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48・『理解力』

 まさに、旧世界でもよくある『詐欺体験談』であった。翠の家にも、『そうゆう人』が来た事があった。

 だが昔と違い、玄関前の様子がすぐ分かるモニター等で、そうゆうトラブルに出くわさない方法は増えてきた。

 ネットに『対処法のマニュアル』が載っているくらい、大勢の人が抱えている悩みなのだから。

 しかし、対処法が増えていくと同時に、勧誘の方法も増えていく。

 ふとした事がきっかけで引き込まれた・・・なんて話も珍しくはなくなってしまった。

 何も知らない人を利用したり、騙す形で心の隙間に入り込んだり・・・と、その手法がだんだん悪質になった・・・と言っても過言ではない。

 それだけ相手も必死なのだ。


 そして、町長とリータの両親は、まんまと引き込まれてしまったのだ。

 不安や恐怖につけ込まれ、信頼してしまったら、もう後は色々と察する事ができる。


「・・・で、そのインチキ覚醒者さんは、今何処に・・・?」


 リンのその問いに、町長は首を振る。だが、翠にはもう分かっていた。

 何故なら相手も、自分達と同じように、トラブルや事件を自主的に回避する頭を持っている。

 自分の行っている事が、『罰になる事』という自覚を持っていなければ、人を騙して大金を得ようとはしない。


 だからこそ『逃げる』 目を瞑って 全力で


 自分の道徳心から 償いから


 大金を手にして


「両親が亡くなって、町から出て行ったみたいだ。今頃何処で何をしているのか・・・」


 両親の事を話し終えた町長は、大きくため息をつきながら、椅子の背もたれに全身を預け、天井を見上げる。

 その目は、過去を懐かしんでいる気持ちと、両親を憐れむ気持ちが混ざっていた。

 どんな人間であったとしても、2人にとっては『唯一無二の両親』

 捨てきれない気持ちも沢山あった、何度も希望を待ち望んだ。


 そう、まるで『過去の翠』のように・・・


 色々と話し込んでいる間に、すっかり夜が深くなり、町から明かりが一切消えてしまう。

 でも、まだ兵士達の取り調べが終わっていないのか、下の階はまだ騒がしい。

 言い争っている様子ではないのだが、尋問が思うように進まない様子。


 そして、町長の次に話を始めたのは、弟のリータ。


「・・・だから、僕は兄さんを・・・兄さんだけでも守りたかった・・・

 自分にとって、たった1人だけの『家族』であり、たった1人だけの『理解者』」


 リータが兄である町長を大切に思う理由も、翠とリンにはよく分かる。

 どんなに過酷な状況下でも、たった1人だけでも『理解者』がいるだけで、どんな困難でも乗り越えられる。

 特にリンの場合、翠という『理解者』がいるおかげで、目まぐるしく成長を続けている。

 そう、『理解者』によって得られるものは、馬鹿にできないのだ。

 逆に考えれば、兵士達は覚醒者の事をしっかり『理解』していないから、自分の意思すらもガタガタで脆いものだったのだ。

 それも、翠達に負けた敗因なのかもしれない。


 真実を理解するのは、確かに難しい。

 真実は、いつも表には姿を表さず、いつも隠れている。

 他の物事に紛れていたり、思いもよらない場所から見つかったり。

 どんなにお金や時間を費やしても、得られない真実があるくらい。

 しかし、もし兵士達が覚醒者の事を、少しでも理解しようと努力していれば・・・




(・・・でも、こうゆう話って、私が前に生きていた世界でも言える事だよね・・・


 ・・・・・・・・・


 もし・・・・・


 もし、クラスの誰か1人でもいいから、私のゲーム好きを肯定してくれたら・・・)


「・・・・・ミドリ?」


「・・・あぁ、ごめんごめん、リン。」


 翠は笑って誤魔化した。これ以上考えるのは、『不毛』だと思ったからだ。

 そう、もう今の翠は、クラスメイトなんて恐るるに足らない存在。

 何故なら、もう翠自身にも有無を言わさない実力がつき、頼もしい仲間(理解者)を持つ事ができた。

 これ以上に頼もしいものはない。


 そんな事を翠が考えていると、再びリータが、ポツリポツリと語り始めた。


「でも自分は、守られてばかり。庇われてばかり・・・

 ・・・・・それが突然、嫌になったんです。隠し部屋で、ずっと一人きりで助けを待つのが、

 何だか『卑怯』に思えて・・・」


 その言葉に、町長はハッとして言った。


「じゃあ、あの時リータが隠し部屋から出てきたのは・・・」


「・・・守られてばかりは嫌だったから・・・っていう、自分勝手な行動です。

 おかげで僕は覚醒者になれましたが、ミドリさん達には、かなり心配をかけてしまって・・・


 ・・・今思い返すと、本当に命取りで無謀すぎて・・・自分でも馬鹿すぎて笑えません。


 本当に・・・本当に・・・ごめんなさい!!!」


 そう言って、リータは椅子から勢いよく立ち上がり、そのまま膝を床につける。

 そして、深々と土下座した。

 リータが勢いよく立ち上がった反動で椅子が倒れてしまっても、当の本人はそんなのお構いなし。

 しかし、翠達は、誰もリータを責めているわけではない。

 むしろ、覚醒者として目覚めた事の方が、3人にとってはとても重要な事である。

 翠やリンは、土下座を続けるリータを諌めたのだが、リータは涙を流していた。

 今までずっと我慢していた感情が、色々と告白した事で吹き出てしまったのだ。

 そして、それは兄である町長も同じ。兄弟は互いに抱き合って、互いに「ごめんな・・・」と言い続けている。


 この場にいるのは失礼・・・と感じた翠とリンが部屋から出ると、丁度廊下の奥で、調査員の人が2人を呼び止める。


「・・あ、ご苦労様です。」


 翠はそう言って、軽く会釈をする。

 部屋の奥で泣き続ける兄弟の声が調査員にも聞こえたのか、中の様子は直接伺わず、翠に聞く調査員。


「・・・彼らは、大丈夫ですか?」


「あ、はい・・・

 ちょっと・・・今回の事件で、色々と溜まっていた感情があったみたいで・・・」


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