44・分からない事だらけでも歩み続ける
「・・・ほら、ご飯食べて。」
「・・・・・すいません・・・色々と・・・」
「くたばってもらったら、事件の収拾がつかないの。
それに貴方達、まだ迷惑をかけた町人達に、一言も謝ってないんでしょ?
ひと段落ついたら、ちゃんと謝ってよね。
どれだけ皆が怖い思いをしたのか、やらかした貴方達なら分かるでしょ?」
「・・・・・すいません・・・」
その日のうちに、この事件の真相が究明できるわけもなく、王都から調査員が来るまでの間、兵士達の世話は翠達が受け持つ事に。
最初は敵対心剥き出しだった兵士達も、翠達との話し合いや、互いに同じ時間を共有する事で、『誤解』が溶けていき、中から『真実』が姿を見せてきた。
翠達が、全くの無害である事。 翠達が、安易に自分達の力を使わない事。
翠達は、普段から町人と同じように生活をしている事。
決して、
『権力や財力を欲する獣のような存在』でもなければ、
『国を混乱させる狂人達』でもない。
怒ったり、泣いたり、笑ったりしながら、日々の生活を噛み締めている、自分達とほぼ変わらない存在である事を、ようやく理解してくれた兵士達。
翠は、兵士達に食事を提供したり、怪我をした兵士の手当てをしたり・・・と、王都から調査隊が来るまで、彼女は熱心に面倒を見ていた。
会った当初はかなり酷いものではあったものの、どうにか冷静に話し合いができるようになった兵士達。
最初は、翠が提供する食事に、一切手をつけなかった兵士までいた。
しかし、お腹がすけば、当然思考力が低下して、体と脳が栄養を欲する。
どんなに意地を張ったところで、『本能』には敵わない。
兵士達を大部屋から出す事はできなかったものの、翠が相手をしていた事もあって、兵士達の精神も狂う事なく、出会った当初よりも冷静に話ができるようになった。
その間、リンとリータ、そして町長は、騒動で壊れてしまった家々の修理、町人達のケアを行う。
そして、リンの時と同様、町人達はリータの覚醒に唖然としていた。
デジャブな光景に、リンは笑いを堪えるのに必死だったが、リータにとっては喜んでばかりもいられない。
『剣士』として色々な実力や知識を身につける為、リータは訓練に明け暮れた。
町には剣術を教えてくれる人はいなかった為、『独学』でどうにかするしかない。
しかし、覚醒者としての恩恵もあり、リータの剣の腕は、遠目で見ていた兵士でも分かるくらい、メキメキと短期間で成長していた。
色々と忙しいなかでも、リータは剣を振るい続け、リンの召喚するモンスターとも特訓を重ねている光景は、まさに『師匠と弟子』もしくは『先輩と後輩』の光景だった。
翠がかつて生きていた旧世界でも、部活で『先輩後輩』の光景はよく目にしていたのだが、翠は帰宅部だった為、全然実感は感じられなかった。
しかし、日に日にリンを慕っていくリータの姿勢は、まさに『理想的な後輩』である。
リータにとっても、リンは『理想的な先輩』なのだ。
そして、調査団が来るまでの間に、翠は個人的に色々と情報を得る為、兵士達との話し合いを根気強く続けた結果、色々な事が分かった。
やはりその内容は、緑の理解に及ばない中身だったのだが、もうそんな状況に慣れてしまった翠は、兵士達の話をすんなり聞き入れてしまう。
町長からは、「まだはっきりしないけどね・・・」と言われたものの、こんな結末になってまで、兵士達が嘘を吐くとも思えなかった翠。
自分達の敗北を悟っても尚、まだ嘘を重ね続けるのは、馬鹿を通り越して『考え無し』である。
それに、翠は『相手の嘘を見抜くゲーム』、つまり『人狼ゲーム』も何回かプレイしている。
翠には一緒にゲームをしてくれる『友達』はいないが、よく『両親』と一緒に遊んでいた。
ただ、家族とは人狼ゲームの類はしなかった。理由としては、リアルの関係がギクシャクしてしまいそうだから。
単なるゲームなのは翠もよく分かっているものの、普段から仲が良い相手だと、どうしてもやりにくいのだ。
しかし、最近はオンラインで人狼メンバーを集い、共に騙し合う事ができる。
画面越しの相手は『声』と『文字』だけではあるものの、それだけでも『嘘』というのは分かってしまうもの。
嘘にも一応『得意』『不得意』があるものの、細かい『顔』や『声』の変化を見逃さなければ、嘘に塗り固められた真実が尻尾を出す。
人狼ゲームに関しての『コツ』は、コントロールの技術力でもなければ、レベルの問題でもない。
相手の変化・異変を、いかに早く気づき、そこから広く推測広げられるか・・・だ。
その一番手っ取り早い方法というのは、実は簡単。誰にでもできる事なのだが、それが難しい。
それは、地道に会話を重ねる事。
何度も顔を合わせ、会話を重ねていけば、嘘が露呈しやすい。
会話のどこかで辻褄が合わなくなり、そこから出た『ほつれ』を引っ張り出していけば、真実が露わになる。
「ねぇ。
貴方達、私達と最初会った時、私達を相当疑ってたみたいじゃない。」
「そ・・・そんな事は・・・」
「・・・いや、あれは疑っていた・・・というより・・・
『自分の正義』に溺れていただけ・・・
かな?」
「っ!!!
・・・・・・・・・・
・・・・・あぁ、そう・・・・・かもな・・・
でも、俺達はそう『教えられた』」
「誰に?」
「『誰に』って・・・・・
そりゃ・・・『向こうのお偉いさん』」
「『向こう』って・・・どっちよ。」
「・・・ふーん・・・
『王都のお偉いさん』なのねぇー」
「なっ!!! 何故そこまで知ってるんだ?!!」
案の定、相手の方からボロを出してくれた。図星をつかれてしまうと、人間はどうしても動揺してしまう。
その動揺を隠す上級者もいるが、兵士にそんなハイレベルな技術が身に付いている筈もなく。
上手い具合に隠すのも、相当至難の業。一度『会話のほつれ』が出てしまうと、なかなか引っ込みがつかないものなのだ。
ゲームの人狼ならまだしも、直接対話すると、相手の『表情』や『仕草』で、図星である事が割とよく分かる。
良く言えばそれは『正直』なのだが、それが命取りとなってしまう事も、厳しい世の中では多々あるのだ。