20・タカギグモ
『ギィィィィィィィィィィィィィィィ!!!』
「な・・・何なのよ・・・この・・・『でっかいクモ』?!!」
「『タカギグモ』?!! どうしてこんな平地の森に?!!
・・・まさか・・・ずっと僕達の様子を遠くから窺って・・・?!!」
その見た目は、どう見てもクモなのだが、その体は、自分の糸でグルグル巻きになっている。
そして、クモの体のあちこちには、『武器』や『骨』が巻かれている。
恐らくそれは、クモの『戦利品』
何の為にそんな事をしているのかは分からないが、悪趣味である事に変わりはない。
頭部で光る9つの目は、しっかり翠とリンを認識している。
翠がこの世界に来てみたモンスターは、『スライム』と『ゴブリン』くらいしかいない。
しかし、そんな翠でも分かってしまった。相手が『強敵』である事に。
(この・・・冷たくてゾワッとする感覚も、覚醒者故の直感なの・・・?
・・・・・いやいやいや!!! 今はそんな事考えている場合じゃない!!!)
クモが最初に手を伸ばしたのは、あまりの驚きで身動きができないリン。
翠はすかさず、杖でクモの足を、全力で叩いてみる。だが、その結果は翠も何となく察していた。
防御が高いのか、それとも糸の層が厚いのか、杖は当たったものの、手応えがない。
だが、クモの認識は翠へと移り、クモはその8本の足で翠に喰らいつこうとする。
翠は懸命に避けながらも、どうにか攻撃の隙を窺っていた。だが、攻撃が通らないのでは、話にならない。
その上、何度も何度もクモに攻撃を加えたせいで、翠の持っていた杖はクモの糸に絡め取られ、クモの体に埋め込まれてしまう。
「・・・仕方ない、『アレ』使うか。」
翠は、華麗な身のこなしでクモの攻撃を避け、リンの元へと駆け寄る。
そして翠は、そのまま袋の『一番奥』へ手を突っ込み、取り出したのは・・・
「・・・・・それは・・・」
「・・・『ゴダマの杖』よ。モンスターの戦利品から、作っておいたのよ。
まぁ、出費はちょっと痛かったんだけど・・・
その分期待してもいいんだよねっ!!!」
翠がゴタマの杖を振りかざすと、杖の先端に装着されている『丸い水晶玉』から、真っ赤な炎が湧き上がる。
しかもその炎は、周囲に生えている木や草に引火しない。
魔力で生み出した炎や水は、現実世界には干渉しない事は、杖を作ってくれた『武器屋の主人』が教えてくれた。
現状で翠が作れる、最大火力の杖が、そのゴタマの杖。
杖の先端に水晶玉を装着して、水晶玉の中に『スライムの体液』を内蔵する事で、杖に更なる魔力を付与して、魔力で生み出した炎や水を生み出す。
実はこのゴタマの杖、本来は『ブラック・マジシャン(黒魔法使い)』が装備する武器。
だが、翠が言った要望に鍛冶屋の主人が応えて、渋々作ってもらえたのだ。
「もっと火力が欲しい。だから、『回復魔法特化』じゃなくて、『攻撃特化』の杖を作ってほしいの。
」
「・・・はぁ?! だってあんた・・・ヒーラーなんだろ?!」
「それでもお願い、お金はしっかり払うわ。」
武器屋の主人は、不安な事この上なかった。
しかし、お金はしっかり払ってくれた上に、翠の毅然とした態度を目にしてしまうと、作らないわけにはいかなかったのだ。
扱うまで、ちょっと心配だった翠だったが、新しい杖の力は本物だった。
杖から炎が発せられ、翠はすかさず一振り、クモの足に再度攻撃を加える。
すると、魔力で生み出し炎がクモの糸を焼き払い、ようやくクモの体が目視できるようになった。
その足は、まるで木の枝の様に、ヒョロヒョロとしている。
やはりこのクモは、自身の編み出した糸や、引っ張ってきた戦利品を体に巻き付ける事で、強さを演出していただけであった。
ただ、その防具を焼き払っても、まだ油断はできない。
翠は華麗な身のこなしで、クモの体の防具をじわじわと焼き払い、ついに8本の足を丸出し状態にする事ができた・・・・・が。
「ひっ・・・ヒィィ!!!」
「リンっ!!!」
翠が相手だと分が悪いと悟ったクモは、リンに再び目を向ける。
リンは慌ててその場から立ち去ろうとしたが、木の根が足に引っかかってしまい、そのまま倒れ込んでしまった。
だが、幸か不幸か、リンが手をついた場所にいたのは
もうリンが絶命させたスライムの亡骸
その亡骸に、リンが触れた途端・・・・・
カァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
「うわわわわわわわぁ!!!」
翠の反応は、クモと出会った時よりも大きかった。突然リンの体が光り始め、翠もクモも後退する。
何が起きたのか確かめたくても、光が強すぎて目視できない。
翠がその光に気を取られている隙に、クモはまた翠へと視点を変え、ジリジリと近寄って来ていた。
それに慌てて、翠が杖を振りかざした。
その直後
ビュンッ!!!
突然、視界の端から『何か素早いモノ』がクモに飛びつき、そのままクモの顔に張り付いてしまう。
クモは必死になって振り払おうとするが、かなりしっかりくっついているのか、びくともしない様子。
だが、翠は気づいた。クモの顔に張り付いているモノの正体が。
「・・・すら・・・いむ・・・??
スライムが・・・何で・・・?!」