170・地下道に再来
真下は真っ暗闇がつづく空洞だが、ドアを開けたラーコの足元には『杭』が打ち込まれている。
そして、杭に結ばれているのは、若干古いがギッチリと縄が結ばれていた。
つまり、翠が初めて地下通路を見つけた時のような『井戸』と同じ構造。
試しにラーコが、そこら辺にあった石を穴のなかに落としてみる。
石は真っ暗な闇の中へ落ちていき、しばらくすると穴の奥から『カツン・・・』という乾いた音が聞こえた。
そ聞こえてきたのはその音だけで、奥から人の声も、足音も聞こえない。
どんなに足音をたてないように移動したとしても、縦穴の構造上、誰かが穴の底で動いたら、絶対音が反響する。
だが、石を落として何の反応もなかったことから、穴の奥を警備している兵士はいない様子。
翠達は安心して、次のステップに踏み込んだ。
地下通路への侵入。ラーコとグルオフにとっては、『里帰り』になるのかもしれない。
「よし・・・・・ミドリ、次は任せた。」
「了解っ!」
翠はランプを腰に巻きつけ、先頭で降りていく。
その間にクレン達は、持ってきた『縄ばしご』の設置にとりかかる。
出入り口がどんな状態になっているのか分からなかった為、一応持ってきたのだ。
古くなった縄一本で全員が降りるのはちょっと心許ない為、持ってきて正解だった。
穴自体は割と広く、スルスルと下まで降りていく翠。
そして、底が見えかけたと同時に、翠は持ってきた石を投げて反応を確認する。
だが先程と同じく、石は地面に落ち、その乾いた音しか響かない。
翠がゆっくりと地面に足をつき、辺りを見渡すと、ちょっと広い通路が一本しかない。
翠は地上にいるクレン達に、降りてきても大丈夫な事を伝えるため、石を2つ持って、それを拍手
のようにぶつけ合わせて合図を送る。
すると上から、縄梯子が落ちてくる。そして、ゾロゾロとクレン達が降り始めた。
翠はその間、通路の奥の様子を伺う。
一本道は王都の周りをグルグル回るような構造になっていたが、長年その地下通路で生活していたラーコやグルオフの目は誤魔化せない。
「___やっぱり、この壁『偽物』だ。」
ラーコが一部の壁をゆっくりと横に引くと、奥からまた通路が見える。
そんな仕掛けがあちこちにある為、翠達も慎重に通路を探っていた。
『罠』などは無いが、油断していると同じ場所をグルグルしそうな構造。
偽・王家がこの地下道を再利用したのも頷ける。
素人がこの地下通路で迷ったら、地上に戻れないかもしれない。
この通路に慣れているラーコやグルオフでも、時折立ち止まっては悪戦苦闘している。
夜までに城へ行けるか心配だったが、2人が見知った場所に来れば、もうこっちのもの。
火災でだいぶ外観が変わってしまったが、あちこちの壁や天井に残されている『暗号』はまだ健在
していた。
暗号が刻まれた場所の『地上』に何があるのか、『市場』や『図書館』など、細かく分かりにくい場所に刻まれている。
その暗号と、持ってきた王都内の地図を照らし合わせ、地下道を進む翠達。
まだ焦げ臭い臭いが漂っているが、あの火災が嘘のように、地下道はまだまだ使えそうだった。
この場所に初めて来たザクロは、その立派な構造に感心していた。
里では、『レンガ』はほぼ使わていない為、余計に珍しく感じるのだろう。
試しに翠が、「里に帰ったらレンガを沢山作ってみる?」と、ザクロに提案する。
するとザクロは、彼女が思っている以上に食いついた。
確かに、『木の壁』と『レンガの壁』では、明らかに強度や質感が違う。
冬が厳しい里では、レンガ造りの家が、革命をもたらすのかもしれない。
里のなかで一番大きな建造物である城壁も、レンガを用いれば作り直せる。
せっかく王都に来たザクロだが、裏の裏からコソコソと侵入している為、彼はまだ王都がどんな場
所なのか全然把握していない。
それでも、ザクロにとっては初めて見るもの、初めて触れるものばかり。
薄暗い地下通路のなかで、ザクロの目はキラキラと輝いていた。
確かにこの地下道の技術は、旧世界の技術を知る翠でも、かなり見応えがある。
子供の頃に憧れた『隠し通路』や『隠し部屋』も、ここまで規模が大きくなれば、誰でも夢中にな
るものだ。
この地下道を作った人材がもういないのが、非常に惜しい。
これほどの技術を、里にも流用したいザクロの気持ちは、翠にも分かる。
だが、現実問題、そう上手くいくか分からない。でもやってみたい。
そんなザクロの気持ちは、翠達にもよく分かる。
翠の経験で例えるなら、『ボスよりLvが低くても、挑みたい気持ち』に似ている。
「えーっと・・・確かこの床下を・・・」
ラーコが徐にしゃがみ込み、行き止まりになっている床の一部を押す。
すると、床がスライドして、下にもう一つの通路が現れる。
これにはザクロも、その作りが気になって、スライドした床をじっくり観察していた。
だが、今はそれどころではない。地下道の探検なら、事が済めばいくらでもできる。
だが、仕掛けはそれだけではなかった。
やはり城に繋がる道には、色々と手が混んでいる仕掛けがいくつもある。
壁を捻ったり、壁を持ち上げたり、かと思えば、道がある場所が『ハリボテ』だったり。
あれやこれやと仕掛けに感動しているザクロでも、数多の罠の数々に、頭をかかえる。