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42・事件は終息へと

「ミドリさん、ここは僕に任せて。」


 光の中から現れたリータの『両手の甲』には、『覚醒者の証』が刻まれていた。

 だが、リータの証は、翠とリンの証とは少し違う。


 『左手の甲』には『金』の文字が


 『右手の甲』には『十』の文字が刻まれていた。


 そう、2つの漢字を合わせる事で、


 『針』


 になる。


 この世界には、そもそも『漢字』は存在しない。だからその証を見た翠は、思わず息を呑んだ。

 もう色々とありすぎてパニックになった兵士は、そのままリータに突っ込もうとする。


 しかし、リータは冷静だった。リータは持っている剣を、兵士の眼球目前で止める。

 よろいに開いている穴、つまり『急所』を確実に狙ってくるリータ。

 これには兵士も固まって動かなくなり、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。

 リータはそれを見届けると、翠のいる後ろを振り返る。


「大丈夫ですか?!」


「え・・・えぇ・・・大丈夫・・・・・


 それにしても・・・ソレ・・・」


 そう言って、翠がリータの手の甲を指差すと、リータ自身も驚いていた。そしてこう呟く


「・・・僕は・・・僕が・・・?!」


 そう言って、リータは初代当主であるドロップの自画像を見る。

 初代当主と同じく、自分にも覚醒者の証が刻まれている事実が、まだリータは信じきれていないのか、何度も自分の手の甲と肖像画に目線を往復させる。




「リータ!!! 無事だったか!!!」


 突然現れた町長。兄にびっくりしたリータは、持っていた剣を床に落とす。

 だがその瞬間、リータの手の甲の異常に気付いた兄は、弟の手の甲を確認する。

 そして、覚醒者の証に気づいた町長は、大いに喜んだ。


「すごいじゃないか!!! リータ!!!

 覚醒者になれたのかぁ!!! 初代当主も喜んでるぞぉ!!!」


 ハイテンションな兄とは反対に、ちょっと微妙な顔をするリータ。

 リータは、自分の手の甲を隠しながら、唇を噛んでいる。

 その行為に、翠は首を傾げたものの、リータの兄は、弟の心情を察した。


「・・・リータは『剣士の覚醒者』かぁ・・・

 かっこいいな!!」


「っ!!!」


 図星をつかれたのか、リータの目は一気に見開いた。翠も町長に一言で、全てを察した。


 リータが覚醒者になっても素直に喜べない理由、それは『初代当主』にあったのだ。


 初代当主、ドロップが覚醒したジョブは『魔術師』 

 リータが覚醒したジョブは『剣士』


 しかし、そんなの誤差のようなもの、町長も翠も、後から来たリンも、誰も気にしてなんていない。

 覚醒者になれた事自体が、相当な奇跡なのだから。

 『奇跡』にまた『奇跡』を望むなんて、傲慢にも程がある。罰当たりも甚だしい。


「おめでとう、リータ!!」 


「おめでとうございます!!


 ・・・それにしても、ミドリには『覚醒者を生む素質』があるのかもしれない。

 自分もミドリのおかげで、覚醒者になれたんだから。」


「えぇ?! そうなのか?!」 「えぇ?! そうなのか?!」


 リンの発言に、兄弟2人は驚いたのであった。






 その後、町長は一箇所にまとめられていた町人達を解放して、3人は兵士達を部屋の一室にまとめた。

 リータが覚醒者になった事には、町人全員もびっくりしていた。

 それもその筈、覚醒者はまだまだ未知数なところが多い。

 『先天的』なのか『後天的』なのかも分からない。

 仮に覚醒者になれたとしても、就ける『ジョブ』にも法則性はない。

 リンの時も、リータの時も、「まさか自分が・・・?!」という、意外なジョブになっている。

 兵士達ですら、翠から一部始終を聞いて唖然としていた。

 翠もこの件で、色々と学習できた。


 『覚醒者』と、『そうでない者』の力の差。


 覚醒者ではない人間でも、鍛錬を重ねたり、真剣に武術や魔術に励んでいれば、覚醒者と同じくらいの実力を身につけられるのかもしれない。

 それこそ、毎日剣を持って仕事に励んでいる兵士なら、その腕前は本物である。

 ただ、それでもやはり、覚醒者には敵わない点がある。

 あんなに大量の兵士を前にして、翠とリンだけでほぼ片付けられる事自体、覚醒者である恩恵である事は間違いない。

 まだモンスター『としか』戦った事のないリンですら、スライム1匹とヘルハウンド1匹で相手にしても、まだまだ余裕たっぷりだった。

 リンのヘルハウンドも、今回召喚したばかりにも関わらず、厚い忠誠心を抱いていた。

 ご主人様リンの命令をしっかり聞き、途中で兵士から目を逸らす事もしなかったのだ。

 そして、少しでも抵抗する兵士を見せたら、すぐさま口から炎を吐き、兵士達の持っていた武器も、いくつかバラバラに噛み砕いてしまったのだ。

 その時、兵士達は言っていたそう。


「ヘルハウンドが、こんなに強い筈がない!!!」


 と。

 確かに、翠とリンはヘルハウンドと対峙した。しかし、武器をあごで噛み砕くような力なんて、持ち合わせてはいなかった。

 それに、2人がヘルハンドと対峙した時、ヘルハウンド達は後先考えず、ただただ2人に噛みつこうと必死になっていた。

 しかし、リンの召喚したヘルハウンドは、野生のヘルハウンドとは違う。

 『力』も、『賢さ』も、野生のヘルハウンドを大きく超えている。本当に同じモンスターなのか疑う程。

 まさに『番犬』という言葉がふさわしい、そんな頼もしい仲間である。

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