その頃 クラスメイト達は・・・
「ゼェ・・・ゼェ・・・」
「やっと・・・やっと抜けられた・・・」
ゾロゾロと森の中を歩く『覚醒者の集団』
もう何日間歩き続けたのかも分からない程、全員が完全に疲弊している。
剣士の覚醒者は自らの剣を杖代わりにして、重たい鎧がびっちり装着されている体を引き摺っていた。
ジョブのなかでは割と身軽なシーフの覚醒者ですら、足がよろけて今にも転びそう。
全員の装備は泥だらけ、砂だらけで、髪もボサボサになっている。
体のあちこちに擦り傷や切り傷を作ってしまい、痛みすらも感じられないほど疲れ果ててしまった 『学級委員長』
『森の中でモンスターに襲われても、『38名全員』が重傷を負わなかっただけ幸いだった。
しかし、森から抜け出す提案にようやく皆が頷いたのは、『転生』してからもう『二週間』は経過していた。
転生してすぐは、助けを待ってばかりで、ろくに動く事もしなかった。
幸い、森には『木の実』や『湧水』もあった為、餓死する事はなかった。
しかし、今まで『朝・昼・晩』と、栄養満点でお腹に溜まる食事を毎日摂っていた38名にとって、木の実と湧水だけの生活は、まさに『苦行』でしかなかった。
もちろん、森にある食料は木の実だけではない。
森に住む野生動物も、狩ろうと思えば手に入る。38名のなかには、遠距離攻撃を得意とする『弓矢使い』もいるのだから。
しかし、弓矢使い達は、まだ一度も弓を握った事はない。彼らが野生動物を狩るのを反対したからだ。
「かわいそう」「やりたくない」「まだ矢の扱いも分からない」
と、散々言い分を並べた。
その結果、森を彷徨って2日と経たないうちに、38人の間には亀裂が入った。
何かと互いに文句を言い合うようになり、雑用を押し付け合い、最終的にはろくに会話もしなかった。
そんな環境が、彼らを心身共に追い詰めた要因である。
その上、まだ彼は『地図』を持っていたい。この世界には地図代わりの『スマホ』もない。
そんな状況で助けをただひたすら待つのは、愚策だったのだ。
しかし、それでも38人は、ただひたすら助けを待ち続けた。ただジッと動かず、その場から離れず。
その間も、森を彷徨うモンスター達が38人を襲う。
t森に出現するモンスターなんて、軟弱なスライムばかり、ちょっかいレベルの強さだ。
それでも、38名は戦う事すらも渋った。
スライム1匹が現れただけで、キャーキャーと騒ぐ女子、戦いを押し付け合う男子。
覚醒者38名が揃ったところで、スライム1匹を追い払うのに、結局半日を費やしてしまう。
日に日にすり減っていく精神と体力、薄れていく正気、自分達に起きた事を考える余裕すらない。
そんな状況下で、ようやく全員で森を抜ける為に動き出した頃には、もう38名全員の仲はズタズタに壊れ果てていた。
転生した最初こそ、「全員で絶対生き残ろう!!」と言い合い、手を繋ぎ合った。
にも関わらず、その仲が壊れてしまうまで、そう時間はかからなかった。
そう、この世界は『綺麗な言葉』だけでは生き残れない。それを、もうとっくに翠は自覚していたのだ。
彼らの仲違いの原因は、この異常な状況も一因ではある。
だが、彼らの仲は、元からそれほど強くはなかったのだ。
『相手の意見を尊重する』『周りの意見も考えて行動する』
という行為さえしっかりしていれば、ここまで仲違いを起こす事もなかった。
皆が自分の意見を押し通す事に躍起になり、周りの意見なんて気にもとめなかった。
その結果、全員の意見がなかなかまとまらず、決断がとんでもなく遅くなってしまったのだ。
森の出口をようやく見つけた時には、我先にと森を抜け、そのまま草原へ倒れ込んでしまう。
その間も、女子生徒を押し退ける男子生徒や、足を悪くして肩を貸していた友達を置き去りにして森を抜ける仲良しグループ・・・等、もはや赤の他人と同じくらいの仲になってしまっていた。
翠が38名から抜け出した後も、何人かの生徒が、自主的に森を出る事を提案した。
しかし、それは却下された。
「まだ此処がどうゆう場所なのかも分からない」「闇雲に歩き回るのは逆に危険」
という意見は最もなのだが、反対する生徒のなかには
「歩くのがしんどい」「待っていた方が楽」
と、自分の状況にまだ危機感を抱けない生徒までいた。
彼らは『命を守る行動』よりも、『他力本願』の本能を取ってしまったのだ。
だが、来る日も来る日も助けは来ず、苛立ってクラスメイト同士で諍いが勃発。
しかし、そうこうしていても自分達の状況が良くなるわけではない。
転生してすぐ、翠と同じように森からの脱出を試みていたのなら、また状況は変わったのかもしれない。
体力がまだ沢山残っている状態で動き出していたら、精神がまだ安定している状態で動き出していたら。
しかし、自分達で森から脱出する意志を全員でまとめた頃には、もう精神も体力も限界にきていた。
その為、全員で真っ直ぐに進む事もできなくなり、余計に体力と精神を消耗してしまう。
久しぶりに見た太陽は、眩しすぎて目や肌が痛みを感じていた。
森の中からゾロゾロと出てきた38名は、心身ともにボロボロな状態。
久しぶりに感じる気持ちいい風に、思わず涙を浮かべる生徒も。
そんな38名の前を、たまたま通りかかった、この世界の住民は・・・