49・うやむやになりながらも・・・
その翌朝、調査員は今回の事件を収束させてくれた翠・リン・町長・リータの4人に、詳しい事情を話してくれた。
翠は、調査団がしっかり仕事をしてくれるのか不安ではあった。
しかし、思いの外しっかり『締め上げて』くれたおかげで、今回の事件はあっさり収束に向かいそうだった。
だがその後味は、あまり良いものにはならない様子・・・
「どうやらあの兵士達を雇ったのは、王都でいくつもの土地を持つ『貴族』のようです。」
「・・・で、その『貴族』というのは・・・??」
「それが・・・兵士達も自分の雇い主が分からないみたいです。」
「えぇ?!」
「顔を伏せ、人を使い、兵士達に『前金』をかけて仕事を依頼したのです。
その前金というのが相当な金額で、それもこの事件の発端になったのかもしれません。」
「・・・あの・・・本当に兵士達は、雇い主を知らないんですか?
責任逃れする為に、話をはぐらかしているだけなのかも・・・」
「私達もその線を疑いましたが、全員に尋問しても同じ返答しか返ってきませんでした。
それに兵士達も、
「自分達は雇い主からの情報を鵜呑みにしてしまい、彼らには本当に悪い事をしてしまった。」
と言っててね。
そんな言葉を言われてしまったら、もうこれ以上責め立てるわけにもいかない。」
「・・・・・ですね。」
「その貴族が連絡用に使った人物の名前も教えてはくれたんですけど、恐らく・・・特定はでき
ないでしょう。
そうゆう職の人間というのは、名前を幾つも使い分けるので・・・」
翠も、心の何処かで気づいていた。
この事件は、確実に尾を引く
そして、大抵解決できず、未解決のまま終わる
そう、完全に『人為的な事件』にも関わらず
不可思議な程に、『証拠』も『証言』も見つからないまま・・・
兵士達が騙されていたのなら、自分達は2重の意味で唆された事になる。
一体コエゼスタンス狩りを斡旋したのは何者なのか、どれほど地位が高い人間なのか、そもそも人間なのか、モンスターなのか・・・
それらは、ほぼ謎のまま、時間だけが経過して、事件そのものが風化していく・・・
これが、兵士を雇った主の思惑。
そして、この事件の真相は、主にしか分からない、大勢の人々にとっては大迷惑な話。
旧世界の都市伝説でも、『世界の暗部』はよくネタとして取り上げている。
翠は転生して、その暗部に足のつま先を踏み入れてしまった感覚に、思わず身震いしてしまう。
旧世界では、ただ「へー」と言いながら、呆然と見ていた身分に過ぎなかった。
しかし、思いもよらぬ形で関わってしまった。これもこれで『詐欺』に遭った気分の翠。
もう自分が、色々と後戻りできない場所まで来てしまった事を、自覚してしまった。
しかし、この事件の収束に一役買ってしまったのなら、後戻りはもう完全に不可能。
事件の解決・未解決に関わらず、この事件の『功労者』として。
面倒事に巻き込まれる事を承知していた翠だったが、思った以上に闇が深そうで、今更ながら後悔している。
そんな彼女に反して、リンはかなりノリノリな様子。
・・・恐らく、『個人的な恨み』も混ざっているのかもしれない。
リンは翠以上に、調査員にヅカヅカと質問をぶつける。
「それで、彼らの処遇は?」
「最近はコエゼスタンス狩りに関する逮捕者も出ているんだが、まだ法律が固まっていない事も
あって、重罰を求めるのは少し難しいだろう。
だが、一度処罰が下ってしまえば、もう王都の兵士としては働けないだろう。
それだけでも、十分な罰になると思うぞ。」
「でも、この事件を引き起こした彼らの雇い主には、何の裁きもないなんて・・・」
リンが苦い顔をするのも理解できる。それは翠もだが、調査員も同じである。
翠が静かにリンの肩に手を置き、申し訳なさそうな顔をされてしまい、リンはこれ以上の言及はできなかった。
気持ちは分かるが、こればっかりは相当難しい話。
覚醒者3人が束になって、強引にでも事件を解決しようとしても、『二次被害』が生まれる可能性だって十分に考えられる。
慰めにはならないものの、調査員もあれこれと弁解する。
「まぁ、町人や君達にとっては大迷惑な事件だったけど、怪我人は1人も出ていなかったんだ。
それだけでも、君達の功績は十分にある。勲章が授与できるレベルだ。」
「いやいや、やめてくださいよ・・・」
そう言って、翠は必死になって遠慮のポーズを取る。
それは、単に恥ずかしい事も一因ではある。
だがそれよりも大きな理由としては、目立つとまた余計な事件に巻き込まれる可能性があるから。
「ただね・・・この件は国の重鎮達にも話さなければいけない案件だからな・・・
君達の名が国中に轟くのも、時間の問題かもよ。」
「主犯が捕まらないにも関わらず、目立たなくちゃいけないんですか?」
リンのズバッとしたその言葉に、調査員と翠は苦笑いをするしかない。
ごもっともすぎて、何も言い返せないのだ。
翠も、どうせだったら事件をきっちり収束させた後に、『功労者』として名を知られた方がマシだった。
しかし、現実はそうもいかない。それこそ、『知らなくても、いい事がある』という事なのかもしれない。
「ところで、私達は明日にも、王都へ兵士を引き渡すのですが、よろしければ貴方達を王都まで
只で送りますよ。」
「えぇ?! いいんですかぁ?!」
「あぁ、私達もこれくらいはしないとね。」