27・意外な類似点
順調に次へ向かう町へのルートを歩む翠とリンは、時折すれ違う旅人に会釈をしたり、時折進路妨害をするモンスターを蹴散らしたり・・・と、ちょっと足止めを喰らいながらも、着実に2人は進み続ける。
歩いても歩いても全然町は見えてこない。しかし、足が棒になるほど疲れる事はなかった。
何故なら、途中で『休憩』・・・という名の『道草』を食っているのだから。
道すがらあちこちに広がる大自然の景色をずーっと眺めていたら、いつの間にか日が暮れていた・・・なんて事も。
川で水を汲んだり、木に登って木の実を採取したり、あっちこっちに歩き回ってしまう。
まるで、下校時にまっすぐ家に帰らない子供のように、なかなか前へ進まない2人。
リンも、この珍道中を楽しんでいる様子。
元この世界の住民であるリンでも、村の外に広がる景色は、今までに一度も見たことがなかった。
だから、この世界に広さを実感した衝撃は、この世界の住民ではない翠と同じくらいだった。
食料は、割と何とかなった。通りかかった行商人から、『食料』と『モンスターの素材』を交換してもらったり、森には肉になってくれる『野生動物』や、野菜になってくれる『山菜』も沢山ある。
翠がかつて生きていた旧世界では、あまり考えられない生活。
野生の草を食べるなんて以ての外、例え食べられる山菜だとしても、『類似した毒草』の可能性もある。
野生動物に安易に手を出すと、『ウイルス』に感染したり『怪我』をする可能性がある。
近所に『イノシシ1匹』迷い込んだだけで、近所中が大騒ぎに。
だが、今の状況では、旧世界の常識なんて通用しない。
『食べられるのなら食べる』
『多少リスクがあっても、生きる為には弓を引く』
それが、この新世界を生きていく為の基本中の基本である事は、翠でもよく分かっている。
もう前のような、『平和』で『安全』な生活はほんの僅か、村や町に留まっている時しか時間できない。
村や町の外に出れば、『危険』と『リスク』が隣り合わせになる。そこで生きられるかは、本人の実力次第。
なら、多少横暴な方法でも、生き残るしかない。
だが、旅そのものが危険・・・とは限らない。
時には意外な発見をしたり、楽しい事が起きたり・・・と、危機的状況でも、しっかり毎日を楽しめる余裕が2人にはある。
それに翠は、道中で改めて気づいたのだ。旧世界と新世界の共通点は、意外にまだまだある事。
翠とリンが道をエッサエッサと歩いている時、『美味しそうな匂い』がした為、その匂いを辿ってみると、そこには『お食事所』があった。
旧世界で例えるなら、田舎通りにポツンとある、『割と有名な食事処』を連想させる。
そこには2人以外の旅人も、長い旅路を美味しい料理で癒していた。
料理自体もそこまで高額ではなかった為、2人はそこで昼食を取る事に。
店自体は家族営業なのか、実家のような安心感で、あったかいお店だった。
「へぇー・・・
色々とメニューが豊富だけど、どれ頼んだらいいかわからないね。リンはどうする?」
「うーん・・・・・
自分も決められなくて・・
とりあえず、『このお店のオススメ』にする?
それならとりあえず失敗はなさそうだし。」
2人は『店のおススメ』を注文して、しばらく辺りを見渡した。すると、翠はまた気づいた。
2人以外のお客は、ほぼ全員、覚醒者ではない事に。
実は村を出る直前、翠は改めて自分の体を調べ、自分にもリンの様に、覚醒者である事がすぐ分かる『印』があるか探した。
すると、案外それはすぐ見つかった。
いつも見慣れている自分の体だった為、今まで全然気づかなかったのだ。
首筋にある、『十字のアザ』
触っても全然痛くなく、肌質にも異変はない。
とにかく、覚醒者には必ず『アザ』がある事が分かった緑は、食事処に来ている旅人達をよーく観察した。
すると、誰の体にも、覚醒者の印はなかった。
そして、旅人達の目線は、ずーっと翠とリンに向きっぱなしに。
「・・・覚醒者って、そんなに珍しいんだ・・・」
「・・・多分、『覚醒者2人が旅をしている』事が、珍しいんだと思う。
覚醒者は基本、ずっと同じ場所に永住して、その場所を守って生計を立てているんだ。
わざわざ安全地帯の外に出て、命を危険に晒す事は誰だってしたくない。
そこにいるだけで、覚醒者はお金が貰えるようなものだから。」
「そっか・・・・・」
「・・・あ、そういえば、覚醒者は王都に多いみたい。やっぱり国をまとめ上げる王様達も、覚醒者の力を重宝しているみたいだから。」
醒者の力を重宝しているみたいだから。」
そんな話をしているうちに、2人が注文した料理が運ばれてくる。それは・・・・・
「はいっ! 『シロメン』2人前!
お待ちどうさま!」
(・・・・・・・・・・え・・・・・?
これって・・・どう見ても・・・・・
『うどん』・・・だよね?)
シロメンが一体どんな料理なのか、身構えていた翠の前に現れた、旧世界でもお馴染みの麺料理に、翠は思わず呆気に取られてしまう。
真っ白で『太い麺』、海鮮で出汁が取られた『スープ』、ネギ・・・っぽいけどネギではない、麺の上にトッピングされた『薬味』
道の駅等でも定番の料理であり、コンビニでも出汁をセットで売られている、『日本料理』の一つ。
それが、まさか新世界にもあるなんて、思いもしなかった翠。
びっくりしたが、それ以上に喜びが勝り、初めてのシロメンに感動するリンを放っておいて、1人で黙々と麺を啜り始める。
翠は特に好き嫌いはない、旧世界の頃は、給食を毎日残さず食べた事で、先生から表彰された事も。
そんな翠でも、まさかもう食べられないと思っていた料理が出てきてくれた事は、まだ新世界に戸惑いを隠せない翠にとって、心の支えになる。
リンはというと、初めての『麺料理』で、うまく口に運んで啜る事ができないのか、机の上が薬味と水滴であっという間に汚れてしまう。
でも、リンもシロメンを気に入った様子で、2人の間にはズルズルと啜る音だけが交差している状況。
その光景に、周りで見ていた旅人達の目線は、いつの間にか暖かくなっていた。
やっぱり、夢中で料理を食べる人の姿は、何故か癒やされてしまうものなのだ。