168・目前と予兆
王都に一番近い村に無理を言って、荷物を置かせてもらった。
その村も最初は、あまり翠達を受け入れたくなさそうだったが、グルオフが事情を説明すると、快く聞き入れてくれた。
それどころか、グルオフの話を、村人全員がすんなり受け入れてくれた事に、翠達は驚いた。
偽・王都の評判が底辺なのもあるが、何よりグルオフの優しくも力強い姿勢に、村人達も一目惚れ。
話を聞くだけで、彼が『本物の王家』である事が、王家となんの接点もない村人でも分かるのだ。
グルオフの強さは、ある意味翠達を凌駕していた。
「姉さん、その・・・地下通路に通じる『隠し扉』って、何処?」
「えーっと・・・・・確か西の方角・・・・・
ザクロー! そこから右に回れるー?」
「右? よい・・・しょ・・・っと。」
「違う違う、そっち左だって! 反対!」
「姉さん達! なるべく大きな声は・・・!!」
クレン・ラーコ・ザクロの3人が方向を確認している最中、翠とリータは、武器を点検する。
王都へ討ち入りするのに必要なのは武器だけで十分。
どれと同時に、翠達にとって武器とは、自分の『半身』
武器を扱う側の技量も大事だが、やはり武器自体もしっかり手入れしないと、真・覚者の名が廃る。
「___ねぇ、ミドリさん。」
「どうしたの?」
「もし、兵士と鉢合わせしたら、『命を取るべき』??」
「うーん・・・・・
後々のことを考えると、命を奪う手段は、あまりお勧めできないかも。
ただ万が一、こっちの話が通じなかったり、偽・王家に報告されそうになった時は・・・・・
もちろん、私も相応の覚悟はしているわ。もし『その時』になったら、私を呼んでよ。」
「いえいえ、そこまでさせられませんよ。僕も、もうその覚悟はできていますよ。
町をあれだけ踏み荒らした兵士達に手緩くしてしまっては、兄達が不憫で・・・・・」
「気持ちは分かるけどさ。『お兄さんとの今後』も、しっかり考えてね。」
「___『今後』か。」
リータは綺麗に磨きあげた剣を王都に向け、振り下ろす。
その顔は、笑っているようで、笑っていない。彼の内秘められた怒りが、まだ煮えたぎっている。
ある意味、キレると色々と大変なことになるのは、翠でもなくザクロでもなく、リータなのかもし
れない。
『優しい人ほど、キレると怖い』というが、今回の場合、リータ達を怒らせた偽・王都の責任。
私達だけではなく、偽・王都がこの国の民全員から恨みを買われても、誰も同情はできない。
ここまで他者から恨まれるような事をしても、他人事でいられる偽・王家の神経が、一周回って羨ましく感じる翠。
「よっこい・・・しょ。」
バサァッと、勢いよく木から降りてきたザクロの頭に乗っている葉っぱを、翠が取ってあげる。
どうやら地下へ続く道を見つける事ができた様子。
「どうする? 今行く?」
「いや、ザクロさん。真っ昼間に行くより、夜の方が身を隠せます。」
「もうすぐ夕方か・・・・・俺も準備しなきゃな。」
「私とリータは、もう武器の準備も終わってるから、見張りしておくね。」
数日前とは違い、リータのメンタルはだいぶ落ち着いた様子。
まだ怒ってはいるものの、冷静さは戻っている。やっぱりこうゆう時、冷静さを欠いてはいけない。
やはり、利確にいる人が落ち着かないと、周囲も落ち着かないものである。
「__________」
「___王都が相変わらずなのは、ちょっと腹立たしいけど。
まぁ・・・王都に住んでいる人が一番、偽・王家に振り回されている事を踏まえると、少しだけ安
心するよね。」
「__________」
「_____リータ?」
「_____え??
__________あぁ、いや。
なんかさ、さっきから王都の周りを見ているんだけど・・・・・
『野生動物』がやけに少ないよね。」
「__________そういえば、確かに。」
王都の周りは、自然豊かな高原が広がっていた。どこまでも続く高原は、風に靡いて波をつくる。
『昼間の王都前』を見るのは、これで2回目。
何度もこの光景を見ているのなら、すぐ違和感に気付けたのしれない。
だが、この高原を見たのが2回目の翠やリータでも、その違和感は顕著に見られた。
翠とリータは、頑張って高原を見渡したが、地上はおろか、空にも、『動物』の影すら見当たら
ない。
空は晴れ模様。こんな良い天気の日は、動物も忙しなく動いている筈。
リータに言われるまで、翠は全然分からなかったが、確かにおかしいくらい動物の気配がない。
試しに翠が、近くに生えている木の上に登ってみる。
だが、『鳥の巣・卵』はあっても、肝心の『家の主(鳥)』が全然来ない。
親に温められない卵達は、風に煽られ震えている。何だか寂しい光景。
(___そういえば、何かのテレビで言ってたっけ。
動物は人間では感じ取れない、『目に見えない存在・パワー』を感じ取れる
災害が起きる前には、必ず動物達の挙動がおかしくなる。
だから動物の様子がおかしかったら、注意したほうがいい
って。
__________まさか、そんな・・・・・ね。)
翠は、一気に『嫌な予感』を感じて、すぐさまグルオフの元へと戻った。