38・押し入り
「・・・ちょ・・・ちょっと・・・」
「何・・・アレ・・・?!」
いきなり町に突入するのは危ない・・・と感じた翠とリンは、まず遠目から町の様子を確かめる事に。
だが、遠目で見ただけで、町の異変はすぐに分かった。
町の中央に集められた町人達と、その町人達を囲んでいる、何十人もの兵士達。
兵士達は、剣を持ちながら、慌てふためく町人達を威嚇していた。
その立ち振る舞いはかなり横暴で、集められた人の中には、歩くのもやっとの老人も何人かいるのだが、そんなのお構いなしに、「さっさと歩け!!!」と、怒号を浴びせる。
その光景に、翠は思わず疑問を口にした。
「ちょ・・・ちょっと!! アレって本当に兵士なの?!!
アレが兵士のする事なの?!!」
この世界で生まれ育ったリンでも、こんな事態に遭遇した事なんてあるわけがない。
リンも翠と同様、分からない事だらけで少し口調が乱暴になってしまう。
「そんなの自分にだって分からないよ!!! 分かるわけないじゃんか!!!」
2人は、町の様子をしばらく観察していたが、兵士・・・らしき人が、町人に何かを問い詰めている事だけは確認できる。
本心は、助けに行きたい気持ちを必死になって抑えていた2人。
だが、何も知らずに突っ込むと、町人達の命が危ういかもしれない。
そもそも、彼らが『本物の兵士』であるのかも分からない。
もしかしたら、『兵士のフリをした強盗』の可能性だってある。
翠が暮らしていた旧世界でも、『偽・警官事件』という報道が、少し前に報道されていた。
格好だけで、相手を信用してはいけない。騙す手口は、数多とあるのだから。
それがこの世界でも通用する事に、翠はちょっとがっかりしてしまった。
町人と兵士(?)が言い合っている内容については、距離が遠すぎて聞き取れない。
仕方なく2人は、もっと近づいて兵士達の話に耳を傾ける。
まるで『ステルスゲーム』の様だが、ゲームでプレイする時以上の緊張感。
コントローラーを動かせば、プレイヤーが進むわけではない。
自分の力で、自分の体を操作して、気づかれないようにするのは、想像以上に難しかった翠。
ゲームに登場するプレイヤーは、涼しい顔でスパイ工作をしている為、
「ひょっとしたら自分もできるんじゃない・・・?」という考えを持ってしまうのも仕方ない。
実際に自分でやってみると、バクバクと高鳴る心臓の鼓動を抑えながら、物音を立てずに行動するのは、想像の何十倍も難しい。
翠もだが、リンも途中で息が切れそうになる。緊張感とピリピリした空気に、息をするのも辛くなってしまうのだ。
今にも心臓が口から飛び出そうなくらい、心臓が縦横無尽に体の中で動いている感覚。
自分がゲームで操っていたキャラクターが、まさかこんな緊張感を抱えたまま動いていたなんて、翠はちょっと罪悪感を抱く。
そして、町の真前まで近づくと、ようやく兵士と町人が話し合っている内容が聞こえてくる。
「おい!! 『コエゼスタンスの末裔』は何処に行ったんだ?!
隠してるとお前達の命も刈り取るぞ!!!」
「だから知らないんですって!!!」
「嘘をつくな!!!
これ以上はぐらかすようなら、町の子供は全員他国に売り飛ばすぞ!!!」
「そ、そんな・・・・・!!!
貴方達、それでも国から認められた兵士か?!!」
兵士の話している内容は、完全に『盗賊』である。翠も一瞬、彼らが兵士なのか本気で疑った。
翠はこっそり、小声でリンに、もう一度聞いてみる。
「・・・ねぇ、この国の兵士って、あんなに横暴なものなの?!」
「さぁ・・・・・自分も兵士を見たのは、これが初めてなもので・・・・・
・・・というか、ミドリも兵士を見たのは初めてなのか・・・」
兵士と町人の会話を聞いても、まだ何一つ分かっていない。
とにかく、兵士達がコエゼスタンスの一員であった、ドロップの末裔、つまり『町長一家』を探している事は分かる。
ただ、何故兵士達が末裔を探しているのかが分からない。そもそも町長達が、今何処にいるのかも分からない。
家にいるのなら、もうとっくに捕まっている筈。
だがその様子でもない・・・という事は、『逃げている』か『隠れている』かのどちらか。
だが、翠は『隠れている』という一択しか頭になかった。
昨日出会ったばかりではあるが、あの町長がこの町を見捨てるような事はしない筈。
だが、兵士に追われる程の悪さをしているようにも見えない。
翠とリンは、ますます兵士達に疑念を抱く。
「・・・ねぇ、まさかだけど。
あの兵士達、本当は兵士じゃなくて、『兵士の格好をした盗賊』っていう可能性が・・・」
「・・・それは自分も思った。でも、あんなに大勢が兵士の格好ができるなんて、それもそれで
変というか・・・
それに、あの人達全員、皆同じ鎧を身につけている。
質屋とかで買った鎧なら、皆バラバラの鎧でも不思議ではないんだけど・・・
全員鎧を見に纏って、尚且つ鎧は全員で統一する。
そこまで大掛かりな準備をしてまで、強盗をするのは、ちょっと非効率というか・・・」
「・・・リン、貴方やっぱり頭がいいのね。」
「そ、そうかな?
それはどう・・・・・」
ガシッ!!!
翠とリンが話し合っていると、突然リンの足を誰かが掴み、びっくりしたリンが飛びあがろうとするのを、翠が慌てて止めた。
リンの足を握った人物は・・・・・
「・・・ちょ・・・町長さん?!」
「シーッ!!!」
逃げる際、体のあちこちに擦り傷を作ってしまった様子だが、町長の無事を知り安心した翠とリン。
だが、安否確認をしなければいけない人物は、もう1人いる。
「・・・あの・・・弟さんは・・・?!」
「・・・今は『地下』に隠れてる。」
「『地下』?! そんな場所まであったんですか?!」
「あぁ、あそこは緊急避難室でもあり、かつてドロップさんが、薬の研究をしていた
『研究施設』でもあるんだ。」
翠は回復魔法で町長の切り傷を癒しながら、話を聞いていた。
そしてリンは、あの兵士達について、町長が何か知っていないか聞く。
「・・・町長さん、あの兵士達に、何か見覚えは・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
町長はしばらく考え込んだ後、『隣町で噂になっている話』を語り始めた。