのだ。


「クレン君、君の記憶にないのは仕方ないのかもしれない。

 でも、君のお姉さんが僕をずっとずっと守ってくれているのにも、ちゃんと理由があるんだ。

 ・・・ただ、アメニュ一家に引き継がれている『強い心』は、時と場合によっては、


 命取りになる事だってある


 アメニュ一家の波瀾万丈な運命は、その『使命』と、『強い心』によってもたらされる・・・

 と、僕は思う。

 ・・・だからこそ、お姉さんは、君を素直に誉められないんだ。お姉さんの願いは、君に


 生きてほしい


 それだけだからね。

 だから君の両親は、まだ幼い君まで巻き込んではいけない・・・と思って、この王都から逃し

 たんだと思う。

 僕がもし、君の両親の立場だったら、そう思うよ。」


(・・・・・・・・・・・・・・




 ・・・・・はぁ・・・・・・・・・・

 難儀なものだなぁ・・・)


 翠とリータは、やるせない気持ちで気持ちが沈んでしまった。

グルオフの気持ちも分かるし、クレンの気持ちもわかる。

 だが、どちらかの気持ちを優先しなければいけないのが、世の理。

それでも、どちらかを選択したかで、皆が幸せになるか・・・も分からない。

 どちらが正解で、どちらが間違っているかなんて考えていたら、どっちにも転ばない。

ずーっと平行線の上を歩きながら、モヤモヤする気持ちを抱えなければいけない。

 決断をした事で、その苦しみから逃れられるかも分からない。

そんな『選択の綱渡り』を、翠達はずーっと歩き続けている。それが人生。


「・・・グルオフ、じゃあ改めて聞くけど・・・」


 翠とリータが呆然としていると、クレンガ口を開いた。


「僕達一家と、正当な王家との繋がりって、一体・・・・・

 自分が生まれる前から、自分達は家柄で繋がっていた・・・という事は・・・」


 そのクレンの言葉に、翠やリータもハッと気づいた。

ラーコブがグルオフと一緒に、この薄暗い地下室で生きているのは、『知り合い』なんてレベルの付き合いではない。

 それこそ、『兄弟姉妹』や『家族』くらい関係が強くないと、この危険な綱渡りを同行しよう

 とは思えない。

だが、グルオフは『人間』 アメニュ一家は『モンスター(エルフ)』

 グルオフの一家がアメニュ一家の誰かと婚約していたりしていれば、ある程度納得はできるの

 だが、王家とアメニュ一家は、一見すると全く関係のない家柄同士に見える。


 そんな弟の疑問に答えてくれたのは、姉のラーコブだった。


「実は私達の両親・・・

 ・・・・・いや、私達は『先祖代々』


 『王家を守る』責務を担っていた一族だったんだ。」


「・・・・・・・・・・」


 びっくりしすぎたクレンは、ラーコブと同じく、何も言えずに固まってしまう。

だが、翠だけは不思議と、そこまで驚かなかった。

 その理由としては、覚醒者となってからのクレンを見れば、何となく予想できる。

あの強さなら、どんなモンスターでも相手にできるし、どんな存在でも守れる。

 それが血筋に受け継がれてきた力なら尚更。


「驚くのも仕方ないわね。私達一族は、身元を伏せる為、世間に名を晒さなかった。」


「・・・それってやっぱり、王家の内情を知られない為ですか?」


「・・・ミドリさんは頭がいいね。でも僕にとって、ラーコブは『単なる護衛』じゃないんだ。

 『姉』であり、『唯一の家族』なんだ。」


 そう言って微笑むグルオフ、だがその話に心を傷めずにはいられない3人。

良い話ではあるのに。


「・・・じゃあ、今の王家って・・・???」


 リータは、震える唇で、グルオフにそう問いかけた。

そう、正当なる王家の末裔が、こんな場所に隠れ潜んでいる・・・という事は。

 今地上の城内で、太々しく王座に座りながら、国を見下ろしている人物達は・・・


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