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43・『力』は『使うもの』ではない

 後々になって、翠は町長から話を聞いた。リータは覚醒者になるまで、剣を握った事なんて一度もなかった。

 その上、あのスピアは初代当主が使っていた代物ではあるものの、当主がスピアを使ったのは、たったの数回程度。

 あのスピアは、元々当主の趣味である『狩猟』に用いられていた。

 あまり使われていなかった事もあり、刃こぼれやサビもなく、何十年後の時を経ても、子孫のリータを覚醒まで導けたのだ。

 あの時は、本当にたまたま、リータは咄嗟に剣を握ったのだ。

 ある意味『奇跡』に『奇跡』が重なった展開だ。

 覚醒者となった当の本人、リータはまだ納得できていない様子で、スピアをジッと見つめていた。

 そんなリータの前に立ったのは、リンである。


「・・・最初は自分もそうでしたよ。」


「・・・え?」


 リンのその発言に、リータはキョトンとする。そんなリータの顔を見たリンは、少しだけクスッと笑った。


「まさか自分が、『召喚師』として覚醒するなんて、夢にも思っていませんでした。

 ・・・でも、今もこうしてミドリの支えに慣れている・・・という実感があれば、もうどうで

 もよくなっちゃいました。」


 そう言って笑うリン。無邪気な彼の笑いに、リータも思わず笑みが溢れてしまう。

 そんな2人を、もっとじっくり観察したかった翠だが、まだやるべき事が残っている。




「・・・さてと、そろそろ話してくれませんかねぇ?」


「ひ・・・ヒィィ!!!」


 翠が杖を差し出すだけで、兵士達はビクビクと震えてしまう。

 部屋の一室に集められた兵士達の中には、まだ反抗的な目で翠を睨みつける人までいる。

 しかし、もう彼らに威勢なんてない。

 最初は兵士達の力を恐れていた翠だったが、もう技量が分かってしまえばこっちのもの。

 それに、反抗的な態度は見せるものの、逃げ出そうとはしない兵士達。

 兵士達も、翠やリンの力を目の当たりにして、もう自分達の力だけではどうにもならない事を悟ったのだ。 


 町長に任された町人の何人かが、馬車を使って王都まで行き、一部始終を報告しに行っている。 

 ついでに、町の周りで悪さをしていたヘルハンドを退治した事も報告してもらう。

 何匹ものヘルハウンドを退治できた覚醒者が町に滞在していたなら、兵士達を一網打尽にした話も、大方信用してもらえる。

 その証拠として、ヘルハウンドの亡骸を一つだけ、何重にも袋を重ねて入れ、馬車に詰め込んだ。

 さすがに全部を詰め込むわけにもいかない、馬車がパンクしてしまう。

 兵士達は、束ねられたヘルハウンドの亡骸を見ると、ますます顔を青くしていた。

 それと同時に、兵士達が翠を見る目が、完全に『怪物を見る目』になっている。

 だが、翠は全く気にしない。むしろ(でしょうね・・・)と思う始末。


「・・・一体・・・何が目的だ?!」


「はい??」


 ようやく口を割ってくれたかと思えば、発せられた言葉に、翠は思わず口を開けて唖然としてしまう。

 明らかにこの町に喧嘩を売って来たのは兵士達の筈なのに、その口から発せられる言葉は、まるで『悪役に吐きかけるセリフ』なのだ。

 これには側で聞いていた町長も、呆れるしかない。もう何も弁解したくないくらいに。


「この世界を混乱に陥れる為か?! 国の頂点に立つ為か?!

 力で人間をねじ伏せる気か?!


 言っておくが、そんな様ではこの国を支配なんて到底・・・・・


「いや、別にそんなの気にした事もない。」


 黙っていたら話がややこしくなると思った翠が、話に横槍を入れるのだが、それでも兵士達の戯言は止まらない。


「嘘をつけ!! だったらお前達は何故、『覚醒者』になったんだ?!」


「・・・何故って・・・」


「お前達は、『力』を欲したから覚醒者になったんじゃないのか?!

 『権力』や『財力』を欲したから覚醒者になったんじゃないのか?!」


「・・・・・・・・・・はぁ・・・」


 これには、寛容な翠でも肩をガックリと落とし、大きなため息をつく。

 もう、何から話を聞けばいいのか・・・なんてどうでも良くなってしまう。

 無責任ではあるが、全部町長や調査団に丸投げする形で、彼女はこう返した。


「人よりも力があるからって、どうして『悪者』にされなくちゃいけないのよ。


 なんで貴方達の勝手な決めつけで、私達が悪者にならなくちゃいけないのよ。


 なんで人より優れているからって、私達が肩身の狭い思いをしなくちゃいけないのよ。


 何ソレ、『嫉妬』? それとも『恐怖』?


 モンスター退治の依頼ならまだしも、悪役を被るなんて事、どんなに大金を積まれたって嫌な

 のは、私達だって同じなのよ。


 ・・・むしろ、貴方達の方じゃないの?

 『力』を『道具』にして、地位や権力を握りたいのは。」


「ちっ、違・・・」


「そうでもなきゃ、こんな発想に至らないでしょ、普通。

 ・・・まぁ、『自分達の考え=世界の考え方』みたいな感覚かもしれないけどね




 『力』をそんな風にしか見られないのなら


 貴方達はいつまでも、私達以下なのよ。

 例え貴方達全員が覚醒者だったとしても、そんな安直な思考しかもてないのなら


 貴方達は『悪役』の枠にしか収まらないでしょうね。」


 その言葉を聞いた兵士達はは、愕然としてしまう。

 (言い過ぎたかな・・・)と思う翠ではあったが、後ろで聞いていたリンとリータは、2人揃って彼女に感謝した。


「リータ、もう平気?」


「うん、リンさんのおかげで、少し自信がついたよ。」


 そう言って微笑むリータの顔を、優しい眼差しで見つめる翠とリン、そして町長。

 もう腰にスピアを挿すリータはすっかり様になってしまい、キリッとした力強い眼差しは、まさに剣士である。

 そんなリータの姿を見た兵士達は、もう何も言えなかった。

 自分達より、ひと回りもふた回りも年が離れているにも関わらず、リータの方がよっぽど大人に見えるのだから。

 改めて、自分達の考えを思い返して、今度は申し訳なさそうな顔を、翠達に向ける。


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