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王子の野望の先(3)

 だが、一般人が覚醒者になる事は至難の業。

王子以外の貴族や王族も、覚醒者になる為、胡散臭い提案に乗る事も珍しくない。

 しかし、『民』が覚醒者を目指す理由と、『貴族・王族』が覚醒者を目指す理由は違う。


 民が覚醒者を目指すのは、大概は今よりも高い地位につき、今よりも高い『収入』や『地位』を得

 るため。

『覚醒者』という称号さえあれば、衣食住に不自由しない。その分危険も伴うが。


 だが、民よ里も明らかに収入や地位が高い貴族達が覚醒者に憧れる理由。

それは、単なる『ステータス』や『暇潰し』である。

 お金を持てば持つほど、暇とは恐ろしい存在。

いつも仕事に追われる民にとって、暇は『この上ない幸せ』なのだが・・・


 そんな貴族達の暇を埋め合わせてくれるのは、『未知なる存在の究明』

多くの人間を派遣できる立場だからこそ、庶民では手に入らないような資料を手に入れることができる立場だからこそ、より踏み込んだ研究に没頭できる。


 センタリック王子も、そんな貴族や王族を、幼い頃から見てきた。

そして、覚醒者がどれほど素晴らしい存在なのかも、両親から散々聞かされていた。

 様々な絵本や文献に、覚醒者は『世界を救うヒーロー』のように描かれている。

子供の頃に、そんなヒーローに憧れを持つのは、ほぼ自然の流れ。


 だが、センタリック王子の場合、そんな『憧れていた存在』に対する執着が凄まじい。

普通、『子供の頃の夢』というのは、大人になるにつれ、徐々に忘れていくものである。

 現実の厳しさや、理想と現実のギャップで苦悩するのも、ある意味『大人になるステップ』

しかし、それでもセンタリック王子は、諦めきれなかった。


 それは、子供の頃からずっと憧れていた存在だから


 ・・・・・だけではない。


 自分達が今居る立場が、『努力』や『功績』によって積み上げられたものではなく、『欲』や『野

 望』に塗れている事を知ったその時。

彼は、『正真正銘のヒーロー』になる為、人として踏み込んではいけないところに立ち入った。


 王座なんて引き継がなくても構わない、『偽物の王座』なんて、自分ではない人間でも座れる。

彼は、『次世代の王座』を捨ててまで、覚醒者(正真正銘のヒーロー)を目指した。

 そう、彼の両親が犯してしまった大罪は、息子であるセンタリック王子の心を歪めてしまった。


 彼の両親は、汚いやり方で王座を手に入れた事に、何の後悔も躊躇いもなかった。

それがますます、彼の心を蝕んでいたのだ。

 だからこそ、彼の憧れは一向に光を失わない。

良い意味でも捉えられるが、彼の場合は、その熱量が常人を超えていた。




 両親が肩身の狭い思いをしている最中、センタリック王子は、覚醒者についての資料を漁り回って

 いた。

それこそ、城に残された貴重な資料だけではなく、他国から資料を大金で手に入れる事もしばしば。

 

 そのお金は全て、民に負担させて、あたかも『国の為の税金』として使っているアピールも、平然

 と涼しい顔で行っていた。

一つの資料に数百万という大金を費やしても、彼は目標の為に何でも捧げる。


 そしてセンタリック王子は、今まで使われていなかったこの地下部屋を、自分の『覚醒者研究室』

 に、たった1人で仕上げた。

研究する為の道具は既に部屋に保管されていた為、彼は『資料』や『材料』を、少しずつこの場所に運んで、研究に熱中していた。


 何故、それを1人で全て済ませたのか、それは技術を他人に漏らさない為・・・・・ではない。


 王子の覚醒者への憧れは人一倍強い。

生半可な気持ちで研究に参加する人間はいらない、あくまで一生を捧げられるくらい、本気で王子は研究している。


 王都以外の場所でも、覚醒者に関する研究は行われている。

しかし、そのどれもこれもが、『単なる暇潰し』や『雑談会』になっている。


 一般の民が覚醒者に憧れる熱は本物なのだが、その方法のどれもこれも、信憑性のない『ガセネ

 タ』ばかり

貴族や王族とは違い、民は入手できる資料に限りがある為、噂に現実味がなく、『誰でもなれる』という触れ込みが多いのだ。


 一方、一般の民とは違い、本格的な資料や材料が安易に手に入る貴族や王族はというと、研究自体

 は『単なる暇潰し』

貴族や王族にとって、『暇』とは最も恐ろしい存在。


 それが潰せるなら、どんなに怪しい事にも手を伸ばしてしまう。

信憑性や危険性はともかく、そうゆう事柄に手を出すのは、ある意味『肝試し』と似ている。

 『スリル』というのは、暇潰しにもってこいなのだ。


 王子も研究を始めた当初は、城内で覚醒者の研究をしている、魔術師達と協力しようとしていた。

だが、その研究会の緩い空気と研究に嫌気がさし、結局は王子1人で、自らの気が済むまで研究に没頭する事に。


 その没頭加減は、旧世界の『廃人』とほぼ変わりない。

研究の為なら出費は惜しまず、非道な行いにも平気で手を出す。

 もはや加減を忘れてしまうのは、抜け出すのも不可能なことを暗示している。

彼はもう取り返しのつかないところまで、手を染めているのだ。


 一人きりの世界に入り込むと、歯止めが効かなくなる。

数日間、彼が研究部屋から出てこない時には、城の使用人全員が王子を探し回った。


 彼は、なるべく人目につかない時間帯に、その部屋を出入りしている為、姿が見えないくなった頃

 にはもう大騒ぎ。

だが、数日経てばケロッとした顔で帰ってくる。


 彼は決して、周りに何も言わずに姿をくらますわけではない。

「あちこちの町・村へ直接行って、現状をその目で確かめてくる。」

「貿易拠点で、普段重労働に勤しんでいるモンスター達へ、労いの言葉をかけに行くよ。」

「捕縛された民の元へ、事情を聞きに行ってくるから。」


 もちろん、その言葉は全て嘘なのだが、周りは誰も王子を疑わない為、彼の言う嘘はほぼ全て受け

 入れられてしまう。

「護衛が沢山いると、周囲が緊張するから、1人で行ってくるよ」という言葉も、周囲はすんなり受け入れてしまう。


 実際、王子は国のあちこちにある村や町に行った事もなければ、王都内にある貿易拠点に顔を出し

 たことすらない。

『被験者』を探すために、地下牢へ赴いた事もあるが、被験者以外の囚人とは、言葉も交わさない。

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