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61・地下の道を往く

「君はどうしてこの道を知ってるの?」


「私はずっと此処に『隠れ住んで』いますから。」


「・・・・・???」


 「どうして?」と言いかけた翠だったが、言えなかった。言わせたくなかった。

何故こんなにも小さな子供が、こんな薄暗くて、湿気でモアモアしている場所に、隠れ住まなくちゃいけないのか。


 住む家がないのか、そもそも人に知られていない場所に住むのに、何か理由があるのか。

 王都に来た時に見かけた、道を歩いていた子供達と、何が違うのか。


 見たところ、彼はモンスターではなく、『人間』だった。

今まで『モンスターに対する差別』なら、翠は旅先でよく見てきた。

 だが、『人間に対する差別』もある現状を目にしてしまうと、もう疑問を抱く事すらできず、疲れ果ててしまう。

 結局この国にとって、何が差別に値するのか、どうして差別に値されなければいけないのか。

・・・恐らく、それらを完璧に答えられる存在は、誰もいないのかもしれない。


「・・・此処に住んで、何年くらい?」


「うーん・・・もう物心ついた頃から、此処は私の『家』みたいなものなんです。」


 その少年は、慣れたような足取りで、ズンズンと地下水道を進んでいく。

一見すると同じ景色ばかりで、翠一人だとすぐ迷ってしまいそうな程、『巨大な迷路』だった。

 しかし少年は、何の迷いも見せず、あちこちでウロチョロしているネズミや虫を、一切気に留めずに進んでいく。

 男の子女の子問わず、人間ならこんな場所で生活するのは、誰だって嫌な筈。

しかし、少年は涼しい顔をしていた。だから余計に、翠は何も言えなかった。

 そう、かつて寒くて冷たい夜のなかを、泣いて耐え忍んでいたリンを彷彿とさせるから。


「えーっと、貴女が止まっている宿って、大体どの辺りにあるかわかりますか?」


「え? えぇーっと・・・」


「宿の周りには、どんなお店とか建物がありましたか?」


「確か・・・馬車を貸し借りしている、大きな建物の近くだったような・・・」


「あぁ、あそこですね。それならこっちですよ。」


 子供とは思えない、大人びた対応に、翠はますます申し訳なくなってしまう。

確かに翠は少年を庇ったものの、後々の事は全く考えていなかった。

 完全に『感情任せ』な行動だった。

その上、兵士達があそこまで執拗に追いかけ回すなんて、思ってもいなかった。

 ・・・翠が武器を振るった事に変わりはないものの、旅人一人に対して、あそこまで追いかけ回すのは、言ってしまえば『無駄足』である。

 それこそ、『何十年も逃げ回り続ける凶悪犯』だったり、『賞金首』だったら、話は別なのかもしれない。

 だが、翠一人に対して、あそこまでムキになる光景は、一体どっちが悪い事をしたのか分からなくなる。



 執拗に追っているのが、『少年』の方なら、話は別なのかもしれないが・・・



 翠は思い切って、少年に聞いてみる事に。


「・・・そういえばさ、君って・・・・・」


「何ですか?」


「・・・・・



 『お父さん』とか『お母さん』とかはいないの?!」


(・・・私のバカ・・・チキン・・・)


 肝心なところで小心者になってしまう自分に、翠は今すぐ自分の頬をビンタしたくなる。

しかし、少年は表情一つ変える事なく、淡々と説明していた。


「『父』は僕が生まれる前に亡くなってしまったんですけど、『母』は私が5歳の頃に・・・」


「・・・そう・・・」


「そういえば、貴女は旅人でしょ? どうして旅を?」


「あぁ、それは・・・・・


 翠は、「とりあえず王都に来た」と言いかけたのだが・・・・・






「・・・オフ・・・・・フ・・・

 グルオ・・・・・グルオフ・・・・・」


「・・・??」「・・・??」


 奥の通路から、誰かの声が聞こえる。だがその声に、少年は聞き覚えがある様子。


「・・・・・ラーコブ? ラーコブなのか??」


 そう言って、少年は声が聞こえた方向へと道を逸れていく。

翠も、最初は(少年の親族かな・・・?)と思っていたが、徐々に『違和感』を感じ始める。


(・・・おかしい・・・声が『ワンパターン』しかないなんて・・・

 多分『グルオフ』っていうのは、この子の名前なんだろうけど、親族ならそれ以外に何か言う

 事があるんじゃ・・・

 それに、さっきから声はするのに、姿を全然見せてくれない。

 まるで『誘われている』様な・・・)


 少年、グルオフは、どんどん奥の方へ連れ込まれていく。

だが、未だに声の主が姿を見せない。

 グルオフは聞き慣れている声にすっかり心を許し、ヅカヅカと奥へ進む。

翠は少年を一旦少年を止めようとしたのだが、まだこの地下道や少年の事について、色々と分かっていない事もあり、声をかけるのを躊躇ってしまった。


「ラーコブ? もしかして怪我をして動けないのか?

 君が怪我をするなんて・・・・・


 翠と少年が曲がり角を曲がった瞬間だった。突然目の前に現れたのは



 『巨大ネズミ』



 そのネズミは、鋭い齧歯げっしを生やした口を、大きく開けて2人を待ち構えていたのだ。

その道を全て覆い尽くしてしまいそうなほど巨大な体、暗闇でもギラギラと光る真っ黒な瞳。

 巨体の合間から見える手に生えている鋭い爪には、『紅い塊』がポツポツと付着している。


 戦い慣れている翠は、瞬発力も高かった為、翠は少年の背中を引いて、どうにか回避した。

少年が角を曲がってすぐ、その巨大ネズミは少年を食べてしまうつもりだったようだが、翠によってギリギリで救えた。

 しかし、これに腹を立てた巨大ネズミは、狭い通路で容赦なく2人に襲いかかってくる。


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