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47・町長一家の没落の原因

 町長とリータが話してくれた2人の過去は、翠とリンに衝撃を与えた。

 ・・・だが、何故か翠には、その話に『妙な聞き覚え』を感じていた。

 そう、この話は、旧世界でも決して無かったわけではなかった、『人間の心理』を突いた


 『胡散臭い事件』


 と、よく似ていたから。


「俺達の両親も、一応魔法は扱えた。でも扱える範囲は、俺と同じくらい。

 特段何かに優れている・・・というわけでもなかったんだ。

 ・・・だからこそ、焦っていたのかもしれない。


 このまま『町長』としての立場を、何者かに奪われるんじゃないか


 ・・・とね。

 特に俺達の両親は、かなりプライドが高かった。

 母さんもこの町出身で、『玉の輿』を狙って結婚した・・・なんて噂もあったけどね。」


 ここまでなら、地位や権力を有する家庭では、よくある話・・・なのかもしれない。

 だが、口にしている町長の顔は、完全なる『呆れ顔』だった。


  何故そんな、目に見えないものに執着していたんだ・・・


 と言わんばかりの顔。

 一方弟のリータは、呆れ顔に混じり、『同情』の笑みを浮かべていた。


「でね、そのストレスを、いつの間にか俺達兄弟にも向けるようになったんだ。

 やれ「役立たず」とか、『家系の恥』とか、俺も散々言われ続けた。」


「・・・・・」 「・・・・・」


 翠とリンは、同時に同じ事を思った。

 「人の事を言える立場でもないでしょ・・・」と。そして、それは兄弟も同じであった。

 何故、文句を言う人間、罵声を吐く人間というのはこうもワンパターンなのか。

 言っている本人が、一番当てはまっている。それに気づかない時点で、何も言う立場にない。

 ・・・それが自覚できないから、あれやこれやと文句を言えるのかもしれないが・・・


「俺もこの対応にはさすがに黙っていられなくてね、おかげで俺は両親と最後の最後まで仲が悪

 かったんだ。

 ・・・いや、両親は町人達からもあまり好かれなかった。

 仕事もロクにしなかったし、あちこちでトラブルをばら撒いていたからな。

 ただ、弟はあまり物事をはっきり言うような性格でもなかったからな、俺が両親から遠ざける

 ように、色々と手を尽くしていたんだ。


 ・・・で、両親が2人で病気になって亡くなった時、ようやく分かったんだよ。

 どうして両親が俺達に辛く当たり続けていたのか。

 ま、今思い返してみても、無茶苦茶すぎる話である事に変わりはないんだけどな。」


「・・・?」 「・・・?」


「『インチキ覚醒者』・・・て言葉、知らない?」


 その発言に、リンは思わず手を叩きながら答えた。


「覚醒者ではないにも関わらず、覚醒者の『フリ』をする、あの・・・?!」


 そう、かつてリンが話してくれた『討伐詐欺』に似た話だった。

 翠は思わず、(また『詐欺』か・・・)と思ってしまう。


「そのインチキ覚醒者に、両親は多くのお金を貢いで、俺達兄弟を覚醒者にさせる為の相談をし

 ていたんだ。

 ・・・でも、インチキ覚醒者は口だけ達者なだけで、結局その人も覚醒者ではなかった。

 だから、当然俺達を覚醒者になんて、当時はできるわけもなかった。

 インチキ覚醒者はな、こう言ってたみたいだ。


「この兄弟の体か、もしくは精神に、

 『かつて当主によって退治されたモンスターの怨念』

 が宿っています!

 兄弟に乗り移ったモンスターは、貴方達夫婦と陥れようとしているのです!」


 ・・・ってね。」


「・・・・・は?」 「・・・・・は?」


 翠とリンは、口をポカーンと開ける。その顔が面白かったのか、町長とリータはくすくす笑っていた。

 だが、疑わしい事この上なくて、むしろ訳が分からないのだ。

 疑念の感情が我慢できなかった翠が、町長にもっと詳しい事を聞き出す。


「・・・あの・・・色々と聞き出したい事は山々なんですけど・・・

 まず・・・『退治したモンスターの怨念』なんて、本当に存在するんですか?」


「それがね・・・・・

 両親が亡くなった後、後々俺が個人的に調べてみたんだけど、『過去の事例』はいくつかある

 みたいなんだよ。」


「そ・・・そうなんですか?!」


「あぁ、でもモンスターの怨念に取り憑かれた人間って言うのは


 錯乱して人間をやめてしまったり

 医師には解明できない、謎の病にかかってしまったり


 とにかく、目に見えて『異常な状態』になるんだ。


 でも見た通り、俺達は体調も精神もほぼ普通。

 体調を崩したり風邪をひく事はもちろんあるけど、大声を出しながら暴れ回ったり、徘徊した

 りする事もない。

 ・・・まぁ、ちっちゃい時は、何か気に食わない事がある度に暴れてた時もあったけどね。」


「それは私も同じですよ。」


 翠が突っ込むと、リンは静かに吹き出した。


「・・・まぁとにかく、俺達兄弟に異常なんて、ほぼ何も無かったんだ。

 でも、両親達にとっては、『魔法が使えない=異常』になってしまったんだろうな。」


「・・・無茶苦茶な・・・」


 リンは思わず、そう呟いてしまう。


「だから両親達は、そのインチキ覚醒者に大金を貢いで、俺達を無理矢理にでも覚醒者にさせよ

 うと躍起になってたんだ。

 それこそ、俺達がまだ小さかった頃は、この家も綺麗だったんだ。

 でも雇っていたお手伝い達を全員解雇して、そのお金は全部貢いで・・・」


 翠とリンは、『余計な話』まで聞いてしまったような気がして、ますます申し訳なくなる。

 この家が妙に古ぼけている理由、それは『両親の散財』

 2人の家を見れば、両親がどれだけインチキ覚醒者に心酔していたのかが分かる。

 その作ったお金の少しでも良いから、町長やリータに注いであげれば、息子から見放される事もなかったというのに・・・・・


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