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53・ニクパンと今後の課題

「はい、どうぞ。」


「すみません・・・昼食まで頂いてしまって・・・」


「いいんですよ! 

 結局あの後も馬車の護衛をしてもらったんですから、感謝の気持ちですよ!」


 馬車の中で昼食を頂く3人。

 御者が買ってくれたのは、『ハンバーガー』・・・という名の『ニクパン』

 パンにお肉を挟むところも、野菜を挟むところもほぼ一緒。

 『個人経営カフェが出しているハンバーガー』の様で、ちょっとテンションが上がる翠。

 大手チェーン店が出すハンバーガーも勿論美味しいのだが、個人店の出すちょっと変わったハンバーガーは、また別の美味しさがある。

 味が定まっていなかったり、形が定まっていなかったり・・・で、個性的なメニューが揃うのが、個人店の良い所。

 翠の父親も、大手チェーンよりも個人店の方が好きだった。

 地元のローカル新聞などで情報を集めては、家族を連れて外食に連れて行ってもらっていたのだ。

 そして、両親から貰うお小遣いで足りなかったり、学費を自分自身で払っている学生なら、放課後になるとカフェや大手チェーン店でバイトをする。

 放課後、喋り足りない学生達の溜まり場にもなっている。勉強OKな店もあり、学生にとっては一番身近なお店である。

 だが、翠にはそんな経験が一切なかった。

 いつも窓の外側で、ペチャクチャと楽しそうにおしゃべりしながら食事をする学生の姿を、ただ羨んでいただけ。

 1人で行く事も考えたのだが、虚しくなりそうな為やめた。


 翠はニクパンに思いっきりかぶりつくと、リンやリータも一緒になってかぶりついた。

 そして、具材がサンドされている食べ物を食べる時、必ず起こるハプニングといえば・・・


「おいおい、リータ! 溢れてる溢れてる!!」


「ふぇ?!! うぉうひおうぅぅぅ!!! (えぇ?!! どうしよぉぉぉ!!!)」


「とととととりあえず、何か拭くものー!!!」


 サンド系を食べるのが苦手な人はとことん苦手である。

 リータは下へどんどん落ちていく具材を必死に拾って口に入れ、翠とリンでリータの膝を拭きながら、自分達の分を食べる。

 いつもよりも『忙しい』昼食だが、これもこれで楽しい。

 3人がわちゃわちゃしながら昼食を取る様子を、休憩中の馬を点検していた御者も、微笑みながら見ていた。


 王都が近くなると、やはり道も舗装されていき、周囲に乱立していた『木々』が『建物』へと変わっていく。

 ようやくガタガタ道から解放された3人は、馬車の本当の心地よさをようやく実感した。

 ただ、翠は一つ、『今更』ながら気づいてしまった。


「・・・ふふふっ。」


「・・・ミドリ?」 「どうかしたんですか?」


「いやね、私初めてなの。」


「初めてって・・・『馬車』が?」 「それなら、僕もリンさんも一緒ですよ。」


「違う違う。こうやってね、『男2人』に挟まれるのが。」


「・・・・・」 「・・・・・」


 2人は、同時にこう思った


「何を今更」


 転生前の翠は、『異性』に対してほぼ意識なんてしなかった。

 どっちにしろ、翠はクラスメイトから揶揄からかわれて。

 『リアル世界の恋愛』を考える余裕なんてなかったのだ。

 だが、ゲームが相手だと話は違う。

 特に『乙女ゲーム』では、数多くのイケメンと、『ごっこ』ではあるものの恋人同士になる事ができる。


 一緒に登下校したり、デートに行ったり、季節ごとのイベントを楽しむ『学園もの恋愛』

 過去の時代にワープして、歴史上の偉人と恋愛をする『歴史もの恋愛』

 翠の立場と同じように、危険蔓延るRPGの世界で愛を育む『RPGもの恋愛』


 翠が乙女ゲームをプレイしてクリアしたのは、ほんの数本程度。

 だが翠的には、『暇つぶし程度』にはなるものの、『ガッツリやり込む』ゲームジャンルではなかった。

 やり込む人はとことんやり込む。それこそ、全キャラを攻略するプレイヤーだっている。

 だが、彼女が好きなゲームジャンルは、もっぱら『RPG』である。

 RPGとはほんの少し違うものの、プレイヤー自身強くなればなる程、恋愛対象と親密になれるゲームもある。

 だが、翠はそれでは駄目なのだ。ガッツリとした『王道RPG』でないと、翠は満足しない。

 例え『ありきたりなストーリー』でも、『ありきたりなキャラ』であっても、王道RPGは翠の心を掴んで離さない。

 確かに、ゲームに登場するキャラを「かっこいいな」と思う事は、緑でも何度かある。

 だが、キャラ1人のありとあらゆるグッズを集める程のめり込んだり、部屋をそのキャラ一色に染める・・・という事はしなかった。

 部屋に飾るとしても、キャラ1人だけではなく、キャラ全員が写っているポスターが、翠にとっては好み。

 他にも、ゲームの『背景』がプリントされてあるポスターも貼っていた。

 大手ゲーム会社にもなれば、キャラクターだけではなく、背景や音楽にも全力を注ぐ。

 そういった人々や団体を、ゲーマーは『神様』として称え、慕う。そしてゲームを購入して、貢ぐ。

 それが翠の『推し活動』だった。


 今までゲームにしかお金を注ぎ込まなかった翠は、この世界に来てから『お金の使い方』に悩んでいた。

 友達と頻繁にカフェや飲食店に行っていれば、賢いお買い物戦術も自然と身につく。

 しかし、翠が今現在持っているお金は、『最低限の旅費』を大幅に超えている。

 この世界の『物価』や『需要』を学んだ翠が次に抱える問題は、『賢いお金の使い方』である。

 家に住んでいれば『生活費』、国に属していれば『税金』がかかる。

 しかし、今の翠には住んでいる家もなければ、あっちこっちを渡り歩いている身。

 翠の両親は、やれ『値上がり』やら『国民税』やらで頭を抱えていた。

 今の翠はそれらを支払わなくてもいい代わりに、危険と隣り合わせな環境。


「・・・・・どっちもどっちかな。」


「・・・?」 「・・・?」

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