165・騒動の犠牲者
翠も『間接的』ではあるが、偽・王家の被害者である。
もし、翠もあの森に残り続けていたら、見事に『39名 全滅』という結末になっていたかも。
そうなれば、グルオフは反旗を翻すチャンスを失い、この国は緩やかに破滅の道を歩んでいた。
儀式を実行した側としても、それは『最悪の結末』だっただろう。
翠にとっては『黒歴史の元凶』でもあるクラスメイトではあるが、心配ではあった。
顔はあわせたくないが、無事だけ確認できれば、それだけでいい。
だが、転生した当初の翠と同じく、世界を疑わない彼らなら、偽・王家の誘惑にひっかかる可能性
は高い。
それが、偽・王家が下した『覚醒者狩り』に、どう繋がってくるのかは、まだ分からないが。
翠は別に、『敵討ち』をする為に、王都へむかっているわけではない。
だが、『救える可能性』があるのなら、そっちにも目を向けたいだけ。
「___でもさ、ザクロ。不思議だよね。」
「??」
「どうして、『当たらないでほしい不安』って、十中八九、当たってしまうんだろう・・・」
「それは・・・・・
『否定したいから』・・・・・かな?」
「__________そうかもね。
さぁーってっと!! もう寝る準備もできたみたいだし、そろそろご飯の調達に行こーう!!」
突然森のほうに駆けだした翠と、それを追いかけるザクロ。
グルオフは、彼女の心境を察して、しばらくその場から動けなかった。
彼女がこの儀式を好ましく思っていないのは、ある意味『運』の問題なのかもしれない。
翠は運が良かった、だからここまで、トントン拍子で歩めた。
だが逆に考えれば、翠に運がなかったら、偽・王家の餌食になっていたかもしれない。
儀式を実行した側は、真剣にこの国を思っての、『最後のチャンス』だった。
だが、この世界に転生した翠側からすれば、それはあまりにも、荷が重すぎる話。
しかも、彼らの願いである、『正当な王家の復活』が、必ず成功するとも限らない。
それこそ、『全滅』も十分にありえた未来。
クラスメイト達が、もし自分達が転生した事実を知ったら、どんな反応をするのか。
翠には、大体想像できる。まず、第一声にこう言うだろう。
『どうして私達なの?!』
と。
翠も当初は、(この国では、色んな人に囲まれて、幸せに生きられればいいなー)としか思っていな
かった。
まさか自分が、そんな大きな役目を背負わされている・・・なんて、転生した直後に説明されたと
しても、納得できない。
この国の危機に納得できたのは、実際の現状を自分の目で確認してからだった。
ある意味、『子は親を選べない』という言葉と、同じ意味なのかもしれない。
翠やクラスメイトは、転生する世界を選べない。そもそも転生させてもらえるのかも分からない。
儀式を実行する側も、人を選べない。
もし選べたのだとしたら、もっと屈強で、精神力のある人間を転生させたであろう。
翠がここまで成長できたのも、『運』のおかげである。
その運をしっかり掴んで離さなかったのは、翠本人なのだが。
翠は、願わずにはいられなかったのだ。
これ以上、グルオフや自分のような、
『歴史に振り回される犠牲者』
が増えませんように・・・・・と。
それは、もしかしたら無理な話なのかもしれない。
だが、振り回される側からすれば、たまったものじゃないのだ。
だが、もう今回のように、『無関係な被害』に遭うのは懲り懲りだった。
何故問題というのは、全く無関係な存在に、災難を振りまくのか。
何故、何も知らない人間やモンスターに、無関係な災難が襲うのか。
その原理が分かれば、誰も苦労しないのだが、そんな簡単な問題ではない。
旧世界でも、『政治家』が問題を起こせば、一番被害を被るのは『国民』
当の本人は、その被害について、そこまで詳しく知らない。
『問題を起こす側』と、『問題によって被害を被る側』の摩擦は、どの世界でも情勢を悪化させる。
「__________」
「___グルオフ? どうしたの?」
汚い布を頭の上に乗っけて、考え込むグルオフに話しかけるラーコ。
もうこの布は使えない為、刻んで『火種』にする事に。
「___いや、改めて、ミドリはすごいなぁ・・・・・ってね。」
「???」
その後、翠とザクロは木の実を沢山抱えて帰ってきた。
2人は木の上を飛び移りながら、鳥の卵も拝借。
ザクロのボサボサになった頭は、鳥にやられた跡。
鳥との決着は結局決まらなかった様子で、帰ってきたザクロは苦い顔をしていた。
翠はというと、その光景を、ただただ眺めていた。