161・決意を『中指』に
だが、今の翠には、当時のクラスメイト達の心境が、ほんの少しだけ分かるような気がしていた。
何故なら彼女は、グルオフの一員として加われた事を、誇りに思っている。
共にこの国を根本からやり直す、歴史の転機に立ち会えることを、すごく嬉しく思う。
クレン達がそばにいてくれる、だからこの大仕事に、本気で取り組める。
グルオフや、この国の闇も、皆が一緒に抱え、一緒に行動に移す。
そんな仲間がいてくれたから、翠はこうして、立派に皆を引っ張れる。
偽・王家からすれば、単なる『反乱軍』にしか見えなくても、翠達は至って本気である。
あくまで倒す相手は『偽・王家』 この国を滅ぼすわけではない。
やはり、王座に君臨すべきは、グルオフである。
グルオフならこの国を、もっと大きく、もっと立派にしてくれる。
確証はないものの、そんな未来は決して『夢物語』でない事を、翠達は確信している。
だから今は、『反乱軍』という汚名を着せられても構わない。
翠達は、この国の未来を担うグルオフ達のため、武器を手にする。
「___じゃあ、リーダーはザクロかな?」
「__________
嫌だ
と、言いたいけど・・・・・
グルオフが王家に戻るなら、俺も『コエゼスタンスのリーダー』として、一族の為にも返り咲こう
と思う。
祖先の技量がどれ程だったのかは、まだ分からない。
もしかしたら、まだまだなのかもしれない。
でも、俺も祖先のように、多くの人々やモンスターを、導けるような存在になれるかな・・・?」
いつにもなく、不安な言葉を口にするザクロ。だが、彼がそんな事を気にする必要はない。
「大丈夫だよ、私も力になるから。
王家の兵士とも手を組めば、きっと更に大きくなって、コエゼスタンスにも箔がつく!」
「そうですね、そうなったら僕も、コエゼスタンスの活動範囲を、もっともっと広めたいです。」
国中から、人々の支えになるようなモンスターを募集したり、モンスターの教育にも、もっと力を
入れたりして・・・・・」
「ま・・・待って待って!! それ以上は荷が重すぎる!!」
グルオフがあれこれと、コエゼスタンスの将来を妄想して、ザクロは戸惑っていたのもの、喜んで
いる様子。
翠達も満場一致で、ザクロがリーダーになる事に賛成だった。
「じゃあ、『サブリーダー』は、ミドリでいいね?」
「ですよねー・・・・・
まぁ、いいけど。
でも今するべき事は・・・」
そう言って、翠達遠征組だけではなく、滞在組が見すえる先にある場所、それは王都。
そこで全ての決着をつけて、この理不尽な歴史に、幕を下ろさなければいけない。
その重役を果たすのが、かつてこの国を定めたコエゼスタンス、『2代目』
まさにドラマのような展開に、翠はワクワクが止まらない。
遠征組も、一斉に指輪をはめて、互いに仲間である事を確認していた。
キラキラと輝く宝石が、翠達の心を後押ししてくれる。
やはり、全員が同じ物を身につけるだけでも、気持ちがだいぶ変わる。
しかも指輪なんて、かなり豪勢である。
そして、キラキラと輝いていたのは、指輪だけではない。
彼らの後ろで、その背中を温めている、ギラギラの太陽。
雪解けを終えた後の太陽も、里に恵みをもたらしてくれる。
今は、大きな仕事に取り掛かろうとしている翠を、静かに見守ってくれていた。
「リータ。絶対に、生きて帰ってきてくれよ。
まだまだお前と、新たな薬も沢山つくりたいからな!」
「そうだね。
僕もまだまだ、兄さんに話していない、旅の話がまだ残ってるんだ。」
「じゃあ、お土産たっぷり持って帰ってきてくれるの、楽しみにしてるぞ!」
「はいはい、ちゃんと持ってきますよ。ちゃんと・・・僕が。」
リータと兄は、がっちり両手を握りあい、目をあわせる。
その光景を見るだけで、2人の仲の良さが容易に想像できる。
リータの兄にとっては、『二度目のお別れ』になってしまうが、今回ばかりは、兄も心配なのだ。
たった1人だけの家族を失ってしまう恐怖は、リータだけの問題ではないのだ。
だから、そんな気持ちをリータも分かっているからこそ、彼はいつでも冷静沈着。
翠達も、リータが無謀な行為に走らない事はよく分かっている。
それでも、里に残って全員の無事を祈ってくれるリータの兄にとって、一番のお土産は、やはり
『弟の帰還』なのだ。
リータの兄は、惜しみながらも弟の両手を離すと、今度は翠に目を向けた。
「ミドリちゃん達も、どうか無事に帰ってきてほしい。
まだまだ君達には、返していない恩が沢山あるんだ。」
「___じゃあ、楽しみにしていますね。」
いよいよ翠達の、『国の運命を定める』
『国命の乱』が、幕を開ける。