19・やってみないと分からない
「※※※※※ー!!!」
「お、また1匹発見。リン、やってみてごらん。」
「はっ、はい・・・・・
てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「・・・ん? あっちの塊は・・・私がやっておくか。」
ブンッ!!!
「_____※※※※※!!」
翠がブンッと、杖をスライムの塊にめがけて杖を投げつけると、見事にヒット。
ほぼ垂直に飛んでいった杖がスライムを貫いた瞬間、スライムは悲鳴をあげながら体を尖らせていた。
そして、3匹くらい固まっていたスライム達は、リンから逃げるように散り散りになる。
リンにはまだ集団のモンスターと戦える程の技術も度胸もない為、単体はリンが相手をして、集団は翠が相手をする。
スライムなら集団相手でもどうにかなる翠は、あっさりと3匹を仕留め、さっさと素材を回収していた。
村を出てから、翠とリンは、とにかく目についたスライムを倒しまくる。
そして、まだリンが戦うのが難しそうなゴブリンを見かけた時は、その場から立ち去る。
下手に相手にできない敵に喧嘩を売るより、着実に経験値や素材を集めたい翠。
その理由としては、この世界に『コンテニュー』という概念があるのか、分からないから。
ゲームの場合、無茶して強い敵に立ち向かって、ゲームオーバーになってもコンテニューがあれば、ボスの序盤からやり直せる。
その他にも、凡ミスや操作ミスでゲームオーバーになったりしても、コンテニューさえあればどうにかなる。
かなり昔のゲームになると、コンテニューがないのが当たり前だった。
そう考えると、ゲームの進化は昔の常識を遥かに超えるくらい、当たり前のように成長を続けている。
る。
転生してしまって、大好きなゲームができなくなってしまうのは少し悲しい翠だが、自分がゲームのキャラのように立ち回れる実感は、ゲーム好きにとってはたまらない。
ただ、喜んでばかりもいられない。もしこの世界に、コンテニューがないのなら、慎重に立ち回らないといけない。
せっかく転生したのに、この世界で命を落としたら、転生した意味がなくなる。
旧世界にはコンテニューなんて機能はなかった。死んでしまえばそこで終わり、だから翠は転生したのだ。
ただ、この世界で死んだら、また旧世界に・・・なんて都合のいい話があるとも限らない。
確証がない現状では、とにかく自分の命は自分で守らないといけない。
ゲームの世界に飛び込めた喜びで、少し無茶をしたい気持ちもある翠だが、そこはグッと堪える。
ある意味、『好奇心に耐える』事が、翠の更なる試練なのかもしれない。
2人で村を出てから約1時間で、スライムの素材が数十個も溜まってしまった。
・・・が、相変わらず、リンは武器を扱えていない様子。
「ゼェ・・・ゼェ・・・ゼェ・・・」
「ちょっとちょっと、まだソイツ倒しきれてないじゃない!!」
「・・・そんな事・・・言われても・・・」
リンは剣やナイフ等、武器はしっかり持てている。しかし、全然扱えていないのだ。
剣もスライムに当たってはいるものの、ダメージは微々たるもの。
ヒーラーである翠の杖よりも劣る攻撃力に、翠は思わず苦笑いをしてしまう。
剣の先端はちゃんとスライムを貫通しているのに、威力が足りないから逆に翻弄されてしまう。
結局リンが1時間で倒せたスライムは、数匹くらいしかいない。
1対1だとしても、うまく仕留められなかったり、攻撃が当たらず泥試合になったり・・・と、リンも頑張ってはいるものの、この結果には翠も唖然としてしまう。
(・・・でも、あれがある意味、普通なのかもしれない。
そう考えると、覚醒者って結構凄いんだな・・・)
翠は、改めてあの『声の主』から貰った『贈り物』のありがたみを実感する。翠は当初、
この世界にいる人なら、誰でも旅人になれる・誰でも技が使える
と思っていた・・・が、それは大きな間違いであった。
翠やクラスメイト達は、何の努力もせず、何の自覚もなく、最初から覚醒者としてスタートできる。
人生ゲームで例えるなら、スタートの段階で『大金持ち』や『大統領』という、高い地位からスタートできる、もう至れり尽くせりな待遇である。
この特別な立場に、申し訳なさすら感じている翠。
何故ならリンの話では、覚醒者になる為に日々頑張っている人も、この世界中に多い。
にも拘わらず、自分達ばかりがこの地位に就いてしまった事に、罪悪感が無いわけがないのだ。
「はぁ・・・はぁ・・・・・」
「・・・ちょっと休むか。」
リンは、質屋で購入した一通り武器を試した・・・が、全くと言っていい程、何の変化もない。
彼も善戦した、だがやはり上手くいかない現実に、ガックリきている様子。翠も失望の心境が隠せなかった。
だが、同時に翠は、自分の体が転生した事によって様変わりしてしまった事を、間接的に突きつけられた。
翠がこの世界で上手く立ち回れているのは、覚醒者だからこそ。
旧世界のままの体では、どんなに強い武器を装備していたとしても、スライムすら倒せなかった。
翠はふと思った、転生した全員が覚醒者であるなら、クラスメイト達もしっかり立ち回れる筈。
だから、わざわざ自分が助け出す必要もない。温情をかける必要もない。
そう思うと、少しだけ安心した翠。
(・・・あいつら、さすがにもう森から出てるかな・・・?
というか、まだこの世界に来てから1日しか経ってないのか・・・
体感的には、もう半年くらい経過した感覚がするんだけどな・・・)
「・・・・・・・・・・
・・・やっぱり、僕、荷物運びしか、翠さんの役に立たないのかな・・・?」
リンは、笑っていた。
しかし、昨日の晩、翠に見せた笑みよりも、ちょっとだけ明るくなっているのは、翠でも気づいている。
リンの笑顔がだんだんと感情を帯びているのが分かっただけで、翠は満足だった。
「とりあえず、今日はまた村に泊まって、明日に出発しよう。
さすがに今から出発は無理でしょ?」
「・・・連れて行ってくれるんですか?」
「そりゃ・・・まぁ・・・
だって、ここまでやらせておいて、全部放り投げるのも、無責任・・・というか・・・」
「・・・ありがとうございます!! 僕、何だってします!!」
「ちょちょ、ちょっと!
こんな場所であんまり大きな声を出すと、モンスターが寄って・・・・・
キキキキキキキキキキキキキキキ・・・・・
「っ?!」「っ?!」
二人の耳がキャッチした、その妙な音。木々が擦れる音でもなければ、獣の声でもない。
まるで、『鉄を擦り合わせた音』のような音。
そして、その音はリンの声に反応して、だんだん2人に近づいていき・・・・・