162・道中に どうしても見せたかったもの
「__________そうか、此処で・・・」
「うん、貴方のご先祖様に、私達が初めて会った場所。」
王都へ向かう道中、翠がザクロを、どうしても連れて行きたい場所があった。
それは、今でもこの国の何処かで頑張っているかもしれない、ザクロの祖先と出会った場所。
かつてコエゼスタンスが隠れ住んでいた、地下の隠し部屋。
離れる前に目印を指しておいた為、すんなり見つける事ができた。
この辺りは翠達が来てから、まだ誰も足を踏み入れていないのか、去った時と全く変わりない。
ザクロが地下をくまなく見て回ると、翠達が発見した物以外にも、色々な物が見つかる。
リザードマン(ザクロ)の目の良さは、『遠距離』だけではなく、『暗闇』でも便利なのだ。
ザクロがせっせと、地下の物を地上に運び出し、翠達が物にびっしり付着している埃を払い落とす。
隠し部屋を見せるタイミングに関しては、翠一行が遠征前に相談していた。
だが、やはり王都へ侵入する『前』の方が、遠征組の士気が上がる。
そう思った翠は、ザクロに王都までのルートのなかに、この隠し部屋を追加したのだ。
ザクロもだが、過去にコエゼスタンスが、コソコソと隠し部屋にいた事なんて、里の住民でも知らない事だった。
そして、本格的に隠し部屋の散策を進めていくと、当時使われていた武器や道具だけではなく
『手記』もポロポロと見つかる。
字がだいぶ読みにくくなっているものの、全員で協力して、徐々に解読を進めていく。
「ザクロのご先祖様が残した手記も、この束のなかにあるんだろうけど、探すのは難しいだろうね。
だって名前すら書かれていない手記もあるんだから。」
「___それでも、大事なものである事に変わりはない。」
「そうね。これらも全部、『遺産』なんだからね。」
隠し部屋にあった荷物を全部外に引っぱり出して、持って行けそうなものは持って行くことに。
だが、さすがに家具までは持っていけない為、此処でもう解体してしまう。
「ねぇねぇ、せっかくなら、今日の夜は外にベッドを置いて、夜空を眺めながら寝ない?
せっかく壊すんなら、せめてもう一度くらい、使ってあげようよ!」
「___まぁ、今はそこまで寒くないから、それでも良いかもしれないけど・・・・・
ミドリらしいな。」
子供のようにはしゃぐ翠を見て、ちょっと呆れたクレンだったが、内心ではナイスアイデアだと思
っていた。
布を一枚敷いた場所で寝るよりは、ボロボロでもベッドの上で寝たほうが安眠できる。
まるで『年越し前の大掃除』を思い出す翠は、ふと『自分の両親』を思い出した。
『あっちの世界(旧世界)』では、どれくらいの時間が経過しているのか。
自分が逝ってから、もう何回忌を迎えたのか。学校では、もう落ち着きを取り戻したのか。
もう両親は、自分の死を受け入れてくれただろうか・・・・・
もうすっかり、旧世界の記憶が遠くなってしまった翠にとって、一体どちらが異世界なのか、時々
わからなくなる。
自分が『転生者』である事も、頭からすっぽ抜ける時がある時も。
(___そういえば、ザクロのご先祖様だよね、私・・・・・私『達』をこの世界に導いたのは。
でも結局、この問題に取り組める転生者は、私だけだったのか・・・
_____まぁ、私も私で、かなりギリギリで生き残れた感じだから、仕方ないか。)
「___リ・・・・・
_ドリ・・・・・
ミドリ!」
「わっ!! ごめんごめん!!
ちょっと考え事してた・・・・・」
「_____ほら、これ。」
そう言って、ザクロが翠に手渡したものは、何の変哲もない、『一枚の手記』
何故彼が、それを自分に手渡したのか、受け取ったばかりの翠には、その意図が分からなかった。
だが、その手記に書かれている、一番大きな文字を読んだ瞬間、翠の瞳孔が開いた。
『異世界から人間を迎える方法』
そう、この手記は、転生に関する『資料』や『儀式』が、かなりざっくりではあるが記録されてい
たのだ。
一体どこでその儀式の方法を知ったのか、偶然発見された儀式なのか、この世界には何度も『転生者』が儀式を経て来ているのか。
色々と疑問が浮かぶ翠だが、まず読んでみないと分からない。
翠は日向でその一枚の資料を、間近でしっかり読む。まるで、小さい字が読めない老人のように。
仕方ないのだ、かなり年月が経っているせいで、書かれている文字がだいぶ薄れている。
大半は、あったであろう『文字の跡』を繋ぎ合わせ、頭の中で文章にしていく。
『儀式の方法・必要な材料』については、専門用語が多くて、ザクロでもちょっとよく分からなか
ったが、翠が目を向けたのはそっちではない。
手記の裏には、『誰かの心境を綴ったメモ』があったのだ。
その内容を読む限り、そのメモの主は、『コエゼスタンスのメンバー』