30・末裔が住む町
「・・・ねぇ、ミドリ。スライムに付与する効果、
『治癒』と『炎属性』、どっちがいいと思う?」
「『炎属性』でいいんじゃない?
治癒魔法なら、私が専門家だし。」
「・・・・・・・・・・あ、そうだった。」
「今絶対、私がヒーラーであること忘れてたでしょ。」
「・・・・・だって‘・・・」
「・・・まぁ、別にいいんだけど・・・
自分でも時々、ジョブが分からない時があるから。」
「ミドリも、杖以外の武器を使えば・・・」
「・・・まぁ、今はリンもいるから、そこまでする必要はないでしょ。」
翠とリンは、上がったレベルで様々な特殊技能を手に入れたり、技能のレベルを上げたり、夜もそれなりに忙しい。
リンのスライムは『炎属性』が追加された事で、触れると温もりを感じるようになった。
しかし、炎属性のスライムの力は、もちろんそれだけではない。
リンがレベルを上げている段階で知ったのだが、炎属性のスライムは、火を吐く事もできるようになる。
メニューでその説明を見たリンと翠は、その光景が一体どんなものなのか、早く見て見たい気持ちになった。
何故なら、全然想像できなかったから。
・・・でも、かなりシュールな光景になりそうなのは、何となく察せる。
リンの探究心は、まだまだ膨らみそうだった。だが、探究心が膨らんでいるのはリンだけではない。
翠のスキルも、なかなか面白い技能が多く、どれを得ようか迷う事も多くなった。
杖の光に『モンスター避け』の効果を追加した以外にも、『加熱』の効果も追加した。
これですぐ火が起こせるようになる。
そして翠はもう一つ学習した、ヒーラーはレベルを上げる事で『薬草に関しての知識が増える』事を。
これもヒーラー覚醒者の特権。
つまり、わざわざ本を買わなくても、ヒーラーなら何となくで薬が作れる・・・というもの。
それを知った翠は、先程買ってしまった本を、明日には返品しようと思った。
(・・・ていうか、本屋の店主も一言言ってくれればいいのに・・・
・・・それにしても、勉強しなくても薬が作れるようになる・・・とか、便利だけどちょっと
複雑だな・・・)
翠は転生する前、そこまで勉強が好きでもなかった。
嫌いでもないが、好き好んで机に向かう事はしなかった。しかし、今は何故か違う。
色んな薬草の知識が身につく事で、色々な薬品を作りたくなってしまったのだ。
翌日、少し高額ではあるが、『薬品製作セット』を翌日に購入する事にした翠。
ヒーラーではあるが、いざという時の為に薬は必要。
どんなに医学を勉強した医師でも、体調を崩せば薬に頼るしかない。それと同じである。
「・・・そういえばさ、リン。」
「何?」
リンがスライムを撫でる手を止めると、今度は翠の元へと寄って来たスライム。
翠はそのままスライムを抱きかかえながら、リンに聞く。
「この村を作った人が、昔コエゼスタンスに所属していた事は、リンの話からでも分かるんだけどさ。」
どさ。」
「うん。」
「・・・もしかして、この村とコエゼスタンスの関係って、それだけ?」
「いやいや、それだけじゃない。
実は、その『町の創設者の末裔』が、今でもこの町の町長をしているんだ。」
「へぇー・・・・・
・・・つまり、『コエゼスタンスの一員の末裔』が、この町に住んでいる・・・と?」
「・・・実は町を歩いている時に、とある『本屋の主人』から、ちょっとだけ聞いたんです。」
「・・・・・えっ? リン自ら声をかけたの??」
「個人的に気になっちゃって・・・・・」
翠は、つい感動してしまう。ついこの前まで、シカノ村の村人にすら、声をかける事ができなかったリンが、もう自分から人に声をかけられるくらい、成長してしまった。
まるで『親戚のおばちゃん』みたいな感覚の翠だが、この成長に驚かない筈がない。
だが、当の本人であるリンは、何故翠が驚いているのか、全然分からない様子。
「・・・でも、もうその末裔は、だいぶ落ちぶれてしまったようで・・・
この町を創設したドロップさんは、この国で1・2を争う程、魔術と薬学の実力と知識があったそうです。
そうです。
しかし、今の末裔は、魔術すら扱う事ができなくなった・・・とかで。
町長としての地位がなくなる日も、そう遠くない・・・と言っていました。」
「・・・まぁ、実力がないと町長は任せられないものかもしれないけど、その重圧に耐え続けてきた末裔の人達にとっては、町長としての地位がなくなる事が、果たして不幸なのか・・・」
きた末裔の人達にとっては、町長としての地位がなくなる事が、果たして不幸なのか・・・」
「うーん・・・・・
自分は底辺の底辺だから、そんなに難しい事は考えられないな。」
「いや、私もそうだって。
ただ、いつの時代、どこの国でも、『後継者争い』とか、『先祖の問題』はあるんだなーって思っただけよ。」
思っただけよ。」
翠がかつて暮らしていた日本でも、そういう話はちょくちょく耳にしていた。
『2世』や、『家系のプレッシャー』は、よくドラマの題材としても扱われている。
ただ、当事者になってみないと分からない事ばかりで、翠とリンはその話を聞いても、全然実感が湧かなかった。
2人もだが、世の中の人は『高い地位』や『多額の財産』に憧れを抱く。
だが、やはり『憧れ』と『自分の理想』は全く違う。リンも、これにはちょっとガッカリした様子だった。
覚醒者になってからというもの、最近のリンは理想と現実のギャップに苦悩している様子。