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175・悲痛な叫びを信じる者はおらず

「_____あぁ、もう殺してくれ、もう・・・・・」


 翠達は、この男が誰なのか疑った。

だが、まさかこんな場所を本物の浮浪者が寝床にしている・・・なんて、考えられない。

 かと言って、貴族でもなさそう、普通の一般人でもなさそう。

やはりこのヨレヨレになった男こそ、この国の王。


 これ以上考えても、何も思いつかなかったグルオフは、ひとまず王の有様の事情を聞くことに。


「貴方は・・・何故こんな姿に・・・??」


「俺は悪くない、俺は・・・俺は・・・・・」


 その言葉にムッとしたのは、クレンとラーコだった。

当然、2人以外の仲間も同じく苛立ちを感じたが、2人の気持ちは、『俺は悪くない』の一言だけで爆発寸前。


 そう、2人はその一言では片付けられないくらい、未来をめちゃくちゃにされたのだ。

グルオフもそれは同じなのだが、彼が長年苦しみながらも、頑張り続ける姿をずっと見てきたアメニュ一族だからこそ、余計に怒りが増すのだ。


 グルオフは決して『私情』で怒ることはない、

だからこそ、彼の怒りを代弁したのは、共に長い苦楽を渡り歩いたラーコ。

 彼女は王の胸ぐらを掴み、怒りで混乱する脳内から、必死に言葉を絞り出した。


「お前は・・・私達を覚えているのか・・・!!

 私達・・・・・アメニュ一族を!!!」


「ヒッ!!!

 ま・・・・・まだ生きていたのか?!!」


 必死に声を絞り出す様子の王。気の利くリータは、そっと部屋のドアを閉めて鍵をかけた。

相手はとくに抵抗する様子はない、これなら『邪魔』が入らなければ、じっくり話し合える。

 だが、とうとう話す気になった様子の王でも、まだ言語が乏しい。

王の頭の中は混乱だけではなく、『恐怖』も入り混じっているから。


 それが『ナニ』に対する恐怖なのか、まだ翠達に知る術はないのだが・・・・・


「___じゃあ、あの火事は!!」


「_____ここまで来るのに、本当に長かった。『汚い仕事』に手を染めた事もあったわ。

 それでもね、私たちは諦めなかったのよ。

 あんたがこの城の中で、『王様ごっこ』している間もね!!!」


「ち、違う!!!」


 まだ弁解しようとする王に、翠も痺れを切らして声を荒げる。


「何が違うっていうのよ!!! 

 ここまでのうのうと生き続けたんだから、最後の最後くらいは真実を吐きなさいよ!!!」


「___私はもう、この国の支配を実質やめている。」


 その言葉を聞いた直後は、誰も信じなかった。

しかし、王や部屋の代わり様が、その言葉が真実である事を物語っている。

 部屋どころか、自分まで管理できない人間に、国を治められる筈がない。

だが、それにしては王の様子があまりにも異様で、皆はむしろそっちの方が気になっていた。


「___贅沢三昧で体を壊したの?」


 翠がちょっと挑発気味に質問すると、王はすごい勢いで「違う!!」と言いながら、彼女に掴みか

 かろうとする。

それを、ザクロが翠を後ろに交代させ、クレンとリータで王を押さえこむ。


 男2人に押さえつけられた王は、その一瞬で体に残っていた体力を使いきったのか、まるで地面に

 落ちた枯れ葉のように萎れてしまう。

だが王は、自分たちの事情を、ポツポツとだが語り始めた。


「まさかこんな事になるなんて・・・・・

 何故『息子』は・・・・・」


「___息子さん、亡くなったの?」


「いんや、違う。今は多分、あの『地下室』だ。」


 その言葉に、翠達は一瞬ヒヤッとした。何故なら彼女達は、地下通路を通って来たのだ。

(まさか・・・)と思った翠達だったが、王は話を続けた。


「あの場所は・・・アイツの『実験場』だ。『奴ら』ももう・・・・・」


「『奴ら』?」


「『実験動物』だ。アイツは自分の実験の為に、『あんな大勢の覚醒者』を匿ったんだ。

 飼ってたんだよ・・・・・」


「っ!!!」


 『大勢の覚醒者』という言葉は、翠の心臓を一瞬だけ停止させる。

ここにきて、ようやく離れ離れになったクラスメイトと思われる言葉が出てきた。

 だがその前に語られた言葉は、明らかに不穏だ。

『実験動物』 明らかに『人間扱いされていない』表現。


 それどころか、彼らは曲がりなりにも覚醒者。この国で重宝されている存在。

そんな彼らを、『実験動物』にしているのが、王の息子である、王子。

 翠以外のメンバーは、顔を見合わせた。言葉だけでも、そのおぞましさが感じられる。

特に翠は、王の言葉が信用できず、真偽を問う。


「___そんな非道なこと、貴方の息子さんがやるとでも?

 まさか、息子に地位を取られたくないからって、いい加減なこと言ってるんじゃないわよね!!」


「もしそうなら、どれ程よかったか・・・

 アイツの恐ろしさはな、覚醒者なんてもんじゃない。あれはもう・・・・・『悪魔』だ。」


「息子に対してそんな言葉・・・・・」


「アイツが何かを始めようとしているのは、随分昔だ。

 その頃に、どんな手を使ってでも止めておけばよかったんだ。」


「___何を始めようとしているのよ。」


「分からない。」


「いい加減にして!! 今更嘘なんて聞きたくない!!」


「本当なんだ!!! 俺だけじゃない、妻も何も知らないんだぁぁぁ!!!」


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