31・町長
「えーっと・・・住所だと・・・・・
此処か。」
「・・・・・うーん・・・
まぁ、他の建物に比べたら大きいけど・・・」
翠とリンは思わず顔を見合わせて黙り込んでしまう。
町長の家、つまりコエゼスタンスの末裔が住む家は、何も知らされていなかったら『廃墟』と間違われそうな程、古びて汚くなっていた。
何百年も前に建てられた家なら、仕方ない気もするが、壁一面にへばり付いている蔦や雑草くらい、誰でも処理できる筈。
窓も汚れているのか、部屋の中が全然見えない。その汚れのせいで、窓としての機能を果たしていないのだ。
程良くレトロな家屋はなかなか見応えがあるが、いかにもお化けが出そうな雰囲気のする家だった。
石の階段も角部分がすり減り、今にも欠けてしまいそうなくらい劣化している。ドアの持ち手も、錆び付いてなかなか回らない。
昨日リンが本屋の店主に、「町長の家は、誰でも自由に出入りできる」と言われたのだが、2人の足は一向に前に進まない。
家自体が入りにくいくらい老朽化している事もあるが、廃れ具合が想像を遥かに超えているせいで、2人の頭の中は混乱状態だった。
「誰も住んでいない廃墟です」と説明されてしまうと、疑う余地なく受け入れられそうなくらいの外見に、正直ちょっとがっかりしている2人
ひとまず、翠とリンが力を合わせ、動かす度にギシギシと音を立てる家のドアを慎重に開けて、中を覗き込んでみるが、やはり中も中でだいぶボロボロになっていた。
(うわー・・・・・
なんか・・・いかにも『ホラーゲーム』に出てきそうな感じ・・・)
忘れもしない、翠が初めてホラーゲームをプレイした時。独特の雰囲気と緊張感から、なかなか前に進まなかった。
そして、翠が初めてプレイしたホラーゲームも、こんな感じで、廃れた屋敷を探索しながら謎を解き明かす、いわゆる『ホラー脱出ゲーム』だった。
その頃のトラウマが、転生後もしっかり残っている事に、一周回って笑いが込み上げてしまう翠。
翠がまだ小学生の頃は、親の意向でホラーゲームは禁止されていた。ホラーには『グロ』が合わさる事が多いから、教育上の問題である。
そして、中学生になって、念願のホラーゲームがプレイする事が許可されて、喜んでいた翠。
・・・だが、ホラーゲームをする際のプレッシャーは、他のゲームとは比べもにならないくらい重かった。
いつも持っている筈のコントローラーが急に重くなったような感覚に襲われ、びっくりポイントに差し掛かると、ボタンの位置が分からなくなるくらいパニックになる。
敵に襲われた時なんか、本人でも恥ずかしくなるくらいの大絶叫をあげて、両親2人はそんな翠を微笑ましく見ていた。
結局、翠が生涯でホラーゲームをプレイして、しっかりクリアできたのは、ほんの数本のみ。
RPGなら『サイドストーリー』等も含めて、完全クリアした数は数十本にも及ぶのだが、ホラーゲームの場合、どんな結末でもいいから、早くクリアしたかった翠のプレイスタイルは、必然的に『タイムアタック』になってしまう。
翠の父親は涼しい顔をしてプレイしていた為、翠は油断していたのだ。
ホラーゲームのびっくりポイントで喜んでいた自分の父に、正直翠は少し引いていた。
でも、そんなに面白そうにゲームをしている姿を見ると、自分でもやりたくなってしまうもの。
そんな考えでやってみた結果、叫びすぎて喉が壊れる事態に。
「あ、旅人さんですか! いらっしゃい!」
「うわぁ!!」 「きゃっ!!」
突然真横から声をかけられた為、翠とリンは飛び上がるくらいびっくりした。
2人に声をかけてきたのは、至って普通の男性。緑やリンよりも年上な印象だった。
「あぁ! お2人は覚醒者様なんですね!!」
「え・・・えぇ・・・まぁ・・・
それより、此処の主人様は・・・」
「あ、俺です!」
爽やかなスマイルで2人に話しかけてきた人物こそ、ドロップの末裔であり、この町の町長。
だが、その姿はあまりにも庶民的で、町長と呼ぶにはふさわしくない身なりだった。
だから、まさか彼が町長だったなんて思ってもいなかった2人は、更に驚く。
髪の手入れをちゃんとしていないのか、あちこちボサボサ。
服はあちこちがほつれてちぎれていたりで、普通に町中を歩いていても、町人と間違えそうな程。
翠もリンも、何だか気まずくなってしまい、なかなか挨拶ができずにいた。
そんな2人を置いて、町長は「ちょっと待ってて!」と言って、何処かへ行ってしまう。
だが、いつまで経っても町長が帰ってこなかった為、痺れを切らした翠が口を開く。
「・・・とりあえず、見回ってもいい・・・って事・・・だよね。」
「いや、自分に聞かないでよ、ミドリ。
・・・まぁ、怒られてもミドリと一緒なら。」
家の中もだいぶ廃れていた為、2人は慎重に家の中を散策する。
油断すると、床や壁に穴が開きそうだった為、歩くだけでも気を使わないといけない。
村から町への移動より緊張してしまう2人。
せっかく町に来て一息ついたと思ったのに、気が休まる事はない。
「・・・・・あっ、『書斎』があった。
此処なら、コエゼスタンスに関しての情報が、何かあるかもしれない・・・!」
「・・・リン、本を扱う時も気をつけてね。唯一無二の大切な資料かもしれないんだから。」