172・波紋は広がり続け・・・
『夜の城内見回り 中止のお知らせ
兵士、使用人の皆さん、いつも我々の城のために尽くしてくださり、感謝の限りです。
最近では我々に歯向かう民も増えていますが、皆さんの命に危険が及ばないよう、これからも協力
と尽力を願う所存であります。
私は『この国の王子』として、この精魂尽きるまで、国民全員に尽くす努力を、これからも惜しむ
事なく全うします。
この苦難を乗り越えた先に、また新たな国の明るい未来がある事を祈り、今は皆様と頑張れる事を
嬉しく思います。
しかし、近頃この王都周辺では、許可なく城に立ち入り、『窃盗』や『暴行』を我々に加える民も
増えています。
その被害も徐々に増えてきており、牢に入れるだけでは済まない、凶悪な事件へ発展するケースも
少なくありません。
民の抱える苦しみは、もはやこの国一番の問題にまで膨張してしまいました。
その原因は場所によって多種多様、問題解決には、まだ時間と労力が必要になりそうです。
しかし、私はまだ諦めたわけではありません。
この国とまとめる『王家』としての役目は、代々引き継がれているのですから。
当然、我々も警備などの対策を施しておりますが、近頃はその手口も巧妙になってきており、警備
しなければいけない場所が増える一方です。
しかし、兵士にも対策にも『限度』があります。
その為、必要のない、または必要性の薄いところは、削ぎ落とす必要があるのです。
そこで城内の皆様には『夜間外出禁止令』を、実験も踏まえて数週間前から実践した結果、夜間の
侵入者を効率よく捕縛できた結果も踏まえ、次の令をを本日の晩から実行します。
1 貴族・王族の皆様は、夜間の城内を歩く行為を以前と変わらず禁ずる。反した場合には、『減
給』も視野に入れる。』
2 今回は貴族・王族も含め、『兵士』も夜間城内の見回りを禁ずる。夜間見回りを行う場所は、
城外と城周辺とする。
侵入者を見かけた場合は、例外なく捕縛するように。
こうする事により、兵団の費用や労力を無駄に浪費せず、必要な際にいつでも出動できるようにし
ます。
不明な点・要望がある際には、兵団長キーチャ、もしくは私に直接言ってもらっても構いません。
これからもまた、様々な変更・令を発すると思いますが、皆さんの協力があってこそ、この国が維
持できるのです。
これからも皆さんの協力を心に刻み、勤めに励もうと思います。
センタリック王子』
その文面はとても綺麗で、いかにも『しっかりした学びを受けている人』という印象。
そして、この貼り紙が決して『偽り』ではない事は、今の現状が証明している。
同時に感じとれる、王都内の不穏な様子。民の不満は、もう既に城内へ影響を与えていた。
だが、もしこの文章に
『何事もなく平和な日々が、これからも続き』
・・・なんて書かれていたら、速攻で疑う。それこそ『偽り』だ。
ある意味『正直』 ある意味『嘘偽りのない』その張り紙を見て、翠達はようやく胸を撫で下ろす。
翠たちは知らなかったがが、皆が里で色々と準備をしている最中にも、王都の荒れ具合は加速する
一方だった。
もう貴族や王族が城以外に出歩く事もなくなり、その代わりに民が直々に、城へ『殴り込み』をする事件が幾度も発生。
王都の住民の不満は、『爆発寸前』なんてものではない。既に実害が出ている。
その対処に追われ、兵士界隈も相当大変そうだ。
それが殉職者リストに現れているのかは、まだはっきりしないが。
そもそも『殉職した理由』が『自分の意志』なのか、『やむを得ず』なのか、それとも・・・・・
どちらにしても、国土全体の混乱が激化した事で、国の重鎮もいよいよ本腰を入れている様子。
だが、どんな対策を講じても、なかなか上手くいかない様子。
幸いにも、まだ国としての形が保たれている。だがそれも、いつまで保つか分からない。
些細な出来事がきっかけで、国一つが崩壊したり、激変したりする話は、旧世界でもよくある話。
翠は急に怖くなり、全身を震わせた。
今まで平和で穏やかで、治安も良い国で育ってきた翠にとって、『国家崩壊』なんて『歴史の1ページ』にしか思っていなかった。
日本でも、よく『デモ』は起きていたが、それが『国の存続』に関わるような事にはならない。
だが他国では、デモなんてレベルじゃない暴動が起きているのは、ニュースでよく見ていた翠。
国をまとめるリーダも大事だが、やはりその国に住んでいる人々がいてこそ、国は『国』として成
り立つ。
だから、国民が不満の不満が大噴火を起こせば、当然王も国も関係なく、暴動が起きる。
国民が不満を抱けば、不遇な扱いを受ければ、国の存命よりも自分たちの命を優先する。
それは、至って当然の流れ。
だからこそ国王は、国に住む人々に寄り添う。それが王としての『最低限の務め』
時にはそれが仇となってしまう事もあるが、結局国の存命を決めるのは王ではなく、国に住む人々。
この国で起きている問題は果たして何なのか。『お金』『モンスターと人間の格差』『貧富の差』
浮かべていくだけではキリがない。
それくらい、『国の維持』の難しさが、たった一枚の紙から想像できる。
どんなに小さな問題でも、その問題が大きくなればなる程、誰も責任を背負えないし追求しようと
もしない。
それが結果的に、『最悪な結末』を生んでしまう事を、誰もが承知しているにも関わらず。
それが分かっても尚、無視を貫いたその代償は、『働き方』にも影響が出ていた。
だからこそ、誰も何も言えないのかもしれない。
横行をしたのは偽・王家だが、それを止めなかった周囲にも、責任が無いわけではない。
(そういえば、私が前に住んでいた世界でも、『働き方改革』とかあったな・・・
でもあれ、実際にどうなんだろう?
まだ私、バイトもした事なかったからなぁ・・・・・
ネット上では、
「『就労時間』が減っても、『仕事量』が減るわけでもないから、よく分からない」とか
「『残業代』は助かるのに、それがなくなったら生活が維持できない」とか
賛否両論だったんだよね。
___まぁ、世の中ってそうゆうものなのかな。
『支持する人間』もいれば、『支持しない人間』もいる。
コレの場合、どうなんだろう・・・・・??)