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64・アメニュ一族

「・・・あぁ、まだ自己紹介をしていなかったわね。


 私の名前は、『ラーコブ・アメテュ』


 ・・・そして、多分君の名前は、本当は『リン』ではなく


 『リークレン・アメテュ』」


 一番唖然としているのは、今まで自分に姉がいた事も、自分の本名すら間違っていた事を知ら

 された リンだった。

確かに、今まで自分の名前だと思っていた言葉が、全然違う言葉だった・・・なんてカミングアウトされたら、誰だって混乱する。

 だが、リン以外も頭がパンクしそうなほど混乱している。

せっかくリータが、夕食をあれこれ買って来てくれたものの、全然手につかない。

 色々と突っ込みたい、色々と聞き出したい。

そんな気持ちが山積みになるのは、慣れっこな翠。

 でも、今回のカミングアウトは、本当に予想外すぎた。


「私の一族はね、代々『瞳』の色が『紫』になるの。

 だからリークレンに声をかけられた時、本当は色々と聞き出したい気持ちを抑えるのに必死だ

 ったよ。

 でも、彼と私が生き別れになったのは、彼がまだ2歳の頃だからね。

 覚えていなくても当然よ。」


「そうか。

 だからリンはずっと気づかなかったんだ。名前まで間違えて覚えてしまっていたのも・・・」


 リン・・・もとい『リークレン』は、自分の記憶を必死に引っ掻き回し、一番古い記憶が何な

 のかを探っていた。

だが、2歳の頃の記憶なんて、誰も覚えていないもの。翠だって覚えていない。

 だから、リンが負い目を感じる必要もないし、姉であるラーコブも気にしていない様子。

ラーコブも、まさか何十年も前に生き別れた弟と再び再開できるとは思ってもいなかったのか、翠が聞かなくても、あれこれ説明を加えてくれた。

 ・・・恐らく、ラーコブ自身も、弟との再会を諦めていたのかもしれない。

だからラーコブは、あれこれ語り始めて、口が止まらなくなってしまったのだ。


「リークレンは『父』が、私は『母』が引き取って、互いに頑張って育ててくれたの。」


「ご、ごめんなさい・・・

 自分にはその時の記憶が・・・曖昧すぎてはっきり言えないんですけど・・・」


「・・・その様子だと、クレンも向こうでかなり苦労していたのね。」


「はい、私とリ・・・クレンが出会った時も、それはもう・・・・・」


 まだ頭の整理が追いついていないクレンに代わって、翠が出会った時の事を詳細に語る。

実はその内容は、まだリータにも話した事がなかった為、リータも食い入るように聞いていた。

 出会った当初のクレンは、本当に惨めなものだった。

それこそ、今のグルオフやラーコブより、もっと悲惨だった。

 雇い主にこき使われ、今にも壊れそうな体を懸命に引き摺って、とにかく生きるだけでも必死

 だったクレン。

しかし、翠と出会ってからの成長はリータと並んで凄まじく、もうあの時の弱々しい彼はどこにもいない。

 ・・・ある意味、悲惨だった頃のクレンを、姉であるラーコブが見られなかったのは、正解だ

 ったのかもしれない。

主に翠が見せたくないから。 

 赤ちゃんだった頃とは違う、もう立派な青年として育ったクレンのその姿に、姉は感慨深いも

 のを感じていた。

その眼差しは、さながら『母親』である。



「・・・・・でさ、まだ君の名前を聞いていなかったんだけど・・・」


「あ・・・・・」


 少年は名前を言いかけたが、何故かラーコブが止めた。

 何故なのかよく分からない翠だったが、少年はラーコブの制止を振り切る。


「ちょっと・・・!!!」


「大丈夫、彼女達なら信用できる。だってあの様子だと、『王家』や『鞍替え』の話は知らない

 様子だし。

 それに、ちゃんとモンスターを相手にできるくらいの実力を持っている。

 実力を持っている存在が、『欲』の為に動くような事もしないよ。

 もし、彼女達が僕達を利用していたのなら、あの巨大ネズミからはとっくに逃げ出している

 筈。


 何より、君の弟なんだ。

 僕も信じているよ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 翠・リン・リータの3人は唾を飲み込んだ。

二人の話していた内容からも、少年がかなり波瀾万丈な人生を歩んできた事が、ある程度予想できてしまう。

 地下道に隠れ住んでいるだけで、もう完全な『訳あり』なのは察せる。

だが、もう此処まで来たら信じるしかない。

 何故なら翠も、クレンも、リータも分かっている。

ラーコブとその少年が、決して自分達を揶揄からかっているわけではない事を、ちゃんと分かっているから。

 ラーコブはまだ少し渋っていたものの、黙って少年の話を聞く事に。


「僕の名前は


 『グルオフ・K・コンゴゥ』


 と申します。」


 その名前に一番先に反応したのは、リータだった。


「『K』・・・『コンゴゥ』・・・???


 それって、『前の国王』と同じ名前なんじゃ・・・・・??」


「えっ?! それって本当なの?!!」


 リータの言葉にびっくりしたのは翠だけ。

クレンに関しては、今までずっと下の下で生活していた事もあり、『国王』や『権力』に関しての話には疎い様子。

 翠も確かにその1人だった。

旧世界でも、ニュースや新聞で政治の話が持ち上がっても、翠は気に留める事すらなかった。

 翠の一家は、国の行政にタッチできないような、一般的で何の変哲もない、普通の一家。

だから、国のトップが何をしようが、翠達の生活に何の影響もない、何の支障もない。

 影響や支障が出るなら話は別だが、『他人の小競り合い』や『欲に塗れた個人』の話をされて

 も、正直見る側は困るだけ。

 そんな翠でも、『テスト』が近くなると、真面目にニュースを見るようになる。

何故なら『時事問題』が出題されるから。

 だが逆に言えば、それ以外の理由でニュースや新聞を見る事はない。


 でも今の翠は事情が違う、何故なら王家の人間が、もうすぐ目の前にいるのだから。

話を聞かない方が、不躾である。


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