169・いよいよ『最後の目的地』へ
「よし、ライトの準備も完了、武器の準備も完了。
あとは向かうだけ!!!」
その日は丁度、月も星も見えない 『闇夜』まさに、『奇襲』を仕掛けるには丁度いい夜である。
ここまで自分達にとって良い状況が続いているうちに、偽・王家を勢いに任せて倒してしまいたい。
だが、そう上手くいかなそうなのは、翠達全員が察している。
何より相手は、何を企んでいるのか、何を仕掛けているのか、謎に満ちている。
自分達より『財政』も『権力』もある。そんな相手と対峙するのは、誰だって勇気がいる。
今までの経験で、偽・王家の思考は何となく読めるのだが、それでもまだ分からない事が多い。
それが余計に、翠達の不安を募らせる。
だが、今更相手がどんな弁解をしても、何か考えがあったとしても。到底理解できないのは予想で
きる。
それを翠達は、既に察している。いや、『諦め』である。
どんな事情があるにしても、この横行は許せない。
どんな弁解も、踏み荒らされた町や村に言ったところで、元通りになるわけでもない。
そんな横行に、どんなに綺麗な言い訳を並べたところで、全く無意味だ。
「とりあえず、私達の役目は、『偽・王家』の拘束だよね。それから先はグルオフに任せるね。」
「何だか汚れ仕事ばかり任せている感じで、申し訳ないです。」
「いやいや、こうゆうところは私達の仕事だから。
むしろグルオフの手を汚すわけにはいかない。」
『グルオフの同行』に関しては、遠征直前まで少しもめた。
というのも、彼を『どこまで』連れて行くかが、争点となった。
『王都の前』までか、『隠し通路』までか、『城』までか。
だが本人が、「偽・王家と直接顔を合わせたい」と言い張る為、最初から最後まで同行する事に。
(それも正当なる王家故なのかな・・・・・)
ライトは隠し扉を抜けたら使う。外で使うと、見張りをしている兵士に見られる可能性がある。
遠距離からの確認にはなるが、夜の警備も怠っていない様子で、門には昼間と同様、兵士が数名番をしていた。
最初の第一関門は、やはり兵士たちに気づかれないように、隠し通路の出入り口を目指す。
闇夜に身を潜めながら、足音を立てないように。
特に、『武器』と『硬い物』がぶつかった時の小さな音でも、無音の高原ではよく響く。
ラーコを先頭に、『縦繋がり』で移動する翠達。
外には翠達以外、誰もいない。夜行性の動物ですら、王都に近づかない。
旅人の1人も見かけない、寂しい夜。
唯一この夜を楽しんでいるのは、周辺に生えている背の高い草である。
静かな風に揺られながら、まるで踊るようにゆらめいていた。
その草原のゆらめきに合わせ、体の向きや高さを調整翠達は、時折自分達が滑稽に思えてしまう。
だが、本人達は至って真剣である。この国の根底に関わる事だから。
ゆっくりゆっくり移動して、確実に目的地へ向かう翠達。
それだけで心臓が張り裂けそうなほど緊張するが、緊張している最中でも、互いに手を繋ぎ合っていると、不思議と緊張も楽しく思えてしまう。
隊列は
ラーコ・グルオフ・クレン・リータ・その他の遠征組・翠・最後はザクロ
の順番。
いつもならほんの数分で着ける距離も、今日だけは小股でゆっくりと歩く翠達。
途中で横切る虫が、今は一番厄介だ。ぶつかってくるし、しつこい。
リータが顔面にぶつかってくる虫に倒れそうになったが、前にいたクレンが引っ張ってくれた為、
事なきを得た。
こんな場所で転んで兵士に見つかってしまっては、笑い話にならない。
「_____あ、あったあった。」
ラーコが小声で、地下通路への出入り口を見つけた事を、後ろにいるグルオフに知らせる。
そしてまた、グルオフが後ろにいるクレンに報告。
迂闊に声も出せない為、状況報告も『伝言』でするしかない。
だが、ようやくこのチマチマした移動が終わる事に、皆の気持ちはつい先走ってしまう。
ラーコが念の為、その出入り口を確認するが、見張りをする兵士の姿はない。
クレンとリータは、出入り口周辺も見渡したが、やはり兵士の姿はない。
出入り口周辺は、年月が経過して朽ちた廃墟跡。確かに、こんな場所に立ち入る人なんていない。
此処は王都の『外側』 何があっても助けてくれる人は都合よく現れない。
辺りの廃墟は倒壊寸前。コツンと突くだけでガラガラと壊れてしまいそう。
下敷きになったらひとたまりもないだろう。
雰囲気も怖いが、崩壊も怖い。それが、この場所が人から遠ざけられている理由。
周囲に苔が生え、壊れかけた柱を踏んだだけで、棘が足に刺さりそう。
周囲に散らばっている廃墟の残骸も、余計に恐怖心を煽る。荒らされたドロップ町よりも酷い有様。
此処にはかつて小さな村があったのか、それとも王都の一部だったのか。
それはラーコにも分からなかった、だが出入り口を隠すにはもってこいの場所である。
出入り口は、『半壊した家のドア』
押すだけで家の壁ごと倒れそうだが、ドアも壁もしっかり根を張っている。
埃だらけになったドアをラーコが押すと、その先にあったのは『壁』
後ろで見ていたグルオフが首を傾げると、ラーコは真下を指差す。