18・味方と捉えるか 働き手と捉えるか
「・・・・・なんか・・・初めてです・・・」
「何が?」
「・・・色々と・・・です。」
まだ出会ってから1日も経っていない、翠とリン。だが、既に2人の絆は、強固なものへと変わっていった。
翠も、心の底では『申し訳なさ』がある。
まだ右も左も分からない自分に、言いたくない事まで親切丁寧に説明してくれたリン。
だが彼のおかげで、翠の心の中に、無意識に『決意』が生まれ始める。
それは、途方もない『野心』なのかもしれない。
国一つの常識を変えるなんて、どんなに偉大で有能な国王だって、できるかどうかも怪しい。
それでも、このまま諦めきれないまま、この世界で生きるなんて、できるわけがなかった。
翠もかつては、リンと同じ、『被害者』という立場だった。
しかし、転生した事により、その地位から脱却して、『傍観者』になれた。
だが、そもそも『人間とモンスターの関係』に、翠は一切関係ない、この世界の住民ではないのだから。
だが、そんな翠だからこそ、できる事もある。
翠は、転生前の中学生時代、夏休みの読書感想文で、とある『自己啓発本』で読んだ時、印象に残っている言葉が、まだ頭の中に残っている。
「問題を解決するのは、双方のどちらかを味方につけても、敵と見做しても、結局は負の連鎖が巡るだけ
。
そんな状況を打開するのは、何も知らない、
『第三者』
そう、敵としての立場でもなければ、味方としての立場にもならない。
『間』に立つ存在がいるか否かで、状況は大きく変わる。」
翠は『人間』ではあるが、別の世界から来た『転生者』でもある。そして、リンのようなモンスターでもない。
だからこそ、翠はリンに手を差し伸べられたのだ。この国の事情やルールを、あまりよく知らないからこそできた事。
リン自身も、翠と過ごす時間に、違和感を感じなくなっている。
ほんの少し前までは、人間に近寄る事すらできなかった。
しかし、もう翠に自分の考えを伝える事も、若干ぎこちないが、できるようになってきた。
「・・・とりあえず・・・村の外でまた、一通りの武器を試して、頑張ってみます。」
「やってみな。できなかったら武器はまた売ればいいし、素材を集めれば2人分の宿代くらい、すぐ手に入るよ。
ぐ手に入るよ。
・・・そういえばさ、私みたいに、モンスターと一緒に旅をする旅人とかもいるの?」
「いますよ、よく村にも出入りしていますから。
特に『モンスターの覚醒者』は、『人間の覚醒者』と同じくらい、重宝されるんです。」
リンは、一通りの武器を詰め込んだ袋を背負う。かなり重いのか、足元がおぼつかない様子。
翠は若干ヒヤヒヤしながら、やる気になっているリンに、声をかける事すらできなかった。
だが、そんな二人に水を差したのは、質屋の主人。
主人は、リンがエルフである事に気づいた様子で、翠に向かってこんな言葉を投げかけた。
「あんたも大変だなぁー、そんなヒョロヒョロのモンスターを引き連れての旅路なんて。
あんたの腕前なら、一人でも平気だろ?
なのに、そんなガキの為に色々と準備とかするなんて、あんたも『変わり者』だねぇ。
気が知れないよぉ。」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・ミドリさん?」
リンは質屋の店主に、そんな事を言われても平気な様子。
・・・いや、平気な顔ではない。「そうですよね」とでも言っているような顔。
だが、そんなリンの顔は、結果的に翠の精神を逆撫でする。
質屋の主人の言葉にもカチンときたが、全く動じていないリンにも苛立つ翠。
皮肉混じりで、何の考えもない言葉であっても、翠の心は卸金で削られたような感覚に襲われていた。
そんな翠が、質屋の主人に対して言い放った言葉は・・・・・
「・・・・・でしょ?
だから私が、彼をどう育てようが勝手なのよ。
『覚醒者』にさせようが、『話し相手』にさせようが。
この子は私の大変な旅路に必要なの。
平凡な村で、質屋を切り盛りしている貴方には、旅の辛さが分からないでしょうけど。」
質屋の主人は、思わず唖然としてしまう。
発言の内容にも驚いたが、彼女の清々しい顔にも、唖然としてしまう。
まるで、「してやったり」と言わんばかりの笑顔。質屋の主人に、手出しなんて一切していないのに。
皮肉混じりの言葉に、そんな清々しい言葉で返されては、質屋の主人でも、何も言い返せなかった。
そして、唖然としているのは店屋の主人だけではない。
リンも、荷物の重さなんて忘れ、ただただ翠に見惚れていた。
「しっ、失礼なっ!!」と、質屋の主人は言いかけた。しかし何故か、言葉にならなかったのだ。
翠のあの表情と発言には、今までにない衝撃があった。それは、質屋の周りにいた人々も、同じである。