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50・二度目の出発

「リータ、気をつけるんだぞ。絶対に無理はするなよ。

 もし何かあったら、いつでも戻って来ていいから・・・」


「分かってるって、そのセリフもう聞き飽きたよ。

 それより、兄さんもまだまだやる事が残ってるんだから、頑張ってね。

 ・・・もう僕は、兄さんのすぐ側にはいないんだから。」


「わーかってるってば!!」


 町長は弟を送り出す時も、相変わらずな様子。

 見送りには兄以外にも、ドロップ町の住民全員が集い、翠達のこれからの旅路の無事を祈っていた。

 町人にとっても、翠達はヒーローである。

 まだ詳しい事情がはっきり分からない状況であっても、町人達を救った事に変わりはない。

 出発の朝には、旅に必要な物資を無償で提供してもらい、逆に申し訳なく思う翠達。

 その上、王都へ馬車に乗って向かう為には、3人合わせても3000円前後は持っていかれるのに、それも只になってしまう・・・なんて、優遇の度合いが桁違いである。


「ミドリはシカノ村での問題も解決したり、ドロップ町での問題も解決したり・・・

 調査員の言う通り、ミドリの名前が国中に轟くのも、そう遠くはないかもね。」


「や・・・やめてよ・・・もう怖くてしょうがないわ・・・」


 翠とリンの話に飛びついたリータ。

 リンにとってリータは、『弟』の様でもあり『後輩』の様でもある。

 逆にリータにとってリンは、『兄』であり『先輩』

 互いに種族も違い、出身地も違う。にも関わらずここまで親密な関係になっている。

 それは、互いに『共通点』を持っているから。

 それが例え、『偶然』だとしても、『奇跡』だとしても。2人にとって、その共通点が大切な事に変わりはない。

 2人が一生懸命に頑張った結果が、今にあるのだから。


(・・・覚醒者って、存外悪くないのかもね。

 成程、大勢の人が覚醒者を目指すのって、そうゆう・・・)


 馬車に荷物を乗せている最中、翠はふと思い出した。かつてリンが話していた、コエゼスタンスの事を。

 コエゼスタンスは、単なる『覚醒者の集い』ではなかった。

 人間も、モンスターも、隔てなく共に協力して、この国を守り救う。

 何故、コエゼスタンスにそんな偉業が為せたのか。

 それは覚醒者の集いである事も理由の一つだが、それよりも、もっと重要な事は、


 共に支え合い、助け合える『仲間』の存在だ。


 どんなに力を持つ覚醒者であっても、たった1人で国を守る事なんて、到底できる事ではない。

 だからこそ、信頼できる存在は、どんなに高性能な武器よりも頼りになる。

 仲間が多ければ多い程、大変な事も多くなるが、その分の安心感はお金では手に入らない。

 だからこそ、コエゼスタンスのメンバーは集ったのだ。

 どんなに強くて狡猾な相手でも、信頼できる味方がいるだけで、どんな敵でも相手にできる。

 今回の件も、翠はふと思ったのだ。


(もし・・・私1人だったら、もうとっくに逃げてたかもな・・・)


 翠が立派な武器を持つ兵士達に立ち向かえたのは、リータの事もあるが、何よりリンや町長という味方がいたから。

 無事成功するのかも分からないくらい危険な状態だったにも関わらず、怪我一つ作る事なく、事態を収束させる事ができた。

 翠は改めて、自分の行った事が『偉業』である事を自覚した。

 最初は『大袈裟』と思っていた翠だったが、よくよく考えてみると、誰にでもできるような事ではない事に気づく。

 だが、偉業に気づくと同時に、不安が増していってしまう。


(・・・コエゼスタンス・・・か・・・


 ・・・でも、ますます分からないな。何でそんなに素晴らしい団体が、いきなり解散なんて。

 仲違い・・・とは思えないんだよな、個人的に。)


 翠が色々と考え込んでいる間に、もう準備は全部済んでしまった。

 翠とリンが退治したヘルハウンドに関しては、もう町人達が処分の準備を進めている。

 ヘルハウンドの件は、調査団のメンバーも証人になってくれる事になった。

 これだけ証言が揃えば、上も認めるしかない。

 なら、もう腐敗が始まっているヘルハウンドの亡骸達は、早く処分しておかないと大変な事になる。

 亡骸の臭いに反応して、またモンスターの被害が出てきてしまう。 

 兵士達は小さくて粗末な馬車へギュウギュウに押し込め、翠・リン・リータの3人には、一番座り心地の良い馬車を用意してもらえた。

 馬車に飾られた装飾品はそれほど無いものの、座り心地はまさに『ソファ』であった。

 翠は、かつて父が運転していた『車のシートの座り心地』を思い出す。

 翠は車の中で、いつも眠ってしまう癖があった。

 しかも、それは父の車に限った話ではなく、公共交通のバスや電車の中でも。

 修学旅行の際は『新幹線』に乗車したのだが、案の定、あまり楽しい旅路ではなかった。

 馬車よりも新幹線の方が圧倒的に快適なのだが、翠にとってはクラスメイト達からのちょっかいに耐えるだけの、まさに『拷問』であった。

 静かに外の景色を眺めたいのに、何かといちゃもんをつけてケラケラ笑うクラスメイト達に、翠は修学旅行中の2泊3日間、ずっと気が休まる事はなかった。

 その上、学校の修学旅行では翠が大好きなゲームがプレイできない。

 心の拠り所であり、現実逃避できる物ができない不安は、精神がすり減る思いだった。

 他のクラスメイト達はワイワイと初日から最終日まで盛り上がっていたが、翠はとっとと終わってほしい気持ちでいっぱいだったのだ。


「・・・ふっ。」


「?? ミドリ??」


「あぁ、ごめんごめん、リン。

 いやね・・・・・リン達と旅ができるのは、改めて楽しいなぁ・・・って思っただけ。」


「・・・え・・・いきなり・・・???」


 準備が整った翠達一行は、初の馬車に・・・・・


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