王子の野望の先(2)
王子は、その世界にずっと憧れていた。その世界へ向かう為、何日も、何年もの月日を費やした。
そして彼は、いつの間にかその立場を利用して、調べるだけではなく、研究にも精を出す。
まだ翠がこの世界に来る前、この国では『覚醒者の行方不明事件』が、至る所で度々発生していた
のだ。
まだ当時はそこまで国が荒れていなかった為、単なる事件の一つとして、深く取り調べる事もなかっただけで、ちゃんと『記録』もある。
しかし、王子は自分の夢が現実味を帯びてくると、居ても立ってもいられなくなった。
そして、倫理観を制御する歯止めが効かなくなり、暴挙へ走った。
それでもまだ、王子に疑いの目が向かないのは、まさに奇跡である。
逆に両親の立場はどんどん悪くなり、日々衰弱している王や妃を見ても、息子は何も思わない。
王子がこんな思想に育ってしまったのは、親である王や妃にも責任があった。
だから両親揃って、息子に口出しできないのだ。そうゆう環境に育ててしまったから。
そもそも『今の王家(偽・王家)』は、『貴族』ですらなかった。
しかし、戦場で多くの活躍を見せたことで、貴族や王族から、『用心棒』として気に入られた。
時が経ち、国としての基盤がしっかりした頃になると、一族の武術の腕前は堕ち、代わりに野心が
伸びていく。
そうして、センタリック王子が生まれた頃には、親が王座に堂々と座っていた。
だが、センタリック王子は、自分達が『本物の王家』ではない事に気づいている。
その発端は、本当に些細な『口滑り』だった。
王座の横取りに協力した貴族の口から漏れたその言葉は、王子の暴挙を更に加速させる要因となっ
てしまった。
今まで自分を『本物の王家』だと本気で信じていたが、その地位が、両親の『汚い欲』そのものである事は、息子であるセンタリック王子には耐えられないものだった。
彼はその話を聞くまで、この国に尽くす気満々だった。
この国の代表として、難しい勉強も率先して取り組んでいた。
だが、頑張っていたのは王子だけであったのも、後々になって気づいてしまった。
王座に座る両親の姿は、息子であるセンタリック王子が見ても、とてもじゃないが『王家』とは呼
べなかった。
彼の目に映る両親は、まるで『形だけの権力を振るう豚』
自分を散々甘やかしていたのは、自分を立派な王子にする為か、それとも王家の人間としてのノウ
ハウが皆無だからなのか。
権力だけ手に入れて満足したまま、仕事をまるでしない両親の生活が、成長していくセンタリック王子を苦しめていた。
そんな息子の気持ちなんてつゆ知らず、両親はありとあらゆるお金と権力を、息子の為に注ぐ。
ただ家臣やお手伝いに命令すれば、周りが全部実行に移してくれる。
甘やかされている王子を見ながら、満足している王と妃。
それを『親からの愛情』と呼べるのか、センタリック王子はずっと悩み続けていた。
しかし、真実を知った王子は、今までのあらゆる悩みから解放され、自分自身を持つことができた
のだ。
決して『良い意味』ではないのだが・・・
もう両親に気を遣わなくていい、その必要すらないくらい、両親は落ちぶれているのだから。
今の王座は、偽りと欲だらけの汚れた王座。そんな場所に座る自分も、汚れている。
なら、もう何も我慢なんて必要ない。
どうせ今更全てが崩壊したところで、自分達は破滅する結末しか迎えられないのだから。
もし破滅するなら、せめて『自分の野望』の一つくらいは叶えたい。
その為なら、もう両親を使っても構わない。これが両親への『罰』
そう思い立った王子は、実の両親に対して、こんな言葉を言いはなった。
「もし僕の言うことを聞いてくれなかったら、この事実を国全体にばら撒くよ。」
もちろん両親は動揺した。そんなことをすれば、タダでは済まない。
何故なら王子が生まれる前から、2人は国の財産を使い、贅沢の限りを楽しみ尽くした。
いたずらに人を泣かせ、傷つけた事もあれば、都合の悪い貴族や民を、国外へ追いやった事も。
事実が暴露された暁には、今まで溜まっていた国民の不満が、一気に2人へ向けられる事になる。
そうなれば、存命に関わる大事件に発展するかもしれない。
もう武器すら握れなくなった王にとって、周囲で守ってくれる王族や兵士のみが頼りなのだ。
だが、彼らからの信頼を失ってしまえば、破滅はほぼ間違いない。
しかし、それは王子も同じである筈。
彼だって、せっかく積み上げてきた民からの信頼を、失いたくない気持ちはある。
だが、そんな気持ちより、彼は自分の野心を優先する。それくらい彼は、幼い頃から憧れていた。
『覚醒者』に。