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173・『日常』に焦がれる

 王子からのお達し(張り紙)によって、一応は安堵できたものの、まだ安心はできない。

貴族も王族も、外へ出るのを禁じられているのなら、外で何かしらの音が聞こえた際には、すぐ気づかれてしまう。


 ここからは、事前に打ち合わせして決めておいた『ハンドサイン』を使いながら進む事に。

グルオフや、避難してきた兵士からの情報で、王家の部屋は『最上階』にある事は、全員の頭の中に入っている。


 窓から漏れる王都の賑やかな声が、上手い具合に翠達の足音をかき消してくれる。

不意にザクロが、窓に目を向けると、遠くで夜を楽しむ王都の住民達を見つけた。

 お酒を飲んで仕事の疲れを癒したり、男女が仲睦まじく手を繋いでいたり。

思い思いに夜を楽しむ人々の姿を見て、ザクロは少し『拍子抜け』してしまう。


 何故なら、里の住民も王都の住民と、同じように夜を楽しみ、同じように夜を過ごしている。

お酒を飲んで仕事の疲れを癒す光景も、男女が仲睦まじく手を繋いている光景も。

 何もかもが里と瓜二つな光景に、ザクロは(やれやれ・・・)という顔を隠せなかった。


 ザクロもザクロで、人間に対して色々と『偏見』を持っていた。

それに関しては、人間側も同じようなものなのだが、実際の違いなんて、そこまで大差ない。

 人間もモンスターも、家族と共に過ごし、日々のために働き、異性と恋をする。

お金の流通していない里でも、大人の誰もが働き、子供が勉強をするのが当たり前。


 クレンもラーコも、普通に人間社会で過ごしていても、何の支障もない。

それなのに、何故種族で枠組みが作られてしまったのか。

 翠は何となく分かっている、その枠組みに、それほど意味がない事を。

なのに、それをどうして互いに守り続けるのか、ここまでくると、もはや『滑稽』である。


 翠は、この王都をザクロと一緒に歩きたい願望がある。

そして彼に、まだ見ぬ様々なものに触れてほしい。里では食べられない美味しい物も食べてほしい。

 未知なる存在に触れたザクロの表情は、すっかり翠と虜にしていた。


 翠も翠で、王都を出歩いたのはほんの僅かではあるが、ザクロの反応の方が、王都の中より見たい

 のだ。

彼が新しいものに触れている時の反応や表情は、翠のなかでは何故か病みつきになる何かがある。


 このまま窓から王都の外を見るザクロを見ていたいが、今はそれどころではない。

それに、この件が解決すれば、もっと夜の王都が賑わうかもしれない。それこそ、眠れないくらい。

 翠はザクロの手を引き、階段を登る。


 薄暗い階段に何度も転びそうになるリータと、それを真後ろでキャッチするクレン。

どんどん上に登っていくごとに、心臓の鼓動が大きくなる翠達。

 ようやくではあるが、この件の全ての元凶と対峙する事ができる。


 当然、逃がしはしない。そんなの『無意味な妥協』である。

翠やザクロの脚力や、リータ・クレン・ラーコの判断力があれば、ろくに仕事をしない人間の走る速度なんて、5人からすれば『早足』にもならない。


 上に登っていくと、飾られている調度品やインテリアの質も、どんどん豪華になっていく。

その目が痛いくなるほど豪勢な調度品の数々に、緑は目眩を起こしそうになる。


 しかも、見た限りそこまで傷や劣化部分もなく、比較的下の階に飾られている調度品より、明らか

 に新しい物ばかり。

一つでいくらになるのか、翠達には想像もできないものの、この一つの調度品があるだけで、王都の住民全員の生活が、一ヶ月は賄える。


 触れただけでも落ちて割れそうな為、翠達の足取りは自然と重くなる。

見た目が高級そうなだけで、何故かプレッシャーが無関係な翠達にものしかかる。




 翠は昔から疑問だった。

何故お金持ちの家には、こんなよく分からない、高級そうな置物が多いのか。

 それは、人によって答えが分かれるのかもしれない。


 自分の資産をアピールする為 単に趣味の為 作者との知り合い関係を誇張する為


 しかし、今の翠達には、それらとは違った考えがある。

それは、侵入者を容易に自分達の元へ行かせない為。

 あくまで翠達の狙いは、城に飾ってある置物ではない。お金ではない。

偽・王家本人を狙う翠達にとって、高級そうな置物は、『プレッシャーの塊』でしかない。


 そこまで偽・王家が考えているのかは分からない、ただ単に『見栄』なのかもしれない。

だがよく考えると、この置物一つ一つが、民のお金である事を考えると、やはり可哀想な気がする。


(___そういえば、私が住んでいた旧世界でも、『税金使途不明事件』とかあったけど。

 あれが有耶無耶になったのも、それこそ政府の陰謀?


 ___まぁどっちみち、『お金』っていうのはどの世界でも、争いの原因にはなるけど、『事件の

 元凶』ではないんだよね。

 多分私は、一生かかっても、こうゆう物の価値は分からないんだろうな。

 

 それって・・・良い事?)


 翠は「フッ・・・」と苦笑いを浮かべた。

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