163・最後の術(すべ)
「恐らく、この国は遅かれ早かれ崩壊する。
全ては、彼らの悪意や企みを暴けなかった我らの責任。
国王となったコンゴゥ一族は、彼らの企みを知りつつも、生かしていた。
「その思考を、別のことに活かせるようになるかもしれない」と。
だが、それがいけなかった。彼らの思考は、コンゴゥ一族が思うほど、純粋ではなかった。
ただ単に
人を従わせたい、誰かの上に立ちたい、この国で一番の存在になりたい
それだけの理由では、王に就けたとしても、国は簡単に滅んでしまう。
___いや、まさにそれが進行している最中なのかもしれない。
コンゴゥ一族は、『アメニュの彼ら』が守る。彼らの忠誠心は、群を抜いている。
だから、残った我々だけでも、どうにか生き延びなければいけない。
___だが、この道中でかなり数が減ってしまった。
散り散りになってしまったが、皆が生き延びてくれているのを祈るばかりである。
そして、我々の希望を、全て背負わせてしまう『転生者』には、謝らなければいけない。
これは我々の問題なのに、無理やり巻き込んでしまうのだから。
だが、かつて見た文献によれば、転生してくる人間は、高確率で『覚醒者』になるそう。
それがどれくらいの確率なのかは、資料だけでは全然わからなかった。
もしそうだとしたら、この国を奪還するのに、ふさわしい『勇者』になってくれる。
だが、結果的に彼らには、とんでもない責任を負ってもらう事になる。
この世界の住民である我らが、情けない事だ。我々はこの国を固めた集団だというのに。
転生者も、この世界を気に入ってくれる事を祈っている。」
慌てて書いたのか、それとも迷っていたのか、文字が妙に乱雑。
全部読めるようになった頃には、もう日が落ちかけていた。
隠し部屋に置かれていたベッドが一列に並べられ、クレン達は夕ご飯の準備を始めている。
そして翠とザクロの後ろで、グルオフも一緒になって手記を覗き見ていた。
翠はその手記を、丁寧に折りたたみ、自分の荷物のなかへ、慎重に入れる。
グルオフが興味を持ったのは、『異世界転生への儀式』
翠も、まさかここまで本格的な儀式をして、自分達がこの世界に呼び出されたとは、思ってもいかなかった。
そして、緑達が見つけたのは、手記だけではない。
大勢で隠し部屋を探索したおかげで、今まで見えてこなかったものが見えてくるようになった。
手記の解読を終えた翠とザクロを、リータが再び隠し部屋に呼んだ。
「2人とも、ちょっと確認したいんだけど・・・・・
この『床の絵』、単なるいたずら書きに見える?」
「__________いや、違う!!
この『魔法陣』って!!!」
リータが見つけたのは、床に描かれた『不思議な模様』
ベッドを次々とどかしていくと見えてきた床。
そこも埃の溜まり場だったのだが、風に吹かれたと同時に、隠れていた床が徐々に姿を表す。
だが床にも、重要な過去の資料が残っていた・・・なんて、最初に見つけたリータもびっくりだ。
「これって・・・間違いなく『魔法陣』ですよ!!」
「グルオフ、分かるの?!」
「えぇ、でもこんな形の魔法陣は、図書館の本にもありませんでした。
___というより、所々に、『この世界ではない文字』みたいなものが書かれているんです。」
グルオフが指さした床。そこに描かれていたのは、『翠だけ』、覚えのある文字
『漢字』だった。
その文字もだいぶ古びてはいるが、辛うじて読める漢字は
『日』『英』『米』『仏』『伊』『和蘭』『希』『中』『韓』
その漢字の羅列に違和感を感じた翠は、しばらく『過去の記憶』を探った。
そう、どこかで見たことがあるのだ。『新聞』や『ニュース』、『世界史の教科書』・・・・・
(__________あっ!!! そうだそうだ!!!
『国の漢字表記』だ!!!
確か・・・・・
『日』は『日本』 『英』は『イギリス』 『米』は『アメリカ』 『仏』は『フランス』
『伊』は『イタリア』 『和蘭』は『オランダ』
『希』は・・・・・確か『ギリシャ』
『希』と『奇』を間違えて、テストで×がついてたっけ・・・
『中』は『中国』 『韓』は『韓国』)
「_____間違いない、この資料に書かれている儀式は本物よ。」
___グルオフ、この儀式のこと、知ってた?」
「いいえ、全く。王都の図書館に、まだ資料が残っているでしょうか?」
グルオフは深く考え込んだ。
だが、翠が気にしているのは、この儀式の資料がどこにあったか・・・ではない。
それも一応、翠も気にはなっているが、彼女が心配しているのは・・・・・
「_____言っておくけど、グルオフ
もうこの儀式には手を出さないでほしいな。」
「_____どうして?」 「_____??」