46・隠れていた意思が主張を始める
調査団は、兵士達だけではなく、当然翠達の取り調べもする。
証言を認めてもらえるのか不安だった翠だったが、あっさり聞き入れてくれた事に、翠は心の奥で安堵した。
だが、ちょっと心配にもなってしまう。
翠が旧世界で見ていたドラマや映画で、容疑者や関係者が刑事と取り調べをするシーンはよくある。
そのシーンで、容疑者や関係者側の話は、すんなり受け入れてもらえないパターンが多かった。
でもそれは仕方ない事、言い逃れならいくらでもできる上に、嘘を並べれば自分の容疑が晴れるかもしれない。
だからこそ、事件を追う刑事達は、供述に疑いを持つ。
それがある意味、『事件解決のコツ』でもあるのかもしれない。
ただ、今回に限っては、翠達の話を疑う調査団は誰もいなかった。
『証言者』が多い上に、兵士達も自らが反省して自供していた。
翠達の話とも合致した為、時間はかからなかったのだ。
ただ、兵士達以上に時間がかかった人物がいた。それは、ついこの前、覚醒者になったばかりのリータ。
覚醒者に関して、まだまだ謎が多い事もあって、リータはその時の状況を『現場検証』も込みで調べられた。
もちろん、その時リータと一緒にいた翠も一緒に。
ただ、やはり説明する側の翠でも、頭の中で疑問が溜まっている。
リータが覚醒者になった事は喜ばしい事なのだが、何故あのタイミングで、何故剣士として・・・
考え出したらキリがない。
しかし、リンが覚醒者になった時と重ね合わせてみると、ほんの少しだけ『共通点』が見えてくる。
その共通点に関しては、リンも気づいている様子。
現場検証が終わった後、話を切り出してくれた。
「・・・やっぱり、『覚醒者になるトリガー』って、『ピンチ』が関係しているのかも・・・」
「・・・リンもそう思う?」
「ミドリも気づいてたんだ。
自分が覚醒者になったのは、あの巨大なクモ、タカギグモに襲われている時。
あの時は、自分がまだ覚醒者じゃなかった上に、まさか本当に現れるとは思っていなかった。
・・・もし、自分があの時、覚醒者にならなかったら・・・」
「私達2人で、やられていたかもね。」
「やっ・・・やめてよ・・・」
「あはははっ、ごめんごめんっ!」
ほんの少ししょんぼりしてしまったリンの頭を、ミドリが優しく撫でる。
あの時の事は、リンの中でまだトラウマになっているのか、その後もなかなか気分を直してはくれなかった。
その間、翠は町長とリータに、自身とリンについての過去を話す。
2人出会ったきっかけや、リンが覚醒者になった時の事を、事細かに説明した。
すると、町長も『覚醒者になるトリガー』が、何となく分かってきた様子。
「そうか・・・リータの時も、かなりピンチだったみたいだから・・・!!」
「やっぱり、危機的状況になると、『自分でもありえない力』って出てくるものなのかもね。
危険な目には遭ったけど、結果的に良かったんじゃない?
リータ。」
翠のその言葉に、リータは大きく首を縦に振りながら、スピアを抱きしめていた。
そして、リータはようやく、緑の目をしっかり見ながら、自分の意見を口にする。
「ミドリさん、僕も連れて行ってくれませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・
えぇぇぇえええ?!!」
「ちょ・・・町長さんっ!! 声大きい!!」
翠やリンより、一番びっくりしたのは兄の町長。翠は慌てて町長さんの口を抑える。
まだ調査団が、下の兵士達に尋問をしている最中なのだ。
「町長さんの声にびっくりした・・・」と言いながら、体をピクピクと痙攣させるリン。
それは翠も同じだった。
「リータ・・・それは本心なのか?!
自分の誕生日ですら、物を強請る事はなかったのに・・・!!」
その言葉に、リータは少し気まずそうにしながらも、自分の気持ちをしっかり打ち明けてくれた。
「・・・自分に『物を強請る資格』なんて無い・・・と思っていたんだ。
コエゼスタンスの一員である、ドロップさんの末裔にも関わらず、魔法が全く扱えない自分な
んか・・・
・・・でも、兄さんだけでも、自分を『家族』として見てくれただけでも嬉しかったよ。
・・・でも、僕はこのままの自分だと嫌なんだ。もう、守られてばかりなのは嫌なんだ。
自分が必死になって魔術の勉強をしていのも、『守る側』から『守られる側』になる為でもあ
ったんだ・・・!
一番古い記憶の中でも、兄さんは僕を庇ってくれた。その時の光景は、今でもはっきり覚えて
るよ。」
「リン・・・・・」
リンのその発言に、翠は『とある重要な事』に気付いたのだ。
「・・・そういえば、リータさんや町長の『ご両親』って・・・」
「・・・亡くなったんだよ、『危険で確証のない儀式』によって。」
そう呆れ顔で話す町長と、急に頭を抱え込んだリータ。
2人にとっても、話したくない内容なのは、その態度だけで十分に伝わる。
しかし、ここまできてしまったら、聞かないわけにはいかない。