37・町から聞こえた悲鳴
「ふぅー・・・・・
後始末の方に時間かかっちゃって、すっかり夕方だね。」
「仕方ないよ、仕事に出たのが遅かったから。でも、しっかり退治できてよかったよ。」
「そうね、これで次の旅費に余裕が出るよ。」
「・・・また寄り道したい。」
「勿論っ!」
やはり旅の醍醐味の一環は、『寄り道』である。翠もリンも、すっかり寄り道にハマってしまった。
次の旅をルンルン気分で想像しながら、ヘルハウンドの両足をロープで結び、タカギグモの時と同じく引き摺りながら町へと戻る2人。
スライムにも手伝ってもらい、、ヘルハウンドが地面に直接当たらないように、『下敷き』になってもらう。
それが有る無しでは、運ぶ力量が大きく違う。
「・・・それにしても、今回はリンのお手柄だったね。」
「え? 自分は特に何も・・・・・」
「私の事、しっかり守ってくれたじゃない。だから退治できたのよ。」
「・・・・・そう?」
「そうよ、だって冷静になって考えてごらんよ。
あの数のヘルハウンド相手に、傷一つなく退治できるって、相当凄い話よ。
野犬30匹を相手にするのと同じじゃない。そんなの1人じゃどうしようもない。」
「・・・そうか・・・自分、ミドリの役に立ってるのか・・・」
溢れんばかりの笑みを浮かべるリン。まるで、親に褒められた子供の様な、自信に満ちた笑み。
その表情を見ていると、ミドリまで嬉しくなってしまう。
『役に立てる嬉しさ』は、本人にしか実感できない、特別な喜び。
それが例え目立たない役だとしても、見えない役だとしても、
「頼りにしているよ」 「またよろしくね」
「君じゃ無いとこの役は務まらない」
と、たった一言でも言われてしまうと、役を降りるのが惜しくなるもの。
リンは『ミドリの相棒』という役割に立てた事が、人生の喜び・・・と言っても過言ではない。
同時に、翠はリンにとって『育ての親』と近しい存在。だからこそ、純粋に彼女の役に立てた事が嬉しくてしょうがないのだ。
そして、リンの目まぐるしい成長を見ている翠も、覚醒者になる前のリンを思い返しては、懐かしい気持ちになっている。
「帰ったら、また町長がご飯を作ってくれているのかな・・・?
なんか・・・作らせてばっかりで悪いから、今晩は私達が作りたいんだけど・・・」
「まぁ、いいじゃないですか。町長さん、自分達と一緒にいる時、楽しそうにしているし。」
「キャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「っ?!!」 「ま・・・町の方から?!」
突然町から聞こえる悲鳴、2人の頭は突如としてショートする。
何故なら町を荒らしていたヘルハウンドは、もう全員退治した筈。2人が今現在引き摺っているのだから。
にも関わらず、町から聞こえてくる悲鳴。
2人は慌てて駆け足で町へと向かうのだが、その道中、いきなり2人に飛びかかってくる人が現れる。
翠は思わず「うわぁ!!!」と悲鳴をあげ、尻もちをついてしまう。
2人に飛びかかってきた人は、息を切らしながら、パニック状態に陥っていた。
唇を小刻みに振るわせながら、目の焦点が合わせられないその人を見て、翠はふと思い出した。
「・・・・・あっ、貴方は私が昨日、立ち寄った本屋さんの・・・!!」
「た・・・・・た・・・助けてくれ・・・!!」
「・・・・・は?」
翠とリンが首を傾げると、男性はポツポツと事情を話す。
「ま・・・町に兵士達が来て・・・・・俺達はてっきり、ヘルハウンドの件かと思ったんだ。
でも・・・そしたら兵士達がいきなり・・・剣を・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
ただならぬ状況にある事は分かった2人だが、やはりまだ納得できない。
本屋の店主の話からすると、町に来た兵士が、突如として町人に剣を振り翳した・・・という推察はできるが、『何故』が多すぎて、理解が追いつかない。
ふと翠は、自分が転生した当初の事を思い出す。『何故』『何処』ばかりで、現状が全く把握できない。
しかし、自分が現状を把握していなくても、事態は進み続ける。
そう、進み続ける事態の中で、どうにか飲み込むしかない。
そうしないと、何もかもが手遅れになってしまう。手遅れになってからでは、もう手の施しようがない。
それを、翠はよく知っている。
でもまさか、こんな経験を『2回』もするなんて、自分自身が哀れに思えてしまう翠。
「・・・リン、とりあえず町に!!!」
「すみません!! このヘルハウンドの束、見張っていてくれませんか?!」
2人が引き摺っていたヘルハウンドの亡骸の束にも驚いた店主だったが、2人には「気をつけて!!」と言い、本屋の店主はひとまず腰を下ろした。
「ミドリ・・・どうすれば・・・?!」
「とりあえず、話し合いができるようだったら武器は必要ない。
もし相手に敵意があったのなら、躊躇せずにやって。」
「でも・・・・・」
「・・・・・・・・・・
私だって嫌よ、でもリン、貴方もこの町に来る途中で、散々学んだじゃない。
『自分の命は、自分で守るしかない』って。」
「・・・・・うん。」
「私だったら、何の事情も知らずに、剣で貫かれるくらいなら、『正当防衛』に走るわ。」
「・・・うん、分かった。
自分はまだ、こんな場所では死ねない・・・
ミドリさんと、もっと沢山の世界を見る為に・・・!!!」
「そう、その意気よ!!!」