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45・面倒事はまだまだ続きそうで・・・

「『王都の何者』かが、俺達を?!」


「えぇ、でもまだ確証も何もないから、決まりではないんだけど・・・」


「・・・つまり、コエゼスタンス狩りは、『王都の何者』かが仕組んでいる・・・?!」


「・・・確証はないけど、もしそうだとしたら、色々と辻褄は合う。

 あの人達、歴とした『兵士』だったわ。

 でも『王家直属』とか、そうゆう立場ではなくて、雇い主は『貴族』か『王族』みたい。」


 町長は、頭を抱えた。

 さすがに翠も頭を使いすぎたせいで、調査団の事はリンとリータに任せ、翠と町長は部屋でぐったりしていた。

 そして、調査団を見張っているのは、リンとリータの2人だけではない。

 まさか歴とした兵士にあんな目に遭わされては、町人達も黙ってはいない。

 町人達も、兵士や調査団に対し、厳しい目を向けていた。

 ある意味幸運だったのは、色々とゴタゴタが重なったおかげで、リータが捲し立てられる事はなかった・・・という点。

 まだ自分自身が納得できていない状況では、周囲の声なんて聞こえるわけがない。

 今はそっとしてあげるのが一番なのだ。


「・・・成程、『覚醒者』は『王族・貴族』と並んで地位が高い存在。

 それを厄介に思っている人というのは、必然的に地位が高い人間。

 なら、コエゼスタンス狩りの動機も納得できる。」


「多分、あの兵士達は、雇い主に色々とあらぬ話を吹き込まれたんだと思う。

 そうじゃなかったら、私達に対してあんな事を言わない、話し合いに発展できるわけがない。

 つまり、兵士達が私達に抱いている感情は、『憎悪』でもなければ『嫌悪』でもない。

 ただ単に、『雇い主から指名された相手』に過ぎなかった。」


 町長は、苦い顔をしながら唇を噛む。でも、それは翠も同じである。

 真実がどんどん明らかになってきているのは喜ばしい事なのだが、信じられないのだ。

 まさか国の代表が、そんな『妄想的な理由』で、国に住む町人達を脅し、覚醒者を目の敵にしている事に。

 覚醒者に関しての情報が、まだまだ浸透していない事も理由にあげられているが、それにしても、とばっちりが過ぎる。

 翠や町長が、王都の権力や地位の事なんて、気にした事もない。

 何故そんな『他所の事情』に、自分達が巻き込まれなければいけないのか。

 直接王都の人間に聞きたいくらいだった。


(・・・ひょっとして、この国って、旧世界よりも事情が複雑なのかな・・・

 旧世界も色々と面倒な事情が山ほどあったけど、この世界に関しては、事情が前の世界以上に

 『複雑』みたいだな・・・)


 『モンスター差別』の問題に加え、『コエゼスタンス狩り』の問題・・・と、頭を抱える件ばかりが殺到して、翠は思わずため息をついてしまう。

 一番厄介なのは、どの問題も『具体的な動機・理由』がない事。

 もし、何かしらの黒い歴史があるのなら、何からどんな事を始めたらいいのかが分かりやすい。

 もちろん、問題を解決するのは相当大変な事ではあるが、解決の為に歩み、支え合う事が一番大切。

 しかし、その解決の糸口が見つからない・・・となると、解決の為に歩む気力が減ってしまう。

 翠が生きていた旧世界の日本でも、似たような問題が、無いわけではなかった。


 でも、彼女は心の何処かで願っていたのだ。


 この世界では、旧世界のような煩わしい問題がありませんように・・・


 と。


 しかし、そんな翠の願いに反して、せっかく転生したにも関わらず、旧世界と似たような問題に巻き込まれてしまった。


(・・・もしかしたら、これが『生きる』っていう事なのかもね。煩わしいけど。)


 翠はため息を吐きながらも、自然と苦笑してしまう。

 『生きる』という事は、『問題・悩みを抱える』という事。それは決して、学校では学べない事。

 それが分かっただけでも、ほんの少し得をしたような気持ちにはなれる。

 めんどくさくてややこしい問題ではあるが、それらと向き合う事も『生きる』という意味。

 翠は、ふと自分の『人生の意味』を、この件で考えたのであった。


「・・・でも不自然ですね?」


「・・・リン?」


「だって、コエゼスタンスは、国の重鎮達からの信頼が厚い団体だったんです。

 その末裔を目の敵にするなんて・・・あまりにも・・・」


 純粋なリンが、そう思っても仕方なかった。特にリンは、コエゼスタンスへの憧れが人一倍強い。

 だからこそ、誰よりも理解できないのだ。コエゼスタンスの末裔が、こんな目に遭っている事が。


 ようやく事態が収集した頃には、壊されてしまった町の外壁などもすっかり元通りになり、町には前の賑わいが戻りつつある。

 被害が大きくなる前に事件を収束できた事も幸いして、町の被害は『小さな突風レベル』で落ち着いた。

 ただ、問題はまた別のところで難航していた。兵士達は嘘偽りなく、自分達の事をあれこれと話してくれているにも関わらず、なかなか話がまとまらず、町人達も首を傾げていた。

 何故か調査団と兵士達との間で、話がなかなか噛み合わない様子で、これには話す側の兵士も聞く側の調査団達も、頭を抱えている。

 その間、翠とリンの2人は、事件の真っ只中であまり詳しく調べられなかった『地下部屋』の探索に明け暮れていた。

 空調も管理できる上、飲み水も確保できる立派な地下室だった為、居心地が予想以上に良かった。

 町長もリータも、地下室はあまりいじらなかった為、残されている本も実験道具も綺麗なままだった。


「・・・ミドリさん、もしよければ、何冊か本を持って行ってください。」


「え?! リータ、いいの?!」


「・・・自分はもう『剣士の覚醒者』

 魔術書を読む必要もありません。

 ・・・ただ、剣の手入れがこれからの勉強がわりになりそうです。」


 リータは、笑いながらそう言った。その顔は、まさに吹っ切れた顔であった。


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