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36・ヘルハウンド

 グルルルルルルルルルルルルルルル・・・・・


「・・・リン・・・

 スライムに火属性を追加したのは、失敗だったんじゃ・・・」


「・・・・・・・・・・」


 町長から任された仕事の依頼は、『町を徘徊するモンスターの退治』

 最近、町の周辺を彷徨い、訪れる旅人や町人に危害を加え、大怪我をした町人も多い。

 事情や被害に関しては、シカノ村のタカギグモによく似ている案件なのだが、事情が微妙に違った。

 町長は、何度も王都に兵士の派遣を依頼したのだが、元々このドロップ町には凶暴なモンスターが出現する場所でもなかった為、王都側は事態を深刻に聞き入れてくれなかった。

 タカギグモの件に関しては、もう何十年も前から被害が報告されていた為、王都側も真剣に取り合ってくれたものの、元々平和だったドロップ町の周辺に、凶悪なモンスターが出現した・・・なんて、王都の人間が、なかなか信用してくれないのも仕方なかった。

 町長自身も魔術は使えるのだが、基礎の魔法だけではどうにもならず、頭を抱えていたそう。


 その話を聞いた2人が、いざ町の外を歩いてみると、相手の方から喧嘩を売ってくれた。

 それはそれで、探す必要がなくなり好都合・・・と思っていたのだが、相手との『相性』が問題になってしまう。

 旧世界のゲームでも、『相性』や『属性』に応じて、戦場の状況が大いに変化する。

 代表的な例としては、『炎』と『水』では、圧倒的に『水』が有利。

 『剣士』VS『スナイパー』では、遠距離から相手を仕留められる『スナイパー』の方が有利になりやすい。 

 だからこそプレイヤーは、それらを考慮しながら進んでいく必要がある。

 相手との相性を綿密に計算しておけば、自分達がいかに不利な状況でも、一発逆転も夢ではない。


 ただ、今2人の目の前にいるのは、口から炎を吐く『ヘルハウンド』

 覚醒者になると、モンスターの『名前』や『特徴』も自然と頭に入ってくるのを、今更ながら知った翠。

 ただ、相手の属性を知ったところで、今この場でどうにかできる・・・とも限らない。

 冒険とは、常に『一発勝負』である事を、翠は学習したのであった。

 今更、リンのスライムに付与された『炎属性』を書き直す・・・というわけにもいかない。


「・・・とりあえず、私が全部倒すから、リンは残骸を・・」


「いや、それ以外にも、自分にはできる事はあるよ。」


 翠が先陣を切って攻撃を仕掛けようとすると、リンはそれを止める。

 そしてリンの脇には、しっかりスライムがスタンバイしていた。

 そうしている間に、ヘルハウンドが2人に近づき、口から火を放った。


「あっ!! あぶな・・・」


 翠が杖を構えるよりも先に、スライムが『壁』の形となり、ヘルハウンドから発せられる炎を防ぐ。

 その防御壁は完璧で、スライムにも一切ダメージが通っていない。これも『火属性』の恩恵であった。

 『炎』×『炎』では、あまり相性が良くないのだが、考え方を変えるだけで、こんなにも戦いが有利に、尚且つ楽しくなる事に、翠は心底感動する。


 後は簡単、スライムが防御壁を作っている間に、ヘルハウンドは息切れを起こし、炎が止まる。

 そのタイミングを見計らって、翠が突進する。

 炎を吐いて体力を消耗したヘルハウンドは、あっさりと杖に貫かれる。

 後はこの作業の繰り返し。

 ヘルハウンドの炎をリンが操るスライムが防ぎ、隙を見計らって翠がトドメを刺す。

 襲って来たヘルハウンド自体は、30匹前後と、2人が想像している以上に多かったが、それ以上に2人が想像していなかったのは、割とあっさり退治できた事。

 相手の強さ自体は、シカノ村を彷徨いていたスライムの2倍くらいの強さはある。

 翠でも、前のようにあっさり退治できるとは、思ってもいなかった。

 休憩を挟みながらの奮闘でも、約1時間で30匹全員を退治する事ができた。

 意外とあっさり退治できた事に唖然としている翠の横で、リンが補足を入れる。


「ヘルハウンドは、『団体』で襲い掛かるのが基本なんだ。だから、『個体』の強さはそこまで

 脅威でもない。

 町の人達が手を焼いていたのは、ヘルハウンドの『強さ』というより、『数』だろうね。」


「へぇー、詳しいんだね。」


「・・・合間合間に勉強しているから・・・」


 翠に誉められたリンは、赤くなった顔をスライムで隠してもらう。

 その反応を見て、つい翠は「可愛い・・・」と、本音が溢れてしまった。


 だが、2人にとって、一番大変な仕事は、『後始末』である。

 料理でも、『一番大変なのは汚れた食器や調理器具を洗う事』という話は、よく耳にする。 

 翠とリンの場合、ヘルハウンドを退治した『証拠』の為、遺体をとりあえず全部運ぶ必要がある。

 『写真』や『動画』等が無いこの世界において、モンスターを退治した証拠を見せる方法は、現物を持って行くしかない。

 その最中、翠はふと思った事を口にする


「ねぇ、わざわざ全部持って行かなくても、ヘルハウンドの亡骸の『一部』だけを持って行くだ

 けでもいいんじゃない?

 わざわざ全部まとめて持って行くよりは、そっちの方が効率が良いんじゃ・・・」


 そんな翠の提案に、リンは首を横に振る。というのも・・・・・


「『退治詐欺』っていうのが、シカノ村でも横行していたんですよ。

 ほら、僕達が退治したタカギグモ、あの『足』を模倣した『偽物』を作って、それを皆の前に

 見せつけて、いかにも「自分が退治しました!!」って雰囲気を出して、報酬を貰う。

 でも、実際には退治されたわけではないから、更に被害が加速して・・・」


「うわぁ・・・悪質だね、ソレ。」


 『世界が変われば、犯罪も変わる』

 翠はまた、学習したのであった。


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