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3・落下

 先生の話に納得したのは、翠だけではない。最近では、『大人気ない大人』が普通に見かけられる時代。

 直接見る事はなくても、『SNS』や『ニュース』でも目にしてしまう。

 そして、そんな人間はよっぽどの事がない限り、自分の価値観や考え方を変えようとはしない。

 反省したとしても、再び同じ罪を犯す事も多い。『危ない薬』がその一例である。

 『意地』なのか、それとも『自覚の問題』なのかは、考えるだけ無駄なのだが・・・ 

 ニュースでも、『芸能人の逮捕』が報道される事も珍しくなくなった。

 内容に関しても、闇が深い件もあれば、水溜りの如く浅い件もある。

 そういうニュースを見る度に、翠達一般人は思うのだ。 


 どんなに平凡以上の実力を持っていたとしても、どんなに平均以上の収入があったとしても、

 「そんな事するの?!」と、思わず言ってしまいたいくらいの事件を引き起こす人は普通にいる。


 同時に、『安心』と同時に『不安』を覚える。

 逆に考えてみれば、実力や年収があっただけでは、立派な人間にはなれない事を、常に叩きつけられているような感覚になるから。 


 翠の場合は、人間の意識を変える事が難しい事が学べたきっかけは、クラスメイト達である。

 懲りずに何度も自分にちょっかいをかけるその姿勢は、一周回って凄い。

 翠は気づいているのだ、彼らが自分を蔑んでいる理由は、『ゲームオタクだから』と一言で片付けられない事を。

 ただ単に、『いじれる相手の条件がソレ』というだけの事。それだけでいいのだ、『人を蔑む理由』は。

 翠は時折考える、

 「ゲームをやめれば、今の境遇も変わるのかな・・・??」

 と。

 しかし、冷静になってみると、「そんな都合の良い話があるわけない」と、自分で自分にツッコミを入れる翠。

 もうキャラが定着してしまったのだから、今更になってその役を降りるとなると、クラスメイト達が不都合になってしまう。

 それに、周囲からの偏見の為に、大好きなゲームを嫌いになるなんて、そんな事できる筈もない。

 何故なら翠にとって、ゲームやアニメは『幼稚園時代』からの付き合い。


 幼稚園生の時は父のゲームしている光景を横からジッと眺め

 小学校低学年になると、初めて買ってもらったゲームで夜更かしして叱られたり


 ・・・と、翠の人生はまさにゲームと共にあるようなもの。

 そんな大切な『人生の相棒』を、簡単に切り捨てられない。

 それならいっその事、ずっと蔑まれたままの方がマシだった。


「よーし、それじゃあ出発するぞー!」


 バスは再び発車。すると、明らかに先程よりも速いスピードで、バスは更に森の奥まで入っていく。

 バスの運転手もなるべく急いで、目的地である『宿泊所』へと走る。

 気分が悪くなっているクラスメイト達の顔色も、ほんの少しだけ良くなっている。

 ようやくこのクネクネと曲がった道のりから脱出できる出口が見えてきた事で、散々お喋りしていたカースト上位の生徒達も、「やれやれ・・・」という顔をしながら黙る。

 翠は、もう森を見るのも嫌になってしまい、瞼を閉じて目を休ませた。

 目を瞑ると揺れが一層激しく感じてしまうものの、乗り物酔いしない翠は、そのままグラグラと頭を揺らして到着を待ち望む。






「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 運転手の大絶叫が車内に響き渡った。

 その直後、バスはとんでもない角度へ傾き、車内の空気が止まってしまう。

 翠はそのまま、通路側にいる先生の方に寄りかかろうとするが、先生は既に席から投げ出され、先生の体は宙を舞っていた。

 翠はシートベルトのおかげで投げ出されなかったが、シートベルトで固定されている下半身と上半身が分かれてしまいそうな程、とんでもない角度へ傾いたバス。

 もちろん、後ろ側の席にいたクラスメイト達も、雪崩のように滑りながら、バスの左側へ飛ばされる。

 一体バスに何が起こったのか、それを調べようとする余地すらなかった。

 気づけばバスは、カーブの左側に外れ、そのままガードレールを突き破り、その先へ・・・

 古く錆び付いているガードレールの先にあるのは、『森』ではなく


『崖』


 『バリィィィィィン!!!』と、左側の窓が衝撃で割れ、そのままひっくり返ったバスは、頭から崖下へと落ちていく。

 その間、たったの10秒にも満たなかった。

 しかしその10秒間で、クラスメイトや先生は、今自分達が置かれている状況を理解して、どうにか助かる道を探そうとした。

 だが、当然そんな時間なんてない。

 バスから逃げ出そうにも、真逆に傾いたバスの中から逃げられるわけもなく・・・






ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!


 山の中に響く『爆発音』

 崖下からモクモクと湧き上がる『黒煙』

 そして、惨状を崖の上から眺めている、あのバイクのドライバー3人の顔は、当然青ざめていた。

 固まってしまった3人の手に持たれているのは、SNSを開いたままのスマホ。  

 そう、この転落事故を引き起こした原因は、紛れもなくその3人にあったのだ。

 バスの運転手が目にしたのは、カーブの死角で、スマホをポチポチといじっている3人。

 普通、道路の上でそんな事をするのは違反なのだが、山奥で監視の目がない事に加え、先程の件をSNSに投稿して、憂さ晴らしをしてやろうと、あえて路上でバイクを停めたのだ。

 もしバスが3人に気づかなかったら、3人はそのまま轢かれていた。

 しかし、バスの運転手が気づいた結果、犠牲となったのは・・・




 翠を含めた


 『39人の生徒』に加え、『クラスの担任1人』

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