35・好奇心がハプニングを生んだ
その晩は途中で目覚めてしまった為、翠もリンも、町長も『侵入者』も、再び寝る事なんてできず、2人が買った本や、書斎にある本を読んで、夜を明かした。
リータは、一晩中兄である町長から叱責を受けていた様子。
上の階でその声が響き、翠は何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
「・・・私は別に・・・気にしてはいないんだけどな・・・
おでこはまだ痛いけど・・・」
「まぁ・・・『町長の弟』だから、重く見てしまうのも仕方ないんじゃ・・・
・・・こんな言葉、自分に言う資格なんてないと思うけど・・・」
「??」
夜にぐっすり寝て、早朝には町長からの依頼を片付けようと思っていた2人だったが、その計画はほぼパーになってしまった。
何故だろうか、眠くない時には元気になるのに、いざ動かなくちゃいけないタイミングになると、途端に眠気が襲う。
朝日が上り、2人がとりあえず町の周りを散策してみよう・・・と思った矢先、2人は今更ながらの睡魔に襲われ、また寝入ってしまった。
町長も彼の弟も、朝をとっくに過ぎても部屋から出てこなかった。結局、4人が目覚めたのはお昼頃。
空腹で目覚めた翠は、とりあえずお水だけでも飲みに行こうと、調理場に向かった。
しかし、廊下に漂う『美味しそうな匂い』に、思わず早足になってしまう翠。
目覚めた直後は何も感じなかったが、目覚めてしばらくすると、お腹がいきなり空腹を訴え始める。
4人は昨日の夕食以降、朝を過ぎてもずっと寝入っていた為、かなり長い時間、胃には何も入れていなかった。
そして、翠が調理場を覗いてみると、テーブルの上には美味しそうな朝食が『4人分』並び、野菜を手でちぎりながらお皿に並べていたのは・・・・・
「・・・・・リータさん、おはようございます。」
「っ!!!」
翠に気づいたリータは、思わず肩をビクッと震わせ、その手を止める。
翠はお構いなしに、コップに水を注いで一気飲み。
リータは慌てて朝食を作りながらも、翠から目が離せない状態だった。
不思議に思った翠は、思い切ってリータに聞いてみる事に。
「・・・あの・・・何か私の顔に・・・?」
「いっ・・・・・いや・・・・・
・・・かく・・・・・」
「ん?」
「かく・・・せいしゃ・・・を見るのが・・・初めてで。」
モジモジしながら打ち明けるリータ。
そう、リータが見ていたのは、正確には彼女ではなく、覚醒者である印がある『彼女の首筋』
「リータさんは、覚醒者を見た事がないんですか?
・・・そもそも、この町には覚醒者が1人もいないんですか?」
翠のその問いに、リータは小さく頷いた。そしてその会話を最後に、リータはまた2階へ駆け上がってしまう。
その道中、リータは兄にバッタリ鉢合わせしてしまったものの、すぐさま避けて2階へ行ってしまう。
「す・・・すいませんね・・・度々・・・」
「いいえ、いいんですよ。
それにしても、町長さんは私達以外の覚醒者さんと、会った事があるんですか?」
首を傾げる町長に、翠がさっきリータと話した会話を伝えると、町長は少し考え込んで答えた。
「・・・実はね、俺も覚醒者に会ったのは、ミドリさん達が初めてなんだ。」
「そうなんですか・・・・・」
「もしかしたら弟は、『祖先の肖像画』の真偽を、確かめたかっただけなのかもしれません。」
「・・・・・というと?」
翠の問いに、町長は昨日の晩、リータが何故真夜中に、覗き見するような事をしたのか、弟に問い詰めた時の事を話した。
「最初はしどろもどろで、なかなか話してはくれなかったんですが、俺が一括したら、正直に白
状してました。
「あの肖像画に描かれた祖先が、どこまで忠実に描かれているのかが、知りたかった」
と。
昨晩はその話を聞いても、納得できませんでしたが、ミドリさんの話で、彼の真意がはっきり
しました。」
「・・・肖像画に描かれている祖先を、彼は疑っていたのですか?」
「疑っていた・・・というよりは・・・
ほら、肖像画って、誇張して描かれていたり、若干のフェイクがあるじゃないですか。」
「あぁー・・・確かに・・・」
「昨晩、弟は言ってました。
「あの『覚醒者の印』は、本当だったんだ・・・」
ってね。」
「そうか・・・
彼が私に顔を近づけていたのは、私の首筋にあるコレ(覚醒者の印)を確かめる為に・・・」
「えぇ。
でもどんな理由があったにしても、女性の寝ている部屋に無断に立ち入ってしまう事は、道徳
的に駄目ですからね・・・」
「あはははは・・・・・」
その後、遅れて起きてきたリンと3人で、一緒に少しだけ冷めてしまった朝食兼昼食を食べ、早速町長の依頼した仕事へ向かう準備をする2人。