39・隠し通路
「・・・ちょっと前、用事で隣町まで行った時、こんな話を聞いたんだ。
でも『噂』の範囲内だったから、まさか・・・とは思ったけど・・・」
「その『噂』とは?」
「リン君、君はシカノ村出身だよね、そっちでも噂になっていたかもしれないんだけど・・・
『コエゼスタンス狩り』だ。」
その単語を聞いたリンは、何かを思い出したように、目を見開いた。
「あっ・・・!! 聞いた事があります!!
ただ、私も『噂』としか聞いていなくて・・・」
翠を置いてけぼりにして話を進める町長とリンに、2人は彼女にも分かるように、ちゃんと説明する。
「何故かは分からない、何処からの情報なのかも分からない。でも噂があちこちの町や村に流れ
ているんだ。
「国のお偉いさんが、コエゼスタンスに関わる場所を取り壊したり、コエゼスタンスに関係のあ
る人物を、徹底的に取り締まる。」
実際、そのコエゼスタンス狩りで、建物が燃やされたり、何十人もの人間が国外に追放された
話は、ほんの少しだが聞いた事はあった。」
「・・・でも、どうしてそんな事を・・・?!」
「それが分からないから、『噂』になっているんだ。
でも、コエゼスタンスと国のお偉いさんとの関係は、昔から良かった筈。
国を脅かす存在と、小細工無しで真正面から退治できる数少ない武装集団。
そんな存在を的に回したら、お偉いさん達の面子にも関わってくる。」
「なら尚更・・・何で・・・?!」
町長も加わって、兵士達の目的を色々と推察してみるが、やはり進展は見られない。
町長にも分からないのなら、翠やリンにも分からない。
「・・・おーい!!!」
「ん? どうしたー?!」
3人があれこれと話し合っているうちに、兵士の1人が、町の中央まで駆け込んできた。
「見つけたんですよ!! 町長の家に
『隠し部屋』を!!」
「っ!!!」 「や・・・やばい!!!」 「リータ・・・!!!」
思わず町長が飛び出しそうになったものの、翠が抑える。まだ話は最後まで聞いていないからだ。
「おぉ!! じゃあその中にコエゼスタンスの末裔が・・・!!」
「それが・・・その隠し部屋に繋がる場所の『仕掛け』が、どうしても解けなくて・・・」
「・・・・・・・・・・はぁー・・・」
「・・・・・・・・・・はぁー・・・」
「・・・・・・・・・・はぁー・・・」
3人は肩を落とした。
隠し部屋は見つかってしまったものの、出入りする方法が分からないのなら、まだ大丈夫。
だが、それも時間の問題であった。
「・・・ええい!!! なら力づくで・・・!!!」
そう言って、兵士達のリーダー的な男性が、町長の家へと向かっていく。
「ミドリ、リン。私は町人達を・・・」
「いや、それはまだ先です。」
「でも・・・!!」
「気持ちは分かります。
でも今助け出したとしても、兵士達に私達の存在がバレてしまえば、せっかく助けた意味がな
くなってしまう。」
「・・・ミドリさん・・・」
「まず、あの兵士達を止めるのが先です。
見た限りでは、まだあの兵士達は、町人に危害を加えているわけでもなさそうです。
でもそれも、時間の問題です。兵士達をどうにかしてからでも、町人達は救える。」
翠は町長の肩に手を置きながら、今後の事を話し合った。
「町長、その『隠し部屋』への出入り口って、1箇所だけですか?」
「・・・いいや、出入り口は『2箇所』ある。
きっと初代当主も、町に何らかの異変が起きた時、隠し部屋から外に逃げられる手段を確保し
たかったのかも。
一箇所は、あの家の中に。
もう一箇所は・・・・・」
そう言って、町長は2人を案内する。その間も3人は、兵士達に気づかれないように、中腰で歩いていた。
しばらく歩いて、3人が来たのは、町の外れにある『井戸』
町長はその井戸の蓋を開け、ロープを垂らす。
それだけで、隠し部屋に繋がる通路が何処にあるのか、翠は何となく分かってしまった。
(やっぱり『井戸』といえば、『隠し通路』とか『隠しダンジョン』の定番だよね・・・!)
危機的状況にも関わらず、何故か翠のテンションは高くなった。
『隠し通路』や『隠し部屋』というのは、ゲーム好きなら誰もが詮索する、ロマン溢れる場所である。
まだゲームの性能等がそれほど高くなかった時代のゲームには、『バグ』という形で、ありえない場所まで行ける方法があった。
バグやチートの対処が徹底された最近のゲームにはあまり見られないものだが、プレイヤー達にとって、バグを見つける事は一種の『武勇伝』であった。
翠もネットの情報を頼りに、バグを探しては検証をしていた事がある。
だが今回の井戸は、『ゲームを進めていくと現れるルート』に相当する。
バグとは少し違うものの、それでも自分達がしっかり歩みを進めているような実感が湧いて、翠がは嬉しくなってしまったのだ。