28・不可思議な夢
その小さな少年は、『父親』に抱きかかえられていた。
その小さな少女は、『母親』に抱きかかえられていた。
少年は感じていた、痛いくらい冷たい空気と、必死に走り続ける父親の息遣いを。
少女は見ていた、曇天の夜の空と、恐怖に震える母親の顔を。
まだ幼い2人は、何故自分達がこんな状況になっているのか、全く分からない。
しかし、2人をしっかり抱きかかえる大人2人の顔は、明らかに切羽詰まっている。
少女はとても怖かった、母親のそんな顔を、今まで一度も見た事はなかった。
いつもは優しい母が、血眼になりながら全力で走っている。
今にも泣き出したい気持ちを頑張って抑える少女。何故か少女は、無意識に泣くのを我慢していた。
父親の腕に抱かれている少年は、まだ歩く事すらままならないくらい、小さな男の子。
その男の子も、いつもなら夜泣きで起きる時間帯なのに、涙一つ流れない。
何も事情を知らない子供達でも、両親の異常ともなれば、すぐに察知してしまう。
そんな子供2人に対し、大人2人は申し訳ない気持ちでいっぱいな様子。
何度も全力で走り、何度も立ち止まり、何度も隠れる。そして、立ち止まる度に震えている両親2人に、子供達も震えてしまう。
視界の端々に見える『ランプの光』と、『大勢の声』
両親が走り回っているせいで、あちこちか声がするように聞こえてしまい、男の子は今にも泣きそうだった。
そんな男の子の頬を優しく撫でる父、だが父の手は、何故か『傷だらけ』
「・・・・・、・・・来れば・・・」
「いや、・・・・はできない。もしかしたら、・・・出ても・・・」
「そんな・・・!!
せめて・・・この子達だけでも・・・!!」
「そうだね、とにかく今は此処から・・・・・・・・!!!」
____________________________
「・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・んんんぅぅぅ・・・
・・・はっ!!!」
あまりにもリアルな夢に、思わず体がビクッと反応してしまったリン。
気づけば彼の体は、全身汗でぐっしょりだった。
そして側には、翠が道中で採取した『薬草』を調合して、『回復薬』等を作成しながら、見張りを続けている。
リンが目覚めた事に気づいた翠は、すかさず『一本の小瓶』を渡す。
その中に入っている『黄色い液体』は、いわゆる『胃腸薬』
「リンー、やっぱり食べ過ぎたんでしょ?」
「・・・え?」
「いや、私も結構食べたよ。
でも余ったらそれはそれで保存食にしようとしてたし、まさか全部食べちゃうなんて・・・」
「・・あ、いや、違うんだ! ちょっと夢見が悪かっただけで、お腹は壊してないよ!!」
「え? そうなの??
てっきり・・・・・」
「・・・でもその薬は飲んでおきますね、翌朝になってからお腹壊すのは嫌なので・・・」
今晩の『寝床』を探している最中、運良く森の中を彷徨っている『ケブタ』を発見。
リンがスライムで包み込み、クモの時と同様に窒息させた。
その上、森には香辛料や薬味となる草も生えていた為、それらを刷り込んで焼き、パンに挟んで食べた。
だが途中、パンが無くなってしまい、後半は『焼肉パーティー』に。
ケブタは味にクセはあったが、かなり食べ応えがあり、リンは満腹状態のまま寝入っていたのだ。
「ミドリ、そろそろ見張り代わるよ。」
「あぁ、そう?」
リンの目が覚めたら、今度は翠が睡眠を取る番。
ちなみに、リンのスライムは、ただモンスターを仕留めるだけではない。
野宿の時には、『寝袋』にもなってくれるのだ。
実はこの案は、旧世界の知識を頼りに、翠が提案したものだった。
翠が木の棒で地面に絵を描き、「こんな形にできる?」と、リンがスライムに提案すると、スライムはしっかりとその形を成してくれた。
最初は少しそのスライムに入るのを躊躇っていたリンだったが、入ってみると心地よくてすぐ爆睡。
スライムが守ってくれるのは体温だけではなく、地面の硬さと冷たさからも、しっかり守ってくれるのだ。
翠も案の定、スライムに包まれた直後に夢の中。
リンは背伸びをしながら、さっき見た夢の内容を思い出した。自分でもよく分からない、不思議な夢だった。
自分の目でその光景を、見たような見ていないような・・・・・
だが、リンには両親の記憶が全くと言っていい程ない。
だからその夢の内容が『昔の記憶』なのか、『単なる夢』なのか、確かめる術がない。
これ以上考えても仕方ないと思ったリンは、何か暇つぶしできるものがないか、周囲を見渡す。
結局朝日が昇るまで、リンは『蔦』を何本も繋ぎ合わせて『ロープ』を製作していた。