25・希望を抱かずにはいられない
「コエゼスタンスのメンバー達は、決して人間とモンスターの間に境界線を作らなかったそうです。
す。
困っているのなら、人間であろうとモンスターであろうと関係ない。
『様々な種族が、互いに手を取り合える世界を目指す』
それが、コエゼスタンスの活動目的でした。」
「・・・その口調からして、今はもう、そのコエゼスタンは無いのね。」
「えぇ。ただ・・・・・」
「『ただ』?」
「コエゼスタンスが解散してしまった理由は、今でも分かっていないんです。
あれだけ大規模な集団だったにも拘わらず、いつの間にか無くなっていた感じで・・・」
「・・・・・・・・・・」
旧世界にも、『突然芸能界から姿を消した俳優・アイドル』等の話はよく聞く。
だが、それが『集団』となれば、話は変わる。
リンの口ぶりから、コエゼスタンスはそこまで知名度が低いわけではない。様々な国の重鎮からも認められるような、かなり大々的な組織。
そんな大きな組織が自然消滅・・・なんて、明らかにおかしい。
事件や出来事がきっかけなら、まだ納得できる。
「・・・本当に誰も知らないの?
解散した理由。」
「えぇ、自分も個人的に色々と調べたんですけど、全然分からなくて・・・
・・・いや、自分が調べられる範囲なんて高が知れているので、知っている人は、この国の何処かにいるのかもしれませんが・・・
処かにいるのかもしれませんが・・・
・・・でも、コエゼスタンスが無くなった今でも、自分は願わずにはいられませんでした。
それが例え、『空想話』でも、『単なる理想』でも、願ってしまうんです。
『様々な種族が、互いに手を取り合える世界』を。」
「・・・・・・・・・・・・・・・
そうね。私もかつては、そんな考えを持っていたわ。」
「・・・・・え?」
まだ翠が、『学校』という『小さな世界』に閉じ込められていた時の事。
翠は、願わずにはいられなかったのだ。
『どんな趣味を持っていても、皆で仲良くなれるクラスになってほしい』
と。
アニメ好きも アイドル好きも 漫画好きも ゲーム好きも PC好きも バラエティ好きもスポーツ好きも、スイーツ好きも 辛党好きも 車好きも バイク好きも・・・
スポーツ好きも、スイーツ好きも 辛党好きも 車好きも バイク好きも・・・
皆がそれぞれの趣味や好みを共有して、一緒に楽しく過ごせるなら、翠はもっと楽しい学校生活が送れていた。
一辺倒に拘らず、皆の趣味を皆が認め合えれば、それで翠は満足だった。
小学生の時も、中学生の時も、高校に入った時も、その望みを胸に抱きながら、校舎に足を踏み入れていた。
しかし、翠の願いは、『3回』も潰されてしまった。
傷つけられたり、物を隠されたり・・・といった事はされなかったものの、何かと『ゲーム好きだから』と言われては、白い目で見られる生活。
翠自身がやり返さなかったり、先生に幾度も相談しなかった事もあるが、転生した今でも翠は思う。
何故自分が、あんな目に遭っていたのか全くもって理解できない
全くもって理解できない
そしてその気持ちは、リンにもある
何故自分が、こんな目に遭わなくちゃいけないのか全くもって理解できない
全くもって理解できない
だが、翠は気づいているのだ、茶化す傍観者は勝手に捲し立てて、遊んでいるだけ。
それこそ、ゲームで遊ぶよりもよっぽどタチが悪い。
何故タチが悪いのか、それは『自覚がない』から。酷い事をしている自覚がないから。
それが、『当たり前』だと思っているから。
『自覚の有る悪人』と、『自覚の無い悪人』
言葉のニュアンス的には似ているように思えるが、その本質は全く違う。
「・・・・・ねぇ、リン。私もね、思ったの。」
「・・・?」
「私も、『当たり前』の様に、モンスターと人間が一緒に暮らせたら、どんなに良いか・・・」
「・・・・・ミドリ・・・」
「もちろん、色々と問題が起きるかもしれない、いがみ合いになるかもしれない。
それでもね・・・・・
今のこの現状よりは、『認め合える』世界の方が、私はこの国も、この世界も好きになれるよ。 リンもそうでしょ?」
よ。
リンもそうでしょ?」
翠のこの言葉に、リンは思わず涙を流してしまう。
自分だけではなく、モンスターに対して、こんなに優しい考えを向けてくれる人なんて、リンは初めてだったのだ。
翠が、この世界の住民ではない事を知らない彼だが、それでも彼女の言葉は、この上なく嬉しかった。
リンは、自分の膝を抱えて涙を隠す。そんなリンを、翠は優しく抱きしめた。
そして、自然と翠の目からも涙が溢れる。彼が一体どんなに辛い思いをしたのか、想像できてしまったから。
そして、リンはかつて、翠が願っていた事と、同じ事を願っていた。
『どんな種族でも、皆で仲良くなれる世界になってほしい』