24・コエゼスタンス
「・・・なんか外がうるさくて、落ち着かないね。」
「そうですね・・・・・」
クモを退治したのは2人だというのに、村人は2人そっちのけでお祭り騒ぎしている。
それくらい、あのクモは村人達にとって脅威だった事は、2人も分かっている。
だが、一緒に盛り上がる気にはなれない。
リンは尚更。
「・・・まぁ、明日にはこの村を出るんだから、一晩だけの辛抱だよ。」
「・・・そうか・・・
この村以外で生活するなんて、まだちょっと考えられないなぁ・・・」
「何? 寂しいの?」
「・・・ちょっぴり。」
「まぁ、そうだよね。どんな過去があったにしろ、ずっと住み続けた記憶があるんだから。」
リンは、翠に対して優しい笑みを浮かべていた。だがその笑顔を見て、改めて翠は恥ずかしくなってしまう。
綺麗に身なりを整えたリンは、まさに『異国の王子様』
そんなリンに、気兼ねなく話しかけてくれる事自体、翠は恐れ多く感じていた。
もっと綺麗な服や装飾品を身に纏えば、王族に紛れ込んでも違和感のない雰囲気である。
翠はそんな気持ちを抑える為、リンに改めて、『エルフ』の事に関して色々と聞いてみる事に。
「り・・・リンはさ、自分以外のエルフと会った事があるの?」
「いいえ、ないですね。」
「・・・じゃあご両親とかは・・・?
・・・聞くのがちょっと遅かったかもしれないけど・・・」
「それが・・・両親と一緒に過ごした記憶はほぼないので、どんな人だったかは・・・
でも、この世界には自分以外のエルフも沢山いるので、旅路できっと出会うと思いますよ。
それに、エルフ以外のモンスターも、村や町で生活している・・・という話は聞いた事があり
ま す。
・・・ただ、その全員が幸せに生きているのかは・・・」
「・・・・・・・・・・」
話を盛り上げようとしたつもりが、また言葉に詰まってしまった2人。
意外にも、2人の息は合っているように見えて、実は変なところで合わないのだ。
互いに異性に慣れていない事もあるが、やはり生きていた世界が違う事も、話題に詰まる要因になってしまっている。
でもリンは、翠と一緒にいられるだけで幸せだった。
何故なら、今までリンの側にいてくれる人は、一人としていなかったのだ。
『モンスター』というだけで遠ざけられ、蔑まれていた時代と比べたら、今は数百倍マシ。
たまたま道端で知り合った相手と、こんなに親密な関係になれるとは思わなかった。
だがそれは、翠も同じ。
「・・・ミドリさん、本当にありがとうございました。」
「え? 何が?」
「・・・色々とですよ。
まさか自分が、召喚師として覚醒するとは思ってもいませんでしたし、ミドリさんは僕を導いてくれたんです。
てくれたんです。
・・・ついこの前まで、自分はこの村で果てる運命だと思っていたんですけど、まだまだ生き
られそうです。」
「でもこれからは、自分の命は自分で守ってね。
いくら私でも、守りきれない場面はこの先何度も来ると思うから。」
「当然ですよ。逆に、これから僕は『守られる側』から『守る側』になる為に、一生懸命頑張ります。」
ます。」
「うん、その意気込みさえあれば、この先大丈夫ね。」
「・・・・・ミドリ・・・
実は、僕が覚醒者を目指したきっかけは、優遇されるから・・・って事もあるけど、もう一つ、『憧れ』があったんだ。」
つ、『憧れ』があったんだ。」
「・・・・・『憧れ』って・・・覚醒者に憧れたとか?」
「いや、それもあるけど・・・」
急に真剣な顔になったリンに、翠はちょっとびっくりしてしまう。
しかし、リンが語ってくれた話は、リンにとっても、翠にとっても
『この先の希望に成り得る』話であった。
「・・・自分自身の目で確かめたわけではありません。
でも、いまだに語り継がれている『ある集団』に、自分はずっと憧れていました。」
「『ある集団』って?」
「・・・『コエゼスタンス』」
「コエ・・・ゼスタンス?」
翠にとっては聞き慣れない言葉。しかし、コエゼスタンスの話をするリンの目は、とても輝いていた。
「コエゼスタンスは、自分が生まれるずっと昔からあった、
『人とモンスターの覚醒者を集めた集団』で、各国の問題事や事件を解決する、『ヒーロー』だったんです。
だったんです。
彼らは王族・貴族だけではなく、庶民達の生活を支えたり、生活を脅かす賊やモンスター達を一掃しながら、世界中を旅していたんです。
一掃しながら、世界中を旅していたんです。
そのコエゼスタンスが生まれた場所が、この国だったんですよ。」
(・・・つまり、旧世界で例えるなら、『レンジャー』的な存在・・・という事か。)
翠はふと、旧世界の記憶を思い返していた。
日曜日の朝、かっこいい音楽や眩い光と共に参上する、顔を隠すレンジャー達の番組。
翠は女だからあまり興味はなかったが、幼稚園生や低学年の男子なら、一度は憧れた存在。
道を歩けば、レンジャーのグッズを身に纏いながら、レンジャーごっこをする子供達の姿がちらほらと見える。
悪を裁き、困っている人・弱っている人を助け、自分自身の危機を顧みずに戦うその姿は、まさに『憧れ』の一言に尽きる。
リンが彼らに憧れを抱く事も、何となく頷ける翠。