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60・少年と地下へ

「やめてください」


 そう言って、翠は肩を掴まれた左手を強引に離す。

すると、兵士はカチンと来たのか、今度は強引に腕を掴もうとする。完全に『カツアゲと一般人』のような光景だ。

 周囲で見ていた人々も、兵士の横暴さに恐れ慄いたのか、3人から離れようと後ろへ後退する。

 しかし、翠だって負けていない。

捕まれそうになった腕を振り払い、即座に杖を構え、兵士の目前に先端を向ける。

 その速さで、店に並んでいたお守りがフワリと飛んでいきそうだった。

いきなり目前に尖った先端を突きつけられた兵士は、先程の翠と同じく尻もちをつく。

 すると、すぐ隣にいた兵士も黙ってはおらず、剣を鞘から引き抜こうとするが、再び翠の杖に妨げられる。


「兵士さん、此処は一般人の多い場所。乱暴事は、もう終わりにしませんか?」


 翠のごもっともな意見に、兵士は舌打ちを打ちつつも退散する。

すると、周囲で傍観していた人々は、翠に対してパチパチと拍手を送った。


「やるなー! 嬢ちゃん!」 「かっこいー!」

「所詮兵士は口だけだよなー!」 「スカッとしたー!」


 翠は急に恥ずかしくなり、その場から一目散に逃げ去った。

(目立たないように・・・)と思っていた矢先に、人々の目を引くような事をしてしまった。

 だが、不思議と緑の心に、後悔はなかった。むしろスッキリしたのだ。

バクバクと鳴る自身心臓を抑えつつ、人気の少ない路地裏に逃げた翠は、1人で笑ってしまった。

 自分の突飛な行動に、自分自身で笑ってしまったのだ。


 だがその笑いの一部には、『失笑』も混じっていた。翠は『失望感』したのだ。

(王都に来れば、もっとまともな兵士に会える筈・・・)と、心のどこかで思っていたから。

 しかし、その思いはあっけなく崩壊してしまった。

この世界が歪んでいるのは、リンの件でも把握していた翠。

 しかし、その歪み具合は、翠の想像を簡単に超えていた。

国を守る立場である筈の兵士が、自分達の勝手な価値観で人に迷惑をかけたり、まだ小さい子供に対して大人気ない対応をしたり。

 旧世界でも、時折『警察官の汚職・賄賂・パワハラ事件』がニュースで報道されていたが、新世界は違う。

 あっちでもこっちでも、兵士達が傲慢に振る舞っていた。平然とそれが、許されていたのだ。


(・・・リンとリータの方が頼りになるとか・・・・

 ほんとこの世界、どうなってんのよ・・・)


 そう思いながら、翠は宿へ戻ろうと立ち上がった。

 だが、路地裏の奥の方で・・・




「おいっ!! 見つけたか?!」 


「いいや・・・何処行った?!」


「旅人だから、そう遠くへは行けない筈だ!! 探せぇ!!」


 さっき翠と対峙した兵士2人が、懲りずに彼女を追って来ていた。

翠は焦った、確かに兵士達の言う通り、翠はまだこの王都に詳しくない。だから逃げ場はほぼ無い。

 しかし、だからと言って自ら出頭するのも嫌である。

確かに彼らに対して失礼な態度をとってしまったのは反省している翠だったが、その件でリンやリータにまで迷惑をかけるのは嫌だったのだ。

 もしこの件が表沙汰になれば、心置きなく旅ができなくなるかもしれない。

その上、あんな横暴な兵士達に身柄を拘束される事を想像しただけで、翠は身震いしてしまう。

 だから翠は、愚策だと分かっていながらも、逃げ道を探して彷徨っていた。

だが、案の定逃げようと頑張っているうちに、知らない場所へ来てしまう。

 もう宿屋のある場所が分からなくなってしまう程、遠い場所まで来てしまった。


 いよいよ撃つ手がなくなった翠は、ついに足を止めてしまう。






「お姉さん! こっちこっち!」


 足元から声が聞こえ、翠は悲鳴をあげそうになったが、ギリギリで我慢した。

今この場で悲鳴を上げたら、あの兵士達に一発で気づかれてしまう。 

 彼女に真下から声をかけてきたのは、さっき兵士達といざこざになったであろう、あの少年。


「いっ、いつの間に?!」


「話は後で! 早く!」


 このままでは、遅かれ早かれ兵士に見つかってしまう。

翠はその少年に言われるがまま、一緒にマンホールの下にあるであろう、『下水道』へと潜っていく。


 階段や梯子はなく、ヨレヨレ状態のロープが一本だけ吊るしてあるだけ。

壁面に『鉄梯子があった跡』は残っているのだが、それもだいぶ古く、この下水道がどれだけ大昔にあるのかが予想できる。

 翠は杖にライトをつけ、その杖を腰に巻いた。

ゆっくりゆっくり、ロープを伝って降りていくと、だんだんと『水が流れる音』が聞こえてくるようになる。

 ・・・と同時に、湿ったような、生ゴミのような臭いもほんのりと漂い始め、翠はローブで口元を塞いだ、

 そして、地下道の通路に2人が辿り着いた頃には、マンホールのある地上の方で、あの兵士達が話している声が聞こえる。

 本当にギリギリだったのだ。


「はぁー・・・助かった・・・」


「この地下道を知っているのは、僕か『彼女』くらいしかいないんです。

 長年此処で生活していますから、どの水路がどこに続いているのかも、しっかり覚えているん

 ですよ。」


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