41・覚醒者 再び
扉が完全に開いた瞬間、奥から現れ出たのは、大きなスライム。
そのスライムが、扉の前で出待ちしていた兵士達を包み込むように覆いかぶさってきた。
「うわぁぁぁ!!!」 「ひゃあああ!!!」
情けない声をあげ、腰を抜かす兵士達。
当然である、野良のスライムが、複数人の兵士達を包み込めるくらい、大きくなるわけがない。
何人かは取りこぼしてしまったものの、大半の兵士達はスライムに呑まれ、その中でもがいていた。
スライムの中では、息ができないのだ。
そして、ある程度動かなくなった兵士はスライムの外に出し、ヘルハウンドに見張りをしてもらう。
意識が朦朧としている兵士が、威嚇するヘルハウンドを目にすると、その兵士は完全に気を失ってしまう。
そして、リンが大半の兵士達を相手にしている間、翠は取りこぼした兵士達を探す。
幸い、隠し部屋の中には本を縛る縄も何本かあり、安全を確認した町長と一緒に、兵士達を縛り上げ
る。
リン達が兵士達の武器などを没収している間も、ヘルハウンドは兵士達から目を離さない。
その忠誠心溢れる行為に、町長もすっかりヘルハウンドを気に入ってしまった。
その間、翠は逃げ惑う兵士達を追い詰めていく。
兵士達も、まさかヒーラーに『物理』で追い詰められるとは思っていなかったのか、2・3人は自ら両手を上げて降参した。
3人は兵士達の正確な数を確認できていない、だから家の中を隅々まで詮索しないと、取りこぼしがあっては面倒になる。
人間相手であっても、翠の力は絶大であった。
まさか人間相手にも、こんなに非情になれるなんて思ってもいなかった翠は、自分が少し怖くなってしまう。
(・・・まぁ、危険蔓延るこんな世界だからこその『防衛本能』なのかもしれないけど・・・)
「いたぞー!!!」
翠がぼんやりと考え込んでいると、一階の奥から『聞き覚えのない声』が聞こえた。
その部屋は、翠とリン、そして町長が一緒に食事をした、あの大きな肖像画が飾られていた部屋。
慌てた翠がその部屋に行ってみると・・・・
「リータ!!!」
「あぁ・・・ああ・・・あ・・・」
リータは、腰を抜かして倒れていた。そしてリータを前に、剣を振りかざす兵士。
翠は瞬時にリータの前に来ると、杖で剣を受け止める。
ただ、翠はその段階で、相手と自分との『力量』が違う事が、頭の中に入っていなかった。
剣の攻撃を受け止められたまでは良いのだが、そこからの鍔迫り合いが、圧倒的に不利だった。
『剣』VS『杖』というのもあるのだが、何より『男』VS『女』では、力に差がある。
剣を受け止めた相手がヒーラーの女性である事に、一瞬兵士は戸惑った表情になったものの、その目は瞬時に鋭くなった。
翠は必死になって、相手の力に負けないように頑張った。しかし、それも時間の問題。
歯を食いしばりながら剣を受け止め続ける翠、その杖からは、『ギリギリ』と耳障りな音が発されていた。
そして、翠は苦し紛れに、後ろにいるリータにこう言った。
「・・・・・リータ・・・逃げなさい・・・今すぐに・・・!!!」
「っ!!!
・・・・・・・・・・」
「いくら私でも・・・人の命を完璧に守り切る事はできない・・・
死にたくなかったら・・・逃げなさい!!!」
そうこうしている間に、もう翠の体力は限界まできている。
翠は、鍔迫り合いに負ける覚悟で、兵士の杖を受け流そうとした。
だが、彼女の傍から、兵士に向かって突進する人が・・・
「リータぁ!!!」
兵士の脇腹、鎧に守られていない場所に目掛けて、細長い剣、『スピア』を差し込んだのは
先程まで尻もちをついて動けなかった筈のリータ
翠は肖像画に目が向いていた為、気づかなかったのだ。
ドロップの肖像画の下には、かつてドロップが使っていたとされる剣も一緒に飾られていた。
写真と同じく、その剣もしっかり手入れされていたのか、兵士の脇腹はあっさりと貫かれ、痛みで体勢を崩した兵士は、その場で崩れ落ちた。
そして・・・・・
カァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
「ま・・・まさか・・・!!」
リンの時と同様、リータの全身が光り始める。
光は家の外にまで漏れ出て、町の外からは町人の騒ついている声が聞こえた。
「おいっ! そこのお前!!」
ドアの方から大声が聞こえ、翠が振り向いて見ると、そこには取りこぼした兵士が、腰をガクガク震わせながら立っていた。
そして、さっきまで翠と鍔競り合いをしていた兵士は、痛みと驚きで、完全に腰が抜けて動けない状態。
「・・・やっぱり・・・やっぱりコエゼスタンスは生かしちゃいけなかったんだ!!
お前達が生きている限り、この国は平和にならない!!
全てあんた達が悪いんだ!!!」
その兵士の言葉にカチンときた翠が、もう1人の兵士を始末しようとすると・・・